感染

宇宙人

文字の大きさ
116 / 419

第9話

しおりを挟む
                        ※※※    ※※※

    ホテルの駐車場に停まっていたプレオの窓を彰一が叩き割り、鍵を開けた。使用したバールを一度地面に置いて、運転席のシートに散らばったガラスの破片を掻き出すキーの差し込み口を、同様にバールで破壊する。中から引き摺りだしたのは、車のイグニッションキーシリンダーだ。
 彰一は、ポケットからホテルで手に入れたマイナスドライバーを出し、一部を手際よく外していく。見張りをしていた祐介が、彰一の背中に言った。

「それ......誰に習ったんだよ」

「親父」

 彰一が短い返事をしたっきり、二人は無言になる。彰一がやっているのは、一昔前に車の窃盗に使われた手法だった。最新の車には通用しない。シリンダーを弄る小さな音と雨音が、やけに大きく聞こえた。浩太と真一から伝えられた事実が、楔のように心と身体を固く繋げ、思考だけが宙を漂っていた。
 黙々と作業を続けていた彰一は、マイナスドライバーを剥き出しになったシリンダーへ差し込んで作業を中断し立ち上がる。

「まあ、気になるよな。あんな話し聞いたらよ......」

 彰一の淡白な声が、祐介には疑問だった。仲間や家族すらも奪った仇が、国や人を守る自衛隊の組織内部にいたという話しに、なんの懐疑も持たないのだろうか。少なくとも、祐介は大きな淀みを自覚している。確定していないからこそ、不安は膨れ上がっていく。

「お前は、なんとも思わなかったのかよ」

「なにも思わなかった訳ないだろ。けど、俺達には、あの二人が必要なことに違いはない。ここで下手に衝突して、妙な距離を作っちまえば、それこそ終わりだ。だろ?」

 そうだけどよ、と祐介が言葉を濁す。彰一は指を鳴らして、マイナスドライバーをシリンダーから抜いた。
 駐車場の入り口から、雨に濡れた異常者が、こちらに向かっていたからだ。素早く人数を確認し、一人しかいないことを確かめると、軽く助走をつけ、蹴り倒し、額にドライバーの尖端を突き立てた。

「あの二人は、正直、凄いと思う。さっきのだって、ぶっちゃけ言わなきゃ良いだけの話だろ。俺達が気付くかどうかなんて分かんないんだしよ。だけど、二人は俺達に教えてくれた。信頼関係を築くなんて、それだけで充分なんだろ?」

 浩太と真一は、話しが終わると同時に、俺達にも責任の一端はあると、四人に土下座をしていた。それほど、真摯に四人と向き合ってくれていたのだろう。代わりに生まれるかもしれない猜疑心に駆られた四人に、二人は傷つけられることすら覚悟していたのかもしれない。そんなマイナス面すら度外視してまで、二人は語ってくれていたのだろうか。

「彰一ってさ......なんか、凄いよな」

「はあ?いきなり何言ってんだよ、気持ち悪いな、お前......」

 シリンダーにマイナスドライバーを差し込み、作業を再開する。照れているのか、さきほどよりも、背中が小さく映った。

「いや、俺と同じ年齢なのに、なんか物事に対する見方が落ち着いてるなって......不良のくせに」

「なんだよそれ、皮肉のつもりか?」

 彰一は、口に含むように笑った。慌てて祐介は首を振る。

「違うって!俺は、さっきの話しで表面しか見えてなかったからさ」

「祐介、本当に凄い奴ってのは、俺なんかじゃない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...