101 / 419
第2話
しおりを挟む
「いい加減にしろよ真一!あいつの安否を気にしてんのはお前だけじゃない!あの時、俺がもっと注意してれば達也は一人にならなかった!俺だって今すぐ助けに行きたい!けどな、もう俺達だけじゃないんだよ!」
肩で呼吸を繰り返している浩太に、とうとう加奈子が涙を流し始めた。
一同に沈黙が訪れ、真一は居心地が悪そうに椅子を払いのけてから、立ち上がり、浩太が配った食品を持って扉に向かう。
真一の背中に、鋭く浩太が言った。
「真一、どこに行くつもりだよ」
「うるせえ......ちょっと頭冷やしてくるだけだぜ......お前もそうしろよ」
バタン、と閉じられた扉の音が、やけに大きく響いた。真一を殴った拳は、血が滲んでいた。
しかめっ面の浩太は、真一が座っていた椅子を立てて腰を落とし、頭を抱えた。後悔ばかりが浮かんでくる。
真一は、隣の部屋に入ったようだ。直後、壁に何か大きな物を叩きつけたような物音がした。様子を見に行こうと、腰をあげた浩太の肩を彰一が押さえて首を振った。
「俺が行く」
「あ、なら、俺も」
「いや、祐介はここにいろ。気が立ってる奴を相手にするんだ。もしもの場合、ろくに喧嘩もしたことがないお前がいても、邪魔になるだけ」
祐介は挙げかけた右手を下ろし、不満そうに舌を打つと、図星かよ、と言って彰一は笑った。自然と、阿里沙の口元も弛んだ。
「そうだね。祐介君が喧嘩してるとこなんて見たことないかも」
「んなことないって!俺だって喧嘩くらい......」
反論しようとした所を、彰一が被せる。
「はいはい。そんじゃ、頼もしい祐介には、何かあった時に知らせにくる連絡係りに任命してやるよ。じゃあな」
そう残して、彰一は部屋を出た。幾分かは和らいだ空気は、浩太以外の三人に余裕を生ませた。
厳しい表情で俯く浩太に、おずおずと祐介が声を掛ける。
「あの......岡島さんでしたよね?」
不意に呼ばれ、浩太は顔をあげた。疲れが色濃く残ったような目をしている。しまった、と顔を伏せたが、阿里沙は見逃さずに訊いた。
「大丈夫ですか?なんだか、とても疲れてるみたい......」
救助した相手に気遣われるとは、どうにも情けなかった。下澤なら、こんな時、弱味を見せるような真似はしないだろう。
浩太は、取り繕うように言った。
「ああ、大丈夫だ。少し、申し訳なくてな......ようやくあの地獄から抜け出せたのに、今度は俺達の言い合いまで見せちまって......」
加奈子に目を向けると、びくり、として阿里沙の後ろに、また隠れてしまう。自己紹介の時からこんな様子だったので、気にしていなかったが、浩太は、警戒を解そうと微笑んだ。
「初めまして、おじさんは岡島浩太っていうんだ。君の名前は?」
阿里沙が申し訳なさそうに言う。
「あの、この娘、ご両親を目の前で襲われてから......その......声が......」
「ああ......そうか......普段はどうやって会話を?」
祐介が、加奈子の頭を撫でてやると、小さく頷き、ポケットからノートを出した。なるほど、と浩太は納得した。差し出されたポケットノートに書かれた文字を読んで、浩太は、出来るだけ破顔した。
「よろしくな、西村加奈子ちゃん」
肩で呼吸を繰り返している浩太に、とうとう加奈子が涙を流し始めた。
一同に沈黙が訪れ、真一は居心地が悪そうに椅子を払いのけてから、立ち上がり、浩太が配った食品を持って扉に向かう。
真一の背中に、鋭く浩太が言った。
「真一、どこに行くつもりだよ」
「うるせえ......ちょっと頭冷やしてくるだけだぜ......お前もそうしろよ」
バタン、と閉じられた扉の音が、やけに大きく響いた。真一を殴った拳は、血が滲んでいた。
しかめっ面の浩太は、真一が座っていた椅子を立てて腰を落とし、頭を抱えた。後悔ばかりが浮かんでくる。
真一は、隣の部屋に入ったようだ。直後、壁に何か大きな物を叩きつけたような物音がした。様子を見に行こうと、腰をあげた浩太の肩を彰一が押さえて首を振った。
「俺が行く」
「あ、なら、俺も」
「いや、祐介はここにいろ。気が立ってる奴を相手にするんだ。もしもの場合、ろくに喧嘩もしたことがないお前がいても、邪魔になるだけ」
祐介は挙げかけた右手を下ろし、不満そうに舌を打つと、図星かよ、と言って彰一は笑った。自然と、阿里沙の口元も弛んだ。
「そうだね。祐介君が喧嘩してるとこなんて見たことないかも」
「んなことないって!俺だって喧嘩くらい......」
反論しようとした所を、彰一が被せる。
「はいはい。そんじゃ、頼もしい祐介には、何かあった時に知らせにくる連絡係りに任命してやるよ。じゃあな」
そう残して、彰一は部屋を出た。幾分かは和らいだ空気は、浩太以外の三人に余裕を生ませた。
厳しい表情で俯く浩太に、おずおずと祐介が声を掛ける。
「あの......岡島さんでしたよね?」
不意に呼ばれ、浩太は顔をあげた。疲れが色濃く残ったような目をしている。しまった、と顔を伏せたが、阿里沙は見逃さずに訊いた。
「大丈夫ですか?なんだか、とても疲れてるみたい......」
救助した相手に気遣われるとは、どうにも情けなかった。下澤なら、こんな時、弱味を見せるような真似はしないだろう。
浩太は、取り繕うように言った。
「ああ、大丈夫だ。少し、申し訳なくてな......ようやくあの地獄から抜け出せたのに、今度は俺達の言い合いまで見せちまって......」
加奈子に目を向けると、びくり、として阿里沙の後ろに、また隠れてしまう。自己紹介の時からこんな様子だったので、気にしていなかったが、浩太は、警戒を解そうと微笑んだ。
「初めまして、おじさんは岡島浩太っていうんだ。君の名前は?」
阿里沙が申し訳なさそうに言う。
「あの、この娘、ご両親を目の前で襲われてから......その......声が......」
「ああ......そうか......普段はどうやって会話を?」
祐介が、加奈子の頭を撫でてやると、小さく頷き、ポケットからノートを出した。なるほど、と浩太は納得した。差し出されたポケットノートに書かれた文字を読んで、浩太は、出来るだけ破顔した。
「よろしくな、西村加奈子ちゃん」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる