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第2話
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「いい加減にしろよ真一!あいつの安否を気にしてんのはお前だけじゃない!あの時、俺がもっと注意してれば達也は一人にならなかった!俺だって今すぐ助けに行きたい!けどな、もう俺達だけじゃないんだよ!」
肩で呼吸を繰り返している浩太に、とうとう加奈子が涙を流し始めた。
一同に沈黙が訪れ、真一は居心地が悪そうに椅子を払いのけてから、立ち上がり、浩太が配った食品を持って扉に向かう。
真一の背中に、鋭く浩太が言った。
「真一、どこに行くつもりだよ」
「うるせえ......ちょっと頭冷やしてくるだけだぜ......お前もそうしろよ」
バタン、と閉じられた扉の音が、やけに大きく響いた。真一を殴った拳は、血が滲んでいた。
しかめっ面の浩太は、真一が座っていた椅子を立てて腰を落とし、頭を抱えた。後悔ばかりが浮かんでくる。
真一は、隣の部屋に入ったようだ。直後、壁に何か大きな物を叩きつけたような物音がした。様子を見に行こうと、腰をあげた浩太の肩を彰一が押さえて首を振った。
「俺が行く」
「あ、なら、俺も」
「いや、祐介はここにいろ。気が立ってる奴を相手にするんだ。もしもの場合、ろくに喧嘩もしたことがないお前がいても、邪魔になるだけ」
祐介は挙げかけた右手を下ろし、不満そうに舌を打つと、図星かよ、と言って彰一は笑った。自然と、阿里沙の口元も弛んだ。
「そうだね。祐介君が喧嘩してるとこなんて見たことないかも」
「んなことないって!俺だって喧嘩くらい......」
反論しようとした所を、彰一が被せる。
「はいはい。そんじゃ、頼もしい祐介には、何かあった時に知らせにくる連絡係りに任命してやるよ。じゃあな」
そう残して、彰一は部屋を出た。幾分かは和らいだ空気は、浩太以外の三人に余裕を生ませた。
厳しい表情で俯く浩太に、おずおずと祐介が声を掛ける。
「あの......岡島さんでしたよね?」
不意に呼ばれ、浩太は顔をあげた。疲れが色濃く残ったような目をしている。しまった、と顔を伏せたが、阿里沙は見逃さずに訊いた。
「大丈夫ですか?なんだか、とても疲れてるみたい......」
救助した相手に気遣われるとは、どうにも情けなかった。下澤なら、こんな時、弱味を見せるような真似はしないだろう。
浩太は、取り繕うように言った。
「ああ、大丈夫だ。少し、申し訳なくてな......ようやくあの地獄から抜け出せたのに、今度は俺達の言い合いまで見せちまって......」
加奈子に目を向けると、びくり、として阿里沙の後ろに、また隠れてしまう。自己紹介の時からこんな様子だったので、気にしていなかったが、浩太は、警戒を解そうと微笑んだ。
「初めまして、おじさんは岡島浩太っていうんだ。君の名前は?」
阿里沙が申し訳なさそうに言う。
「あの、この娘、ご両親を目の前で襲われてから......その......声が......」
「ああ......そうか......普段はどうやって会話を?」
祐介が、加奈子の頭を撫でてやると、小さく頷き、ポケットからノートを出した。なるほど、と浩太は納得した。差し出されたポケットノートに書かれた文字を読んで、浩太は、出来るだけ破顔した。
「よろしくな、西村加奈子ちゃん」
肩で呼吸を繰り返している浩太に、とうとう加奈子が涙を流し始めた。
一同に沈黙が訪れ、真一は居心地が悪そうに椅子を払いのけてから、立ち上がり、浩太が配った食品を持って扉に向かう。
真一の背中に、鋭く浩太が言った。
「真一、どこに行くつもりだよ」
「うるせえ......ちょっと頭冷やしてくるだけだぜ......お前もそうしろよ」
バタン、と閉じられた扉の音が、やけに大きく響いた。真一を殴った拳は、血が滲んでいた。
しかめっ面の浩太は、真一が座っていた椅子を立てて腰を落とし、頭を抱えた。後悔ばかりが浮かんでくる。
真一は、隣の部屋に入ったようだ。直後、壁に何か大きな物を叩きつけたような物音がした。様子を見に行こうと、腰をあげた浩太の肩を彰一が押さえて首を振った。
「俺が行く」
「あ、なら、俺も」
「いや、祐介はここにいろ。気が立ってる奴を相手にするんだ。もしもの場合、ろくに喧嘩もしたことがないお前がいても、邪魔になるだけ」
祐介は挙げかけた右手を下ろし、不満そうに舌を打つと、図星かよ、と言って彰一は笑った。自然と、阿里沙の口元も弛んだ。
「そうだね。祐介君が喧嘩してるとこなんて見たことないかも」
「んなことないって!俺だって喧嘩くらい......」
反論しようとした所を、彰一が被せる。
「はいはい。そんじゃ、頼もしい祐介には、何かあった時に知らせにくる連絡係りに任命してやるよ。じゃあな」
そう残して、彰一は部屋を出た。幾分かは和らいだ空気は、浩太以外の三人に余裕を生ませた。
厳しい表情で俯く浩太に、おずおずと祐介が声を掛ける。
「あの......岡島さんでしたよね?」
不意に呼ばれ、浩太は顔をあげた。疲れが色濃く残ったような目をしている。しまった、と顔を伏せたが、阿里沙は見逃さずに訊いた。
「大丈夫ですか?なんだか、とても疲れてるみたい......」
救助した相手に気遣われるとは、どうにも情けなかった。下澤なら、こんな時、弱味を見せるような真似はしないだろう。
浩太は、取り繕うように言った。
「ああ、大丈夫だ。少し、申し訳なくてな......ようやくあの地獄から抜け出せたのに、今度は俺達の言い合いまで見せちまって......」
加奈子に目を向けると、びくり、として阿里沙の後ろに、また隠れてしまう。自己紹介の時からこんな様子だったので、気にしていなかったが、浩太は、警戒を解そうと微笑んだ。
「初めまして、おじさんは岡島浩太っていうんだ。君の名前は?」
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「あの、この娘、ご両親を目の前で襲われてから......その......声が......」
「ああ......そうか......普段はどうやって会話を?」
祐介が、加奈子の頭を撫でてやると、小さく頷き、ポケットからノートを出した。なるほど、と浩太は納得した。差し出されたポケットノートに書かれた文字を読んで、浩太は、出来るだけ破顔した。
「よろしくな、西村加奈子ちゃん」
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