感染

saijya

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第11話

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    安部は、何も返せず、ドアガラスから外へ視線を預ける。車は中間市と三ヶ森区を繋げるトンネルに入った。
 電気の供給が無くなったトンネルの内部は、暗く、湿った空気が流れているようだった。まるで、今の自分の心に直接入り込んだようだ。
    ある程度、東に影響を受け、自身が犯罪者であると想定し、思考を巡らせることは出来るようになった。
    だが、やはり、安部は東とはどこか違うのだろう。それは、仕方のないことだが、東に対して、この世界を治す相方に対して、劣等感を抱いているのだろうかと思った。俺を理解しろ、昨日、東は安部に言った。完全に理解できる日はくるのか、安部には判断がつかない。
 黙然と外を眺めていた安部に、何を感じたのか、東は突然、話題を打ち切るようにこう言い切った。

「まあ、安心しろよ。小金井の面の皮くらいなら、じっくりと剥いでやるからよ」

「......東さん、小金井さんは我々の仲間ですよ」

「あん?ああ、そうか。俺は安部さんに一つだけ言い忘れがあったな」

「言い忘れ……ですか?」

 安部が顔を向けるまで待った東は、いつもの粘ついたような口調とは違い、幾分か清涼を携えた声をだした。

「俺にとっての仲間は、俺に色をくれた安部さん、アンタだけだ」

 安部は、少し前に、偶然、インターネットで見掛けたサイコパス診断というものの中に、色についての項目がことを思い出した。
 喉が渇いて、自動販売機で飲み物を買おうとしたが、すべての容器が透明だった。商品名も無く、それぞれ色の付いた飲み物が入っているだけの状態で、何色の飲み物を買うか。そんな内容だった。
 それは、無色透明と答えれば、サイコパスと同じになる。
 安部は、その時、ゾッとした。なぜ、そのような返答になるのか分からなかったから、ただただ、気味が悪かった。
 だが、今なら、自分なりにでも分かる。恐らく、世界を片寄った視点から眺めるサイコパスにとって、この世界は、無色なのだろう。だからこそ、東の言葉を借りるなら無関心なのだ。こうして考えると、色で物を見るということを人間は無意識で行っているのかもしれない。もしも、この世から色が無くなったら、どうなってしまうのだろう。
 車は中間のトンネルを抜けた。
 中央分離帯に横たわった使徒が、こちらに必死になって右腕を伸ばしている。右足が第一関節から螺切られており、歩けない使徒の出来損ない。
    彼の濁った瞳には、この街や人間は、どのような景色と色で映っているのだろうか。
    そして、東についた色は、この世界は、どんな着色が施されているのだろうか。
   安部は、一人、自問しながら、遂にはその答えに行き着けはしなかった。
 東の運転する車は、里中から永犬丸電停へ曲がり、今池電停、森下電停を抜け、穴生駅を右折し、穴生ドーム方面へと進んだ。
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