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第10話
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※※※ ※※※
「1860年、この世界に一人の天才が生まれた。ハーマン・ウェブスター・マジェットだ。偽名でホームズを名乗っていたこの男は、ドラッグで金を儲けた後に、あるホテルを建設する。世にも有名な殺人ホテルだ。マジェットしか把握出来ていないホテルの内容は、まるで迷宮のようだった。万博を利用し、宿泊した客をホテル内に施した様々な仕掛けで殺し、金品を奪う。自供した人数だけで二十七人、警察がホテルを調べてみれば、被害者は二百人以上に及ぶだろうと目された」
中間のショッパーズモールの搬入口で、東は隣に立つ安部に語る。安部は、涼しい顔で黙って聞いている。
「こいつは、金を得る方法を数々習得していた。そして、もっとも手っ取り早く収入を得る方法を考え付いた。それが、殺人ホテルの建設だった。実際、よく作られてたみたいでな。地下に繋がった落とし穴、死体の処理をする為に用意された硫酸の溜まった樽、ガスを送り込む部屋、他にもあるみたいだが、一番、マジェットの異常性を物語るのは、地下にある拷問セットだ。これがどういう意味か......分かるか?」
運転席に乗り込んだ東は、煙草に火をつける。搬入口のシャッターの前には、男が一人、小金井だった。
大きく手を振ると、シャッター脇にある操作ボタンを押す。ゆっくりと歪な音をたてながら、シャッターが上がっていく。
予め、使徒を裏の立体駐車場に集めていたので、出入りには不便が無く、東はアクセルを踏んで、一気にシャッターの下を抜けると、車を停めて運転席のドアガラスを落とし、小金井に言った。
「一時間くらいで戻る。良いか?一時間だ。もし、ここにいなかったら、すぐさま、シャッターを爆破するからな」
小金井は笑顔で返す。
「大丈夫、裏切ったりはしない。一時間後にまた......」
そう残して、小金井は操作ボタンを押して、再び響きだしたシャッターの下降音を二人に聴かせた。
完全に閉まってから、安部が口を開く。
「最初こそ、殺人は仕事であると捉えていたが、それが数を重ねる毎に趣味に変わっていった。人を支配する欲にまみれ、拷問を施し、まるで娯楽のように、凶事を行っていた。つまり......」
「そうだ、マジェットにとって、殺人は遊びになったんだ。それは何故だと思う?」
東の問い掛けに、安部を首を捻り考えたが、結局、分からなかった。
「マジェットは、人間に対して、無関心だったんだよ。あるのは、その人間が持つ金への執着と自身の欲望だ......ある意味では、人間的なのかもな」
一区切りつけるように、東は煙草を窓の外へ捨てて続ける。
「さて、ここでこんな言葉がある。エリ・ヴィーゼルの、愛の反対は無関心ってやつだ。聞いたことあるだろ」
「ええ、勿論ですよ」
「ネクロフィリアって奴等は、この愛が死体に向かっている。ただの異常性癖だ。死体と共に寝て、死体と共に起きて、死体と共に風呂に入る。マジェットとは真逆だよな?」
「......その話と、小金井さんがどう関係あるのですか?」
安部は、明らかな不機嫌さを隠さずに鋭く述べた。東は、まあ、聞けよ、と前置きしてから続ける。
「奴が死体愛好家だとしたら、腑に落ちない点がいくつかある。最初に奴は、使徒に喰わせた死体を見てから、満足そうな顔をしていたよな?」
安部は、こくり、と頷いた。
「愛しき骸のかたわらに、夜ごとこの身を横たえる。ネクロフィリアと呼ばれた人間が残した言葉だ。この言葉だけで連想するなら、この死体の状況が分かる。つまりだ、死体を愛するネクロフィリアが、自分が犯した死体でもない、使徒にグチャグチャにされた身体を見て、興奮すると思うか?」
「1860年、この世界に一人の天才が生まれた。ハーマン・ウェブスター・マジェットだ。偽名でホームズを名乗っていたこの男は、ドラッグで金を儲けた後に、あるホテルを建設する。世にも有名な殺人ホテルだ。マジェットしか把握出来ていないホテルの内容は、まるで迷宮のようだった。万博を利用し、宿泊した客をホテル内に施した様々な仕掛けで殺し、金品を奪う。自供した人数だけで二十七人、警察がホテルを調べてみれば、被害者は二百人以上に及ぶだろうと目された」
中間のショッパーズモールの搬入口で、東は隣に立つ安部に語る。安部は、涼しい顔で黙って聞いている。
「こいつは、金を得る方法を数々習得していた。そして、もっとも手っ取り早く収入を得る方法を考え付いた。それが、殺人ホテルの建設だった。実際、よく作られてたみたいでな。地下に繋がった落とし穴、死体の処理をする為に用意された硫酸の溜まった樽、ガスを送り込む部屋、他にもあるみたいだが、一番、マジェットの異常性を物語るのは、地下にある拷問セットだ。これがどういう意味か......分かるか?」
運転席に乗り込んだ東は、煙草に火をつける。搬入口のシャッターの前には、男が一人、小金井だった。
大きく手を振ると、シャッター脇にある操作ボタンを押す。ゆっくりと歪な音をたてながら、シャッターが上がっていく。
予め、使徒を裏の立体駐車場に集めていたので、出入りには不便が無く、東はアクセルを踏んで、一気にシャッターの下を抜けると、車を停めて運転席のドアガラスを落とし、小金井に言った。
「一時間くらいで戻る。良いか?一時間だ。もし、ここにいなかったら、すぐさま、シャッターを爆破するからな」
小金井は笑顔で返す。
「大丈夫、裏切ったりはしない。一時間後にまた......」
そう残して、小金井は操作ボタンを押して、再び響きだしたシャッターの下降音を二人に聴かせた。
完全に閉まってから、安部が口を開く。
「最初こそ、殺人は仕事であると捉えていたが、それが数を重ねる毎に趣味に変わっていった。人を支配する欲にまみれ、拷問を施し、まるで娯楽のように、凶事を行っていた。つまり......」
「そうだ、マジェットにとって、殺人は遊びになったんだ。それは何故だと思う?」
東の問い掛けに、安部を首を捻り考えたが、結局、分からなかった。
「マジェットは、人間に対して、無関心だったんだよ。あるのは、その人間が持つ金への執着と自身の欲望だ......ある意味では、人間的なのかもな」
一区切りつけるように、東は煙草を窓の外へ捨てて続ける。
「さて、ここでこんな言葉がある。エリ・ヴィーゼルの、愛の反対は無関心ってやつだ。聞いたことあるだろ」
「ええ、勿論ですよ」
「ネクロフィリアって奴等は、この愛が死体に向かっている。ただの異常性癖だ。死体と共に寝て、死体と共に起きて、死体と共に風呂に入る。マジェットとは真逆だよな?」
「......その話と、小金井さんがどう関係あるのですか?」
安部は、明らかな不機嫌さを隠さずに鋭く述べた。東は、まあ、聞けよ、と前置きしてから続ける。
「奴が死体愛好家だとしたら、腑に落ちない点がいくつかある。最初に奴は、使徒に喰わせた死体を見てから、満足そうな顔をしていたよな?」
安部は、こくり、と頷いた。
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