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第8話
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※※※ ※※※
「くそ......最悪だ......クソッタレ!」
穴生の商店街から少し外れた鉄竜という地域にある二階建ての一件家で、達也は、リビングに鎮座していたテーブルを蹴り上げた。ひっくり返った衝撃は、家を囲んでいた暴徒を刺激してしまったのか、響いてくる獣声がより一層高まる。
命からがら逃げ切った達也は、弾丸が切れ、ただの鉄に成り下がった89式小銃を忌々しそうに睨み、鬱憤を晴らすように床に叩きつけた。フローリングの床が、大きな傷付いたのを見て、ほんの少しばかり、心が晴れた気がした。ソファに腰を落ち着かせ、達也は手を組んで庭先を窓から眺める。
背の高いコンクリートの壁が民家を一周する作りになっており、暴徒が侵入するには、玄関を破るしか方法がない。だが、小倉の駐屯地で起きた出来事を達也は忘れていない。そんなものは、暴徒の集団にとって、なんの足枷にもならないだろう。突破されるのも時間の問題だ。
いつまでも、命を脅かされるストレスは尋常ではない。加えて、達也は強い孤独感に苛まれていた。
そして、負の感情を雨が掻き立てた。必死に消し去ろうと、胸ポケットを探り煙草を取り出すが、一本も残っていなかった。悪態をつきながら、空箱を握り潰すと同時に、微かだが、二階で確かに足音が聞こえた。
達也は、慌てて立ち上がり、天井を見上げ、耳を澄ました。次に聞こえたのは、扉を締める音だ。慎重になりつつも、あちらにも焦りがあるのか、カチャン、という何気ない生活音にまで配慮はできていないようだ。
つまり、注意深く行動しており、それは、達也の存在に気付いているという意味に他ならない。
確か、玄関から入った脇に、階段があったはずだ。達也は、一人ではなかったのだと素直に喜び、すぐさまリビングを抜けて二階へ上がろうと考えたが、直前になって思い留まった。
「頭のイカれた二人組のサイコ野郎がいやがったんだよ」
真一の言葉を思い出した。そうだ、あの事故から一日が経過している。今、生き延びている人間は、それなりの事を経験してきた人間なのだ。用心に越したことはない。
達也は、リビングからキッチンに移動し、シンクを見下ろた。足元の棚を開いてみると、包丁入れは何も残されていない状態だった。達也は、顔を歪ませる。
ここは、一般家庭が暮らしていたであろう家だ。一人暮らしの大学生のような杜撰な食事を作る際に使用する刃先が丸まった刃物はない可能性が高い。あったとしても、全てを抜いている所に、かなりの警戒心を匂わせる。
次に、冷蔵庫を開けるが、見事に空になっていた。籠城を決め込んでいたのだろう。
達也は、キッチンから離れると、89式小銃を拾って構えた。いくら弾丸を撃てなくても、威嚇くらいにはなるかもしれない。ナイフも逆手に持って、階段へ戻り、一段目に足を掛けた。
達也の胸からは、喜びの感情は無くなり、代わりにどす黒い渦が巡り始めている。それは、猜疑心を極限まで高めていき、やがて殺意と呼ばれるものにまで姿を変えつつあった。
暴徒が達也の尻を叩くように玄関を揺らす音が激しくなっていく。
二階に到着すると、狭くまっすぐな廊下が現れ、途中には、扉が二枚ある。どちらかに、誰かがいるのだ。
達也が、手前の扉に立ち、深呼吸を挟み、ドアノブを回した瞬間、室内から飛び出してきたのは、大きな白い布に身を包んだ生きた人間だった。
「くそ......最悪だ......クソッタレ!」
穴生の商店街から少し外れた鉄竜という地域にある二階建ての一件家で、達也は、リビングに鎮座していたテーブルを蹴り上げた。ひっくり返った衝撃は、家を囲んでいた暴徒を刺激してしまったのか、響いてくる獣声がより一層高まる。
命からがら逃げ切った達也は、弾丸が切れ、ただの鉄に成り下がった89式小銃を忌々しそうに睨み、鬱憤を晴らすように床に叩きつけた。フローリングの床が、大きな傷付いたのを見て、ほんの少しばかり、心が晴れた気がした。ソファに腰を落ち着かせ、達也は手を組んで庭先を窓から眺める。
背の高いコンクリートの壁が民家を一周する作りになっており、暴徒が侵入するには、玄関を破るしか方法がない。だが、小倉の駐屯地で起きた出来事を達也は忘れていない。そんなものは、暴徒の集団にとって、なんの足枷にもならないだろう。突破されるのも時間の問題だ。
いつまでも、命を脅かされるストレスは尋常ではない。加えて、達也は強い孤独感に苛まれていた。
そして、負の感情を雨が掻き立てた。必死に消し去ろうと、胸ポケットを探り煙草を取り出すが、一本も残っていなかった。悪態をつきながら、空箱を握り潰すと同時に、微かだが、二階で確かに足音が聞こえた。
達也は、慌てて立ち上がり、天井を見上げ、耳を澄ました。次に聞こえたのは、扉を締める音だ。慎重になりつつも、あちらにも焦りがあるのか、カチャン、という何気ない生活音にまで配慮はできていないようだ。
つまり、注意深く行動しており、それは、達也の存在に気付いているという意味に他ならない。
確か、玄関から入った脇に、階段があったはずだ。達也は、一人ではなかったのだと素直に喜び、すぐさまリビングを抜けて二階へ上がろうと考えたが、直前になって思い留まった。
「頭のイカれた二人組のサイコ野郎がいやがったんだよ」
真一の言葉を思い出した。そうだ、あの事故から一日が経過している。今、生き延びている人間は、それなりの事を経験してきた人間なのだ。用心に越したことはない。
達也は、リビングからキッチンに移動し、シンクを見下ろた。足元の棚を開いてみると、包丁入れは何も残されていない状態だった。達也は、顔を歪ませる。
ここは、一般家庭が暮らしていたであろう家だ。一人暮らしの大学生のような杜撰な食事を作る際に使用する刃先が丸まった刃物はない可能性が高い。あったとしても、全てを抜いている所に、かなりの警戒心を匂わせる。
次に、冷蔵庫を開けるが、見事に空になっていた。籠城を決め込んでいたのだろう。
達也は、キッチンから離れると、89式小銃を拾って構えた。いくら弾丸を撃てなくても、威嚇くらいにはなるかもしれない。ナイフも逆手に持って、階段へ戻り、一段目に足を掛けた。
達也の胸からは、喜びの感情は無くなり、代わりにどす黒い渦が巡り始めている。それは、猜疑心を極限まで高めていき、やがて殺意と呼ばれるものにまで姿を変えつつあった。
暴徒が達也の尻を叩くように玄関を揺らす音が激しくなっていく。
二階に到着すると、狭くまっすぐな廊下が現れ、途中には、扉が二枚ある。どちらかに、誰かがいるのだ。
達也が、手前の扉に立ち、深呼吸を挟み、ドアノブを回した瞬間、室内から飛び出してきたのは、大きな白い布に身を包んだ生きた人間だった。
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