感染

saijya

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第5話

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                      ※※※  ※※※

 雨が降り始めた。
    早朝七時、いつもなら、すでにトレーニングに入っている時間だが、祐介は白いベッドの上で目を覚ました。一人用にしては、大きすぎるキングサイズのベッドだ。
 ぼんやりとした意識の手綱を掴んだ祐介は、すぐさま布団をはね除け、絨毯が敷かれた床へ両足をついた。ピンクを基調とした室内には、簡易型のスタンドライト、シャワー室、トイレ、と必要最低限のものが揃っている。どうみても、そこは映画やドラマ等で見たラブホテルの一室だった。
 訳もわからず、呆然とする祐介の耳に、ノックの音が響き身構えた。
 そうだ、昨日の朝から、九州地方は地獄へと変貌を遂げているのだった。どうにか、生き残りグループを発見し、警察署からの脱出を成功させたはずだが、そこから先の記憶が、パッタリと途絶えていた。一体、なにがあったんだろうか。
 祐介の思考を断ち切ったのは、もう一度、聞こえたノックだった。そこまで高級な部屋ではないのだろうが、室内には、それなりの広さがある。
    もしも、異常者が侵入してきた時に備え、祐介はスタンドライトを強く両手で握り、足音にも気を使いつつ、細心の注意を払いながら扉に近づいた。のぞき穴から、廊下を窺えば、そこにいたのは、見知った少女の顔だ。
 胸に溜めていた空気を一気に吐き出し、背中を壁に預け、そのまま、ずるずると床に座り込んだ。

「あれ?祐介君、起きてるの?」

 扉越しに亜里沙の声がした。
    祐介は、短く返事をしてから、気だるさを覚えながら立ち上がり、ドアノブを回した。

「おはよう、亜里沙......で、ここにいるってことは、これは現実?」

「おはよう、祐介君、残念だけど、夢じゃないよ」

 亜里沙は、スタスタと迷いの無い足取りで進み、祐介が寝ていたベッドに腰を下ろした。
    不謹慎だが、幼馴染みと、こんな場所にいることに若干の違和感がした祐介は、赤くなった顔を逸らして訊いた。

「なあ、その......ここはどこのホテルだ?」

「幸神だよ。二百号線から少し離れたホテル」

 あっけらかんとした亜里沙の返答に、一人緊張していた祐介は、急に馬鹿らしくなり、溜め息をついた。
    拍子抜けし、亜里沙の正面に立つ。

「......警察署抜けてから、どうなったんだっけ?なんか、記憶がないんだよ」

「あはは、無理もないよ。二人とも、すぐに寝ちゃってたもん......助けてくれた二人組みは覚えてる?」

 祐介は、振り絞るように頭を振って、ほんの少し間を空けてから言った。

「......ああ、覚えてる。確か、自衛官だったよな?」

 亜里沙は、肯定として首を縦に動かした。

「そう。あのあと、二人が揉めてたんだけど、暗くなったから、ひとまず、ここに身を隠すことになったの」

「奴等はいないのか?」

「大丈夫、そんなに数もいなかったから、安全だよ」

 つまり、自衛官の二人組みが、ここにいた異常者を一掃したのだろう。
    祐介は、さすが自衛官だな、と感嘆を洩らした。しかし、その二人の姿がない。壁から背中を離し、扉へと歩き出す祐介の背中に、亜里沙が声を掛ける。

「今は行かない方が良いよ」
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