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第3話
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「では、今の世の中で強者とは?」
「決まってんだろ、自分の身は自分で守れるやつだ。文字通りな」
東は、煙草を階下へ指で弾いた。火が点いたままの煙草は、初老の男性だった死体の開かれた腹部へ落ちる。
守れなかった者の末路が、あれだと言いたいのだろう。
「アンタと俺は一心同体だ。なにかありゃ、半身として俺が守ってやるよ」
「頼りにしていますよ」
安部が、目の前に立つ自身の半身へ言った時だった。突然、二階の出入り口から拍手が響いた。
慌てて二人が顔を向けると、そこにいたのは、二人と年齢が近そうな男が一人、にっこりと笑っていた。見覚えがある。確か、立て籠り組の一人だ。東は、ベルトに挟んでいた拳銃を白々しく抜いて、やや声を張った。
「なんだ?誰だよ」
男は、晴れやかな笑顔を崩さない。それどころか、二人に対して右手を差し出してきた。
不審に感じた安部は、差し出された右手から視線をあげ、包装紙に包まれたような破顔を見た。
「初めまして......俺は小金井っていいます」
男の第一声だ。小金井が右手を軽く振ってから、再び微笑んだところで、東が訝し気に言う。
「なんの用だ。邪魔だ、アイツのようになりたくなければ、俺の視界から一分以内に消えろ」
小金井は、横目で階下の惨状を盗み見た。
人間一人の解体を終えた使徒達が、徐々に初老の男性から離れていく。
残っている胴体は、ぱっくりと割られ、中身は空っぽになっていた。強引に引きちぎられた四肢が、僅かな名残を晒している。
小金井は、鼻を鳴らして両手を叩き始めた。
「いやぁ、さすが狂った世界の中心にいるだけあるなあ......こんな間近で死体が見れるんだから......」
光悦とした表情を浮かべ、男が満足そうに呟いた。
その言葉に、東は眉をひそめる。
「お前、死体愛好家かなんかか?気持ち悪ぃな......」
小金井は、興奮しているのか、東の口舌など意にも介していないようだ。熱っぽい眼差しで口調を荒げた。
「さっきのアンタらの会話も聴いてたよ、最っ高だね!こんなに狂った人間に出会えるなんて、一生のうちにあると思わなかった!ああ、今日はなんて良い日なんだ!ずっと叶わなかった夢が叶ったんだから!」
肩で息を繰り返していた小金井は、そこまでを早口で述べると、急に熱が引いたように俯いた。
そんな小金井に、少し気圧されているのか、安部は口を詰むんでいる。
やがて、小金井は鏡のように冷たい声で言った。
「俺は、もっと死体が見たい......頼む、仲間にしてくれないか?アンタらとなら自分に足りなかったものが埋まる筈なんだ」
「決まってんだろ、自分の身は自分で守れるやつだ。文字通りな」
東は、煙草を階下へ指で弾いた。火が点いたままの煙草は、初老の男性だった死体の開かれた腹部へ落ちる。
守れなかった者の末路が、あれだと言いたいのだろう。
「アンタと俺は一心同体だ。なにかありゃ、半身として俺が守ってやるよ」
「頼りにしていますよ」
安部が、目の前に立つ自身の半身へ言った時だった。突然、二階の出入り口から拍手が響いた。
慌てて二人が顔を向けると、そこにいたのは、二人と年齢が近そうな男が一人、にっこりと笑っていた。見覚えがある。確か、立て籠り組の一人だ。東は、ベルトに挟んでいた拳銃を白々しく抜いて、やや声を張った。
「なんだ?誰だよ」
男は、晴れやかな笑顔を崩さない。それどころか、二人に対して右手を差し出してきた。
不審に感じた安部は、差し出された右手から視線をあげ、包装紙に包まれたような破顔を見た。
「初めまして......俺は小金井っていいます」
男の第一声だ。小金井が右手を軽く振ってから、再び微笑んだところで、東が訝し気に言う。
「なんの用だ。邪魔だ、アイツのようになりたくなければ、俺の視界から一分以内に消えろ」
小金井は、横目で階下の惨状を盗み見た。
人間一人の解体を終えた使徒達が、徐々に初老の男性から離れていく。
残っている胴体は、ぱっくりと割られ、中身は空っぽになっていた。強引に引きちぎられた四肢が、僅かな名残を晒している。
小金井は、鼻を鳴らして両手を叩き始めた。
「いやぁ、さすが狂った世界の中心にいるだけあるなあ......こんな間近で死体が見れるんだから......」
光悦とした表情を浮かべ、男が満足そうに呟いた。
その言葉に、東は眉をひそめる。
「お前、死体愛好家かなんかか?気持ち悪ぃな......」
小金井は、興奮しているのか、東の口舌など意にも介していないようだ。熱っぽい眼差しで口調を荒げた。
「さっきのアンタらの会話も聴いてたよ、最っ高だね!こんなに狂った人間に出会えるなんて、一生のうちにあると思わなかった!ああ、今日はなんて良い日なんだ!ずっと叶わなかった夢が叶ったんだから!」
肩で息を繰り返していた小金井は、そこまでを早口で述べると、急に熱が引いたように俯いた。
そんな小金井に、少し気圧されているのか、安部は口を詰むんでいる。
やがて、小金井は鏡のように冷たい声で言った。
「俺は、もっと死体が見たい......頼む、仲間にしてくれないか?アンタらとなら自分に足りなかったものが埋まる筈なんだ」
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