感染

宇宙人

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第5話

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    扉の前で響いていた咀嚼音もなくなり、ようやくあの生き地獄のような時間が過ぎたのかと、彰一は息をついた。祐介は、変わらず畳の上で大の字になって涙を流しているが、それも仕方のないことだろう。
 閂の役割をしているパイプを抜くしか、この武道場を出る手段がないが、逆を言えば、そこさえ抜かれなければ、異常者達もこちらに侵入することはないという意味だ。
    ひとまずの安全を確立できたことを冷静に考え、彰一は言った。

「このまま、クソ共がどこかに行くのを待つしかないだろうな」

 祐介も、阿里沙も、加奈子も何も返さない。ただ、早くこの時間が終わるように願い、虚空へ虚ろな瞳を流しているだけだ。
 悪態をつき、彰一は窓から玄関を見下ろした。一階に集まっていた避難者の肉に群がる異常者達の数は、まだまだ増えているようだ。
    黒崎は、最近になって、急に大型のマンションの建設や、大型デパートの進出が増えたからか、さほど広くはないにしろ、その人口は増えてきていた。工業都市の一面もあり、出稼ぎに来ていた他県の人間もいる。それが、そのまま異常者の数を表しているのかと思うと、立ち眩みがしそうだった。警察署内にいるだけでも五十人は容易に越えるだろう。まるで、出口が見えない冷たい洞窟にでもいるような感覚だった。暗い穴から吹く風の空気はひどく寒い。

「......なあ、どうしてこうなったんだと思う?」

 それが、祐介が発した質問だと理解したのは、数秒後だった。だが、その問いかけの解答を誰も持ち合わせてはいない。彰一が首を振って、声量を抑えつつ言った。

「知るかよ。少なくとも、俺達は巻き込まれただけだろうが」

 祐介は上半身だけをあげて、右手にあるM360を見つめる。形見となった拳銃は、なぜかすぐに祐介の手に馴染んだ。

「拳銃なんてさ、悪意の塊みたいなもんじゃないか?強盗や殺人、テロに処刑、戦争......いろんな場所や国で使われる。けど、俺達が実際に目にする機会は少ない。それだけ俺達は、悪意ってやつから遠ざかっていたのか?」

 祐介の言葉に、彰一は鼻を鳴らす。

「何をいきなり語り出してんだよ。お前、馬鹿か?」

「良いから答えてくれよ......頼むから......」

 模索しながら、見えないなにかに縋ろうと必死に足掻いている。その目に写らない何かを、つまりは、悪意を形にして欲しいとごねていた。その対象を異常者にすることで、崩れる寸前の自我に、ストッパーをつけようと手探りをしているのだろう、と臆度した彰一は、大儀そうに頭を掻いた。
   そんなことをして一体なんの意味があるのだろうか。
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