感染

saijya

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第3話

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 それは、正義感なのか、はたまた、使命感なのかは分からない。だが、田辺はこれが記者としてのあり方と信念を持って活動している。
    午前、十一時時三十分、浜岡のアドバイス通りに、一度自宅へ戻る途中、これから起こす行動に対して気持ちを整える為の切っ掛けとして、自販機でホット缶コーヒーを購入し、アパートに到着するや一気に飲み干してから、鞄を開く。実りの少ない取材ノートを読み直す振りをして、部屋で数時間、意味の無い時間を過ごすのも慣れたものだ。
 今や、日本の中枢に於いて重要なポジションに就いている同級生、野田省吾は、一体どんな顔をして出迎えてくれるのだろうか。間違いなく良い顔はされないだろうが、聞けるだけは聞きだしてやろう。それが僕の仕事だ。
 田辺は自宅の玄関を開けると、クローゼットからクリーニングしたばかりのスーツを引っ張り出し、髭を剃って、リビングの壁時計を見上げた。

                      ※※※ ※※※

「うっ......」

 真一が、目を覚まして最初に見たのはカーキ色の天井だった。痛みが強い後頭部を抑えてみれば、ぬるりとした感触がある。衝突した時にぶつけたのだろう。
 次に、四肢の動きを指先からゆっくり確認した。骨折のような怪我はないようだ。
    身体の上に乗った銃火器を押し退け、運転席に繋がる小窓を開く。

「おい......お前ら無事か?こっちは大きな怪我はしてないみたいだけど……」

 数秒して、浩太の曇もった返事があった。

「ああ......はは、奇跡だな......生きてる......」

運転席から、咳を交えた声がする。

「何が奇跡だっての......無茶苦茶な指示出しやがって......マジでなんで生きてんのか分からねぇよ……」

「生きてるだけで、儲けもんだろ」

 瓦礫が崩れる音がした。浩太が返事をしつつドアを開けたようだ。二、三度咳き込んで、腰からナイフを抜くと、荷台を覆うカーキ色の布を切り裂き、真一を下ろした。
 達也が、エンジンをかけようと何度か鍵を回すが、空回りを繰返しており、苦々しくハンドルを拳で叩く。

「くそ!イカれちまったみてぇだ!」

「......しょうがないだろ。幸い、タイヤは無事なんだ。変わりになる足を探すしかないな」

「そんなもんどこにあるってんだよ!」

 浩太に苛立ちをぶつけた達也は、はっ、と自分の口を塞ぎ、小さく呟くように謝罪した。度重なる命のやり取りに精神が磨耗しているだろう。浩太は、首を振ってみせると、真一が口を挟んだ。

「とにかく、ここから出ようぜ」

 埃を叩く仕草をする。崩れた柱や壁がトラックに寄りかかり、どうにかバランスを取っている状態だ。少しでもズレると傾いた支柱が音をたてて三人を潰す可能性もあった。
 三人は、89式小銃に新しいマガジンを押し込み、瓦礫をかき分けながら、慎重に門司港レトロに出た。
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