感染

saijya

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第13話

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    吹き飛ばされる防衛線と異常者、衝撃に耐えきれず、砕かれた門の一部が警察署のガラスを破り、その先にいた男性の胸を貫いた。
 排気音が遠ざかっていく。祐介達にとって、最悪の事態が訪れた。最初に気付いたのは、加藤だ。
 手榴弾の爆発から身をまもる為に伏せていた加藤に、長い影が重なる。嫌な汗が全身から流れ出した。右手に持っていた拳銃を横になったまま構えたが、もう手遅れだ。数人の異常者の下敷きになる形で、覆われた。

「ぎゃあああああああ!」

 加藤の絶叫は、胸を抉られるような痛苦の叫びだった。
 止めてくれ、助けてくれ、と乞うが、異常者達の獸じみた食事は終わらない。加藤は、力任せに切断された右腕を涙で霞んだ瞳で垣間見た。やがて、強引に腹へ捻り込まれた両手が脇腹に向かって広がっていく。開ききる前に、 四本の腕が晒された臓器に伸び、一人は直接、顔面を埋ずめた。
 加藤の金切り声が大きくなり、やがて萎んでいく。

「いやああぁぁぁ!おとうさあああん!」

「阿里沙!駄目だ、行くな!」

「離して!離してよ!」

 祐介が阿里沙にしがみつくと同時に、父親が言った。

「祐介!阿里沙ちゃんを二階へ連れていくぞ!」

 銃声が響き始める。だが、いくら銃を扱えようとも、人に当てる練習はしていない上に、爆発により発生した土煙も邪魔をしている。このままでは、続々と侵入する異常者達に押しきられてしまうことは明らかだった。
 祐介は、頷くと阿里沙を父親に任せ、彰一の手を握った。

「お前も来い!早く!」

 彰一は、厭忌に満ちた形相で舌打ちを一つ挟んだ。
    辺り一面に反響する悲鳴は、増えていく一方だ。父親は、床に落ちていたパイプを一つ拾い、近寄ってきた異常者の頭部をバットを振るように殴りつけた。
 瞬く間に地獄と化した八幡西警察署、四人は、階段を駆け上がる。途中、背後にいた女性が、異常者の波に呑まれてしまったが、振り返ることも出来なかった。
    二階に到着すると、父親が階段を上がってきていた異常者を蹴り落とし、祐介に阿里沙を預けて言う。

「先にいけ!武道場の場所は分かるだろ!」

「親父は!」

「あとから行く!心配するな!」

 祐介は、逡巡したが、とにかく今は阿里沙を安全な場所に運ぶ方を優先した。

「行くなら早くしろ!糞共が上がってきたらキリがないぞ!」

 彰一が手にしたナイフを先頭の一人に投げ、異常者は後続を巻き込みながら、倒れていく。祐介は、武道場へ走りだした。二階廊下の中央にノブがない木製の扉がある。そこが武道場だ。真鍮性の取ってに手を掛け、二枚扉を引いて広げると、そこにいた加奈子の顔色がさっと変わる。
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