感染

saijya

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第6話

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   よろけた使徒と距離をとり、車を停める。集まり始めたら、再び距離をとる。こんなことを八幡東区に入ってから続けていた。もう、ずいぶんな人数を集めきっている。国道三号線に入った直後、助手席の男が低く呟いた。

「東さん......我々の目的はなんですか?」

 東は、迷うこともなく即答する。

「使徒を増やして、世界に罰を与える、だろ?安部さん」

 やや疲れたように、東が一息ついた。

「だったらよぉ、ちゃっちゃと俺に殺らせろよ。なんのために武器を調達したと思ってんだ?」

「では、その武器を使用するには、何が必要ですか?」

 まるで子供にナゾナゾを出し、答えを待つ大人みたいな口調だな、と内心で苦笑する。

「弾丸だろ?安心しろよ。いざとなったら、シャーペン一本でも殺ってやるからよ」

 安部は、その言葉を首を振って否定した。 

「正解ですが、後半は駄目ですね。武器というのはあくまで手段の一つです。噛まれなければ使徒にはならないようですしね」

 東が不愉快そうに眉を寄せた。どうもこの安部という男は、考えが読みにくい。その上、能面でも被っているかのように表情を動かすこともあまりない。いや、面の方がまだ切り替えが利く分、まだマシだ。
 苛立った東が、乱暴にクラクションを鳴らす。音に寄せられた使徒が集まってきた。

「いまいち、アンタの考えが読めねえんだよなぁ......それに、俺が聞きたいのは、そんなことじゃねえよ」

「分かっていますよ。彼らを集めて何をするのかを聞きたいのでしょう」

「分かってんなら教えろや!こっちは、あの自衛官二人をアンタにお預けされてんだ!お楽しみを奪われちまってストレスたまってんだよ!」

 安部は、喚き声を涼しい顔で聞き流したのか、ドアガラスの外を眺めている。車は桃園の交差点に差し掛かっていた。右手にある巨大電光盤が焼け焦げた臭いを発している。
 眼鏡の奥で安部の目付きが細くなった。 

「東さん、殺人を楽しんではいけません。貴方も、既に神の使いなのですから」

「あ?じゃあ、どうやって手っ取り早く増やすんだよ!」

「焦らずに考えて下さい。良いですか?」

 得心がいかないが、東は渋々といった感じで頷いた。

「まず、私はこう思考します。あなたの言うように、要領よく使徒を誕生させるにはどうするか。貴方なら、どうしますか?」

 安部の質問は、要約すれば、どう大量に殺人を行うか、という意味だ。
    噛まれる、という行程を省くのなら、まず、東が思い浮かべたのは毒ガスの使用、次に銃器の使用だった。だが、毒は準備に時間がかかる上に、屋外なら意味はない。条件を満たすのは銃器だが、先程、安部は銃器は使わないと言っていた。いや、そもそも、噛まれなければいけないのだから、この思考に意味がない。
 東は、しばらく沈黙していたが、やがて左手を挙げた。降参という意味だ。

「単純ですよ。人が多い場所に彼らをぶつければ良い、それだけです」

「どこにいるか分かんねえから、苦労してんだろうが……」
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