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第16話
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「真一......」
「立てよ!諦めてる暇がなんざないんだぜ!歯を食いしばって立て!」
真一の指から垂れる一筋の血が鮮やかに写った。ここにくるまでに幾度となく見てきた色。日常の真ん中では、見れるようなものではない凄惨を極める景色のど真ん中、ここが世界の中心とも思える。響く暴徒の足音、上空にいるアパッチ、崩壊した関門橋、その全てを受け入れられなかった。
「無理だろ......常識で考えろよ......こんな状況で生きてどうすんだ?これから先に何があるんだよ......」
「常識なんざ常識が通用する場所にしかないだろ!何があるとか知るか!何かがあったとしても、こんなとこで死ねば、何もないぜ!」
真一は、力任せに浩太の胸ぐらを掴んだ。
「下澤さんは、最後をお前に託したんだ!お前に任せる、そう言っただろうが!浩太、もう一回だけ言ってやるぜ、下澤さんの言葉を無駄にするような、らしくない真似をするな!」
浩太の手から下澤の手首が落ちる。
鈍い音をたてたそれを浩太は見下ろした。市民を守る、その気持ちを持ち続けた下澤は、確かに浩太に、任せる、と言った。
何をだ?生きることを?いや、違う。
下澤は、人を守りぬく意思を広太に預けた。なら、俺に出来ることはなんだ。豁然と開いていく視界に、真一の姿がハッキリと映る。
もう、浩太に迷いは消えた。諦めもない。
「分かったよ......真一......下澤さんの意思は、俺が受けとる」
89式小銃の銃口は、浩太の口ではなく、走ってくる暴徒の一人に向けられた。火花が散る。
「遅すぎるぜ、お前......でだ、少ない弾薬で、この状況を打破する案があるか?」
真一の問いに、浩太は暴徒の群れを一目見てから、上空のアパッチを見上げた。ニヤリと笑う。
「弾薬ならあるよ。少し無茶しなきゃならないかもしれないし、一か八かってとこだけどな」
浩太の考えが分かったのか、真一の顔から血の気が引いていく。
「やっぱり、お前を助けなきゃ良かったぜ......」
「後悔すんのは終わってからにしろよ」
砂埃がプロペラの回転が起こす強烈な旋風によって晴れた瞬間、二人は低い唸り声をあげ続ける暴徒の群れに駆け出した。
浩太は、小銃を数発撃ち、踞っていた女性を救助するやいなや、達也のもとへ走る。
「達也!」
汗だくで暴徒の相手をしていた達也は、反射的に振り返り、浩太に銃口を向ける。慌てて止まらなければ、撃たれていたかもしれない。
それほど、達也の表情は切羽詰まっていた。安堵の息を吐いてはいるものの、つり上がった視線のまま言った。
「浩太、ようやく復活しやがったか......」
「悪かったな、愚痴ならあとで聞くから、今はとにかく走れ!」
達也は頓狂な声を出して、勢いのまま続ける。
「馬鹿言うな!奴等がウジャウジャいるんだぞ!死ににいくようなもんじゃねえか!」
「そう、奴等が集まってる、だから良いんだよ!」
達也の返事を聞く前に、浩太は走り出す。背後にいるアパッチのモーター音が変わる。方向転換が完了したようだ。フロントガラスを正面から視認することが出来る。
アパッチ下部に搭載された三十ミリチェインガンが角度の調整に入った。
まだだ、まだ早い。
押し寄せる暴徒に、弾丸を使い尽くす勢いで、トリガーを引き続ける。背後に迫る暴徒の頭部が弾ける。恐らく、二人の内、どちらかの銃弾だろう。それを確認する暇はない。アパッチのチェインガンが怪しい機械音を鳴らす。真一が叫んだ。
「浩太!」
全速力で走り続けた浩太は、無数の車両が放置された中で、大声を発した。
「全員、車両の影に飛び込めぇぇぇ!」
チェインガンが、けたたましい音と閃光を弾かせた。
どれだけ大型の車両であろうと、容易く削り取ってしまう弾丸が、頭上を掠める。数瞬で命を奪う凶悪な三十ミリ弾。だが、弾丸である限り、決して方向を変えられない。それは浩太の目論見通り、数多の暴徒の動きを一瞬で止めさせた。
「立てよ!諦めてる暇がなんざないんだぜ!歯を食いしばって立て!」
真一の指から垂れる一筋の血が鮮やかに写った。ここにくるまでに幾度となく見てきた色。日常の真ん中では、見れるようなものではない凄惨を極める景色のど真ん中、ここが世界の中心とも思える。響く暴徒の足音、上空にいるアパッチ、崩壊した関門橋、その全てを受け入れられなかった。
「無理だろ......常識で考えろよ......こんな状況で生きてどうすんだ?これから先に何があるんだよ......」
「常識なんざ常識が通用する場所にしかないだろ!何があるとか知るか!何かがあったとしても、こんなとこで死ねば、何もないぜ!」
真一は、力任せに浩太の胸ぐらを掴んだ。
「下澤さんは、最後をお前に託したんだ!お前に任せる、そう言っただろうが!浩太、もう一回だけ言ってやるぜ、下澤さんの言葉を無駄にするような、らしくない真似をするな!」
浩太の手から下澤の手首が落ちる。
鈍い音をたてたそれを浩太は見下ろした。市民を守る、その気持ちを持ち続けた下澤は、確かに浩太に、任せる、と言った。
何をだ?生きることを?いや、違う。
下澤は、人を守りぬく意思を広太に預けた。なら、俺に出来ることはなんだ。豁然と開いていく視界に、真一の姿がハッキリと映る。
もう、浩太に迷いは消えた。諦めもない。
「分かったよ......真一......下澤さんの意思は、俺が受けとる」
89式小銃の銃口は、浩太の口ではなく、走ってくる暴徒の一人に向けられた。火花が散る。
「遅すぎるぜ、お前......でだ、少ない弾薬で、この状況を打破する案があるか?」
真一の問いに、浩太は暴徒の群れを一目見てから、上空のアパッチを見上げた。ニヤリと笑う。
「弾薬ならあるよ。少し無茶しなきゃならないかもしれないし、一か八かってとこだけどな」
浩太の考えが分かったのか、真一の顔から血の気が引いていく。
「やっぱり、お前を助けなきゃ良かったぜ......」
「後悔すんのは終わってからにしろよ」
砂埃がプロペラの回転が起こす強烈な旋風によって晴れた瞬間、二人は低い唸り声をあげ続ける暴徒の群れに駆け出した。
浩太は、小銃を数発撃ち、踞っていた女性を救助するやいなや、達也のもとへ走る。
「達也!」
汗だくで暴徒の相手をしていた達也は、反射的に振り返り、浩太に銃口を向ける。慌てて止まらなければ、撃たれていたかもしれない。
それほど、達也の表情は切羽詰まっていた。安堵の息を吐いてはいるものの、つり上がった視線のまま言った。
「浩太、ようやく復活しやがったか......」
「悪かったな、愚痴ならあとで聞くから、今はとにかく走れ!」
達也は頓狂な声を出して、勢いのまま続ける。
「馬鹿言うな!奴等がウジャウジャいるんだぞ!死ににいくようなもんじゃねえか!」
「そう、奴等が集まってる、だから良いんだよ!」
達也の返事を聞く前に、浩太は走り出す。背後にいるアパッチのモーター音が変わる。方向転換が完了したようだ。フロントガラスを正面から視認することが出来る。
アパッチ下部に搭載された三十ミリチェインガンが角度の調整に入った。
まだだ、まだ早い。
押し寄せる暴徒に、弾丸を使い尽くす勢いで、トリガーを引き続ける。背後に迫る暴徒の頭部が弾ける。恐らく、二人の内、どちらかの銃弾だろう。それを確認する暇はない。アパッチのチェインガンが怪しい機械音を鳴らす。真一が叫んだ。
「浩太!」
全速力で走り続けた浩太は、無数の車両が放置された中で、大声を発した。
「全員、車両の影に飛び込めぇぇぇ!」
チェインガンが、けたたましい音と閃光を弾かせた。
どれだけ大型の車両であろうと、容易く削り取ってしまう弾丸が、頭上を掠める。数瞬で命を奪う凶悪な三十ミリ弾。だが、弾丸である限り、決して方向を変えられない。それは浩太の目論見通り、数多の暴徒の動きを一瞬で止めさせた。
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