感染

宇宙人

文字の大きさ
28 / 419

第8話

しおりを挟む
「なあ、なんか変わったとこあった?」

 達也も、この異様な空間に直面して声が少し震えているようだった。浩太は振り返り、肩をすくねる。

「いや、さっぱりだな。確かなのは、暴徒がいないってことくらいか……」

「けど、ここまでは被害が及んでねえってだけで、近付きつつはあるってのは確かだよな……」

 関門橋に視線を移し、続けて近場の工業団地へ首を回した。小倉駅周辺の悲惨な光景とは違い、いつもの日常的な風景が広がっている。時刻は朝の八時だが、出勤している人影がないのは仕方がないことだ。
 浩太は、はっ、として団地の駐車場を見た。

「なんだよ?急にどうした?」

「達也、見てみろよ、駐車場が空だ」 

 ひょい、と身を乗り出した達也は、駐車場を一望する。

「ああ、確かに空みてえだな。それが?」

「ここに停まっている車の持ち主達は、団地の住民達じゃないか?」

「なんでそうなる?」

「まず、第一にこの状況がニュースになっているのは間違いないよな?そして、一斉に避難しようとしたらどうなる?」

 達也は、しばし考えてから言った。

「パニックになるな。まさか、真一が言ったように集団で……」

「可能性はあるな。だが、住民は避難出来なかった。この先にある何かによってな」 

 瞬間、拳銃が激鉄で雷管を叩き、弾丸を発射させた甲高い音が二人の耳に届いた。戛然たる音が辺りに残響し、二人は、咄嗟に遮蔽物として車の陰に飛び込んだ。車で待機していた二人にも聞こえたのか、いつでも飛び込めるようにドアが開かれる。

「達也!着弾点は分かるか!」

 ボンネットを壁にして、僅かに出した目で襲撃者を探すが、それらしき影はない。

「多分、大丈夫だ。音からして距離も離れてるみてえだし、俺達を狙ったって訳じゃなさそうだ」

「じゃあ、なんの銃声だ?」

「行ってみるしかないねえだろうな……」

 二人は、関門橋までの道程を真っ直ぐに見据えて頷いた。通れる道ではないので、トラックは置いていくしかないだろう。真一と下澤も合流する。

「油断するなよ」

 浩太は、たった一言を口にした。それだけで四人の空気が張る。
 敵は、走り回る暴徒だけではない。生きた人間すらも、脅威になりうる。そんな意味が込められているのが、嫌になるほど伝わってきたからだ。今の銃声が一体何を意味するのか、それを確かめる為に、四人は車の隙間をぬって歩き出した直後、四人が預けていた意識を、すっぱりと切り落とすような銃声が再び鳴り響いた。 

「近いな」 

 下澤の呟きに、三人が揃って頷いた。
 慎重な足取りで一歩一歩、確実に歩を進めていき、見えてきたのは、百名以上はいる老若男女の集団だ。それだけの人数がいながら、まるでアクション映画でお馴染みの、人質になった集団のように、膝ま付いて一様に口を閉ざさしている様は、どこか異質だった。
    そして、鼻腔を擽る血の匂いと先程の銃声が、ここで何が起きたかを四人に伝えてきた。
 関門橋の手前、発生した関門橋封鎖任務に当たっていた数十名を指揮する岩下という男は下澤の同期だ。その足下には男性の死体が数十人に分、転がっていた。薄く煙をあげる銃口が、ピタリと先頭にいた男性の額に合う。
 反射のように下澤が叫んだ。

「なにやってんだ、バカ野郎!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...