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第6話
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渋い顔で俊巡する下澤は、切っ掛けを作るようにコーヒーを一息で飲み干した。黙ったままの達也を見ないのは、自らも認めたくない気持ちがあるからだろう。ほんの数秒だが、空気の重さも加わり、まるで一時間は経過しているような感覚に陥った達也へ、下澤はわざとらしく顎を出した。
疲れているから、聞き流せという意味だ。
「俺は、誰かが人為的に起こした事故だと思っている」
達也は二の句が継げなり、唖然とした。目頭を押さえ、僅かに首を振る下澤が、忘れてくれ、そう口にする前に訊いた。
「証拠はあるんですか?」
「……証拠になり得るかは分からないがある」
下澤にしては、えらく歯切れが悪いと達也は思った。それほど、決定的な証拠ではないのだろうか。しかし、それを達也に告げたという事は、見えない重荷を誰かに伝えて、少しでも軽くしたかったのだろう。先を促すように頷くと、下澤は天井を見上げた。
「墜落の原因だが……右翼が破損していた。燃え上がった焦げよりも、巨大な何かが爆発したような丸い焦げ跡があったんだ。あの場にいた自衛隊員以外の殆ども、まだ機内の方に集中していたから、誰かに確認をとってはいないが……つまりな……」
つらつらと話し始めた下澤を遮ったのは、基地に鳴り響いた警報ベルだった。二人ははじかれるように立ち上がる。
次第に大きくなる機械音に混じり、新崎の声が流れだすと、指定された格納庫へ走った。
それから先は、よく覚えていない。基地に押し寄せてきた視界を埋める数の暴徒により、多数の犠牲者を出しながらも二人は基地を脱出した。ただただ、がむしゃらだった。基地での教訓から、生存者であろうと咬傷を負わされていようものなら、目を閉じて耳を塞ぎ、自己満足と理解しながらも謝罪の言葉を口にして見殺しにしてきた。
生き残ることを最優先にしてきたのは、仲間と合流する為だ。
ようやく再会した浩太と真一は、基地でもよく知った信頼の置ける二人、達也は数時間振りに安堵の息を吐くことが出来た。
※※※ ※※※
「達也!生きてたのか!」
トラックを停めた浩太は、運転席から飛び降りて二人が乗るトラックへ大きく手を振った。小銃を構えながら降りた真一は、浩太の無用心さに呆れる。
「浩太、らしくないことするなよ。声はもう少し落とせ……どこから現れるか分からないんだぜ?」
「ああ……悪い……」
銃口を様々な方向に向けながらの戒飭に、配慮が足りなかったと詫びを挟み、二人のトラックを迎えた。
達也と下澤も、銃を手にして降りた。一切ぶれない銃口が、どれだけ二人が警戒を強めているのかを語っているようだ。
下澤が口を開く。
「……二人共、噛まれたりしてないか?」
二人が両手をあげて身体を回し、傷口が無いことを確認させる。そうして、ようやく下澤と達也は、89式小銃を下ろす。
達也はキョロキョロと、数回見回して言った。
「お前らだけか?」
「ああ、そうだ。そっちは?」
達也が首を振った。それだけで全てが分かってしまえる現状に、苛立ちすら覚えた浩太は、悪態をつきながら地面を強く蹴りつけた。
疲れているから、聞き流せという意味だ。
「俺は、誰かが人為的に起こした事故だと思っている」
達也は二の句が継げなり、唖然とした。目頭を押さえ、僅かに首を振る下澤が、忘れてくれ、そう口にする前に訊いた。
「証拠はあるんですか?」
「……証拠になり得るかは分からないがある」
下澤にしては、えらく歯切れが悪いと達也は思った。それほど、決定的な証拠ではないのだろうか。しかし、それを達也に告げたという事は、見えない重荷を誰かに伝えて、少しでも軽くしたかったのだろう。先を促すように頷くと、下澤は天井を見上げた。
「墜落の原因だが……右翼が破損していた。燃え上がった焦げよりも、巨大な何かが爆発したような丸い焦げ跡があったんだ。あの場にいた自衛隊員以外の殆ども、まだ機内の方に集中していたから、誰かに確認をとってはいないが……つまりな……」
つらつらと話し始めた下澤を遮ったのは、基地に鳴り響いた警報ベルだった。二人ははじかれるように立ち上がる。
次第に大きくなる機械音に混じり、新崎の声が流れだすと、指定された格納庫へ走った。
それから先は、よく覚えていない。基地に押し寄せてきた視界を埋める数の暴徒により、多数の犠牲者を出しながらも二人は基地を脱出した。ただただ、がむしゃらだった。基地での教訓から、生存者であろうと咬傷を負わされていようものなら、目を閉じて耳を塞ぎ、自己満足と理解しながらも謝罪の言葉を口にして見殺しにしてきた。
生き残ることを最優先にしてきたのは、仲間と合流する為だ。
ようやく再会した浩太と真一は、基地でもよく知った信頼の置ける二人、達也は数時間振りに安堵の息を吐くことが出来た。
※※※ ※※※
「達也!生きてたのか!」
トラックを停めた浩太は、運転席から飛び降りて二人が乗るトラックへ大きく手を振った。小銃を構えながら降りた真一は、浩太の無用心さに呆れる。
「浩太、らしくないことするなよ。声はもう少し落とせ……どこから現れるか分からないんだぜ?」
「ああ……悪い……」
銃口を様々な方向に向けながらの戒飭に、配慮が足りなかったと詫びを挟み、二人のトラックを迎えた。
達也と下澤も、銃を手にして降りた。一切ぶれない銃口が、どれだけ二人が警戒を強めているのかを語っているようだ。
下澤が口を開く。
「……二人共、噛まれたりしてないか?」
二人が両手をあげて身体を回し、傷口が無いことを確認させる。そうして、ようやく下澤と達也は、89式小銃を下ろす。
達也はキョロキョロと、数回見回して言った。
「お前らだけか?」
「ああ、そうだ。そっちは?」
達也が首を振った。それだけで全てが分かってしまえる現状に、苛立ちすら覚えた浩太は、悪態をつきながら地面を強く蹴りつけた。
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