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第6話
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対照的に父親は、母親の一件で何かが吹っ切れたように、冷静にエンジンを掛ける。出発の準備を淡々と終えていった。
「掴まってろ!」
グン、と車は勢いよく走りだし、祐介の背中がシートに吸い込まれた。ドアガラスを割ろうと奮闘していた異常者は、勢いに釣られて路上に倒れる。マンションの外周を周り、車は200号線に出ると、あちらこちらに徘徊する異常者達は、祐介が乗る車を見るや否や、食事中でも構わずに一斉に走り出す。助手席で祐介が声を張り上げた。
「どうすんだよ!200号線経由じゃ黒崎に着く前に囲まれちまうよ!」
左右に伸びる国道は、まるで屠殺場のような様相を呈している。全ての死体が活動を開始したら二人が乗る軽自動車など、あっという間に横倒しにされるだろう。そこから先は考えたくもなかった。
父親は、苦々しそうに唇を噛むと、国道へ入る前の道路へ車をバックさせた。
「かなり遠回りになるが、仕方がない。鷹見神社の手前から曲がって行くぞ」
それは地元の人間ならば、誰でも知っている裏道のことだった。割子川という川に沿って北上し、田園風景が広がる一帯を横切り、山の麓に入る直前に舗装された脇道がある。そこから高架橋を過ぎ、長い坂道を抜ければ、引野、京良城、幸神といった集合住宅街を一気に無視できる。
だが、祐介はその提案に異を唱えた。
「あそこは道が狭くて車が一台ずつしか通れない!もし、あいつらが群がってたら逃げ道なんてない!」
「穴生を通るつもりか?もしそうなら、黒崎の出入口にあたる熊手の四つ角は通ることになる。穴生は百九十九号線が貫いているし、熊手四つ角は二百号線との合流地点だ。連中が、密集していない可能性があるルートは他にあるか?」
祐介は反論が出来なくなった。
「良いか?こんな時こそ冷静になれ。そして最も危ない橋を渡らずに済む道を探すんだ。あいつの犠牲を無駄にするな」
父親は、ハンドルを切り、市瀬郵便局前を左折する。祐介にとって馴染みの深い駄菓子屋は、破られた入口が大量の血によって打ち水をされたように地面を染めていた。悲痛にくれる祐介は父親に声を掛けた。
「なあ、親父……一体これからどうなっちまうのかな……」
ついつい弱音が飛び出した祐介に、父親としてなにか言ってやりたいと一目見るが、それだけで何も答えられなかった。ましてや、母親を無残に奪われて時間も経過していない。それはお互いにも言えることだが、父親のほうは母親に祐介を守ってくれ、こいつを死なせたら母親に顔向けできない、そう考えることでどうにか吹っ切れてはいた。だが、祐介は精神的な面において、背負うものがない未熟な高校生だ。そう簡単に割り切れるような問題ではないのだろう。
「掴まってろ!」
グン、と車は勢いよく走りだし、祐介の背中がシートに吸い込まれた。ドアガラスを割ろうと奮闘していた異常者は、勢いに釣られて路上に倒れる。マンションの外周を周り、車は200号線に出ると、あちらこちらに徘徊する異常者達は、祐介が乗る車を見るや否や、食事中でも構わずに一斉に走り出す。助手席で祐介が声を張り上げた。
「どうすんだよ!200号線経由じゃ黒崎に着く前に囲まれちまうよ!」
左右に伸びる国道は、まるで屠殺場のような様相を呈している。全ての死体が活動を開始したら二人が乗る軽自動車など、あっという間に横倒しにされるだろう。そこから先は考えたくもなかった。
父親は、苦々しそうに唇を噛むと、国道へ入る前の道路へ車をバックさせた。
「かなり遠回りになるが、仕方がない。鷹見神社の手前から曲がって行くぞ」
それは地元の人間ならば、誰でも知っている裏道のことだった。割子川という川に沿って北上し、田園風景が広がる一帯を横切り、山の麓に入る直前に舗装された脇道がある。そこから高架橋を過ぎ、長い坂道を抜ければ、引野、京良城、幸神といった集合住宅街を一気に無視できる。
だが、祐介はその提案に異を唱えた。
「あそこは道が狭くて車が一台ずつしか通れない!もし、あいつらが群がってたら逃げ道なんてない!」
「穴生を通るつもりか?もしそうなら、黒崎の出入口にあたる熊手の四つ角は通ることになる。穴生は百九十九号線が貫いているし、熊手四つ角は二百号線との合流地点だ。連中が、密集していない可能性があるルートは他にあるか?」
祐介は反論が出来なくなった。
「良いか?こんな時こそ冷静になれ。そして最も危ない橋を渡らずに済む道を探すんだ。あいつの犠牲を無駄にするな」
父親は、ハンドルを切り、市瀬郵便局前を左折する。祐介にとって馴染みの深い駄菓子屋は、破られた入口が大量の血によって打ち水をされたように地面を染めていた。悲痛にくれる祐介は父親に声を掛けた。
「なあ、親父……一体これからどうなっちまうのかな……」
ついつい弱音が飛び出した祐介に、父親としてなにか言ってやりたいと一目見るが、それだけで何も答えられなかった。ましてや、母親を無残に奪われて時間も経過していない。それはお互いにも言えることだが、父親のほうは母親に祐介を守ってくれ、こいつを死なせたら母親に顔向けできない、そう考えることでどうにか吹っ切れてはいた。だが、祐介は精神的な面において、背負うものがない未熟な高校生だ。そう簡単に割り切れるような問題ではないのだろう。
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