感染

saijya

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第4話

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    浩太と真一は、ボディバックを二人で持ち機内へ入った。完全に潰れたコクピットへ繋がる扉は熱でひしゃげている。消防士の活躍もあり、焦げた匂いはするものの鎮火は出来ているようだ。
しかし、マスク越しでも伝わる匂い、もしも、マスクが無かった場合のことなど想像したくもない。
そして、浩太は座席へと目を向ける。

「……うっ!」

    胃の奥から、出掛ける前に飲んだ牛乳が込み上げてきた。身体が吐けるならなんでも良いと訴えてくるようだった。
    浩太の眼界に映っているのは、両腕が上げ、空を掴むように拳を握ったまま、黒焦げになった男性か女性かも判別出来ない死体だ。不時着時に絶命したのなら、両腕は下がっているだろう。つまりは、生きたまま、誰かに助けを求めるように焼かれてしまったのだ。そんな死体も少なからず点在している。 
    真一は、ついに堪えきれなくなったのか、マスクの中に嘔吐した。

「大丈夫か?」

「ああ……ちくしょう……防護服の中がゲロでびしょ濡れだぜ……」

「無理もないな。さて、取りかかろう、いつまでもこのままってのは忍びないしな」

    浩太は、先程、目についた焼死体に手を合わせ、伸ばされた腕を掴み、引き上げようとしたが、肘から千切れてしまい、遂に堪えきれなくなった。二人の後続も機内の景色に絶句してしまっている。嘔吐する者が絶えない中、遺体の回収作業に終了の令が出たのは、二時間後だった。
    浩太はこの仕事について五年目だが、今まで経験したどんな訓練よりも辛い。疲労困憊とは正にこの事なのだろう。そんなことを思いながら、機内から出ようとした時、不意に真一が浩太の肩を荒々しく叩いた。

「なんだよ?一刻も早くここから出たいんだけど……」

「なあ、薬品って、もしかしたら、あれか?」

    すっかり頭から抜けていた。そういえばそんな話しもあった気がする。
    真一が指差したのは床に空いた穴だ。そこから見えたのは、割れた銀色のジェラルミンケースとその中身だった。茶色の毒々しい液体が、粉砕されたガラスのような欠片を浮かべている。間違いない、あれが件の薬品だ。最悪な事に、試験管に入れられていた為、衝撃で洩れてしまっていた。浩太は、真一を引っ張りつつ急いで機内から飛び出す。下澤がいる通信車まで走り、勢いをそのままに、浩太は一息で言った。

「下澤さん!発見しました!恐らく、例の薬品です!」

 血相を変えた下澤は、すぐに通信機へと手を伸ばし、何者かと二言、三言交わすとドアを開き浩太に伝えた。

「専門のチームを派遣するそうだ。場所だけ教えてお前達は撤退してくれ。そろそろ後続の部隊が到着する頃だ」

「下澤さんは?」

「俺にはまだやる事がるんでな。で、場所はどこだ?」

 真一が敬礼する。

「機体最奥の亀裂の隙間で発見しました!」

「分かった。ご苦労」

 下澤の労いに揃って敬礼を返した二人は、墜落現場から離れ、基地へ戻った。
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