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第1部 事故
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「速報です。乗客を五百名ほど乗せた大型旅客機が福岡県北九州市の皿倉山に墜落したと一報が入りました。現場に到着した警察や自衛隊の話しによると、乗客の生存者は確認されておりませんとのことで、絶望的とみられております。尚、積荷の中には厚労省が管理していた薬品が積まれていた可能性があるとのことで漏洩の危険が……」
岡島浩太は、そこでテレビを消した。折角のオフの日に、緊急収集が入ったので、一体何事かとテレビを点けて見れば悲惨な事故現場の映像が流れ出した。
ああ、今日は同僚と遊びにでも出かける予定だったのに、なんて災難な一日なんだ。一人暮らしのワンルーム、洗濯したばかりの迷彩服に袖を通すのも嫌になる。浩太は、冷蔵庫から牛乳を取り出すと一気に飲み干して部屋を出た。
皿倉山といえば日本三大夜景に認定されている八幡東区にある有名な観光スポットだ。そんな所に墜落したなんて、冗談にしか思えない。それも、滅多に無い完全な休日にだ。不謹慎ながらも、車に鍵を差込みながら深い溜息を吐き出すと、アクセルをゆっくりと踏んだ。
集合をかけられた小倉北区の北方の駐屯地まで、浩太の住むアパートからならものの数分で到着する距離なのだが、今日ばかりは行きかう車の数が多い。それも当然だろう、地元では初めての旅客機の事故となれば、マスコミ関係者は黙っていない。
予定よりも大幅に遅刻した浩太は、ドアガラスから顔を出して馴染みの門番に声をかけた。
「お疲れ様、中の様子はどうだ?」
やや疲れた表情で門番の男は肩をすくねる。
「岡島さんも大変ですね。まあ、今日非番だった人は、揃って愚痴を零しながら入っていきましたよ。そっちの対応の方が大変です」
「そりゃ難儀だな。今日の帰りに、呑みにでも行かないか?先日、オープンしたばかりのバーがあるんだけど」
「バーに誘うのは女の子だけで充分でしょう?嫌ですよ。居酒屋なら付き合います」
そりゃそうだと短く笑うとドアガラスを閉めて、駐車場に車を停めた。基地に入ると休日にまでこの光景を見なければいけないのかと、うんざりした気分になった。
さっさと終わらせて残りの時間を楽しもう。そんなことを考えていた浩太の背中を同僚の佐伯真一が叩いた。
「よお、入口で何を呆けてんだよ!久しぶりのオフが潰れて、いまにも泣きそうな面になってるぜ?」
「そんなとこだよ。ああ、何もこんな時に……」
「ご愁傷様、まあ、振り替え休日の申請でもだしておけよ。通るか分かんないけど」
浩太は嫌味たらしく言った真一の頭に腕を回して締め上げた。真一の口元は笑んでいるのでいつものやり取りなのだろう。
まだ、なんの指示も出ていないと真一が言ったので、浩太は私物が入ったバッグをロッカーに放り投げてから、二人は見慣れた基地の中を放送がかかるまで、ふらふらと歩き回っていた。ようやく行動が進みだしたのは、浩太が到着してから一時間後だった。
岡島浩太は、そこでテレビを消した。折角のオフの日に、緊急収集が入ったので、一体何事かとテレビを点けて見れば悲惨な事故現場の映像が流れ出した。
ああ、今日は同僚と遊びにでも出かける予定だったのに、なんて災難な一日なんだ。一人暮らしのワンルーム、洗濯したばかりの迷彩服に袖を通すのも嫌になる。浩太は、冷蔵庫から牛乳を取り出すと一気に飲み干して部屋を出た。
皿倉山といえば日本三大夜景に認定されている八幡東区にある有名な観光スポットだ。そんな所に墜落したなんて、冗談にしか思えない。それも、滅多に無い完全な休日にだ。不謹慎ながらも、車に鍵を差込みながら深い溜息を吐き出すと、アクセルをゆっくりと踏んだ。
集合をかけられた小倉北区の北方の駐屯地まで、浩太の住むアパートからならものの数分で到着する距離なのだが、今日ばかりは行きかう車の数が多い。それも当然だろう、地元では初めての旅客機の事故となれば、マスコミ関係者は黙っていない。
予定よりも大幅に遅刻した浩太は、ドアガラスから顔を出して馴染みの門番に声をかけた。
「お疲れ様、中の様子はどうだ?」
やや疲れた表情で門番の男は肩をすくねる。
「岡島さんも大変ですね。まあ、今日非番だった人は、揃って愚痴を零しながら入っていきましたよ。そっちの対応の方が大変です」
「そりゃ難儀だな。今日の帰りに、呑みにでも行かないか?先日、オープンしたばかりのバーがあるんだけど」
「バーに誘うのは女の子だけで充分でしょう?嫌ですよ。居酒屋なら付き合います」
そりゃそうだと短く笑うとドアガラスを閉めて、駐車場に車を停めた。基地に入ると休日にまでこの光景を見なければいけないのかと、うんざりした気分になった。
さっさと終わらせて残りの時間を楽しもう。そんなことを考えていた浩太の背中を同僚の佐伯真一が叩いた。
「よお、入口で何を呆けてんだよ!久しぶりのオフが潰れて、いまにも泣きそうな面になってるぜ?」
「そんなとこだよ。ああ、何もこんな時に……」
「ご愁傷様、まあ、振り替え休日の申請でもだしておけよ。通るか分かんないけど」
浩太は嫌味たらしく言った真一の頭に腕を回して締め上げた。真一の口元は笑んでいるのでいつものやり取りなのだろう。
まだ、なんの指示も出ていないと真一が言ったので、浩太は私物が入ったバッグをロッカーに放り投げてから、二人は見慣れた基地の中を放送がかかるまで、ふらふらと歩き回っていた。ようやく行動が進みだしたのは、浩太が到着してから一時間後だった。
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