63 / 85
世界終わろう委員会
成仏したはず
しおりを挟む
「ーー尾張さんは、消えてしまいました」
椎堂さんの質問に答える。
「もう、心残りはない?」
「ーー心残りですか? それはーー無いと言えば嘘になりますね。でも、もうそれを果たすことはそもそも出来ないですから」
僕のその諦観にも似た発言に、椎堂さんは、
「そう」
とだけ相槌を打つと、座っていた来客用の椅子から立ち上がり、
「じゃあ、もう自分を許してあげよう?」
と、呟くと、僕の頭を包むように抱きしめる。
「っ椎堂さん⁉︎」
「紀美丹君はよく頑張ったよ? 尾張さんの為にできるだけの事をしてあげた。だからもう、自分を責めなくてもいいんだよ?」
僕が自分を責めている?
そんなこと。そんなことは、あるのかもしれない。ーーいや、ずっとそうだった。あの日尾張さんを一人で帰したりしなければ。僕がちゃんと家まで送っていれば。尾張さんと水城の間に何があったのかもっと早く気付いていたら。ーーきっと尾張さんが水城に殺されることはなかった。
だからあの日。ーー尾張さんの幽霊に出会った日。僕は彼女が怖かった。彼女に責められるのが怖かった。ーーだけど、それでも彼女が好きだったから。彼女にできるだけの事をしてあげたかった。
彼女が、死んでからの僕たちとの時間が彼女の慰めになったのなら。
尾張さんが満足して成仏できたなら。僕は、自分を許しても良いのだろうか。ーー許すことが出来るのだろうか?
「僕はーー僕を許してもいいんでしょうか? 尾張さんは僕を許してくれるでしょうか?」
その声に応えたのは、椎堂さんではなかった。
「そもそも。私、別に紀美丹君のこと恨んでないのだけれど?」
開かれたドアの前に立っていたのは、消えたはずの尾張さんだった。
「それより、目の前でいちゃつくのやめてもらっていいかしら」
椎堂さんの質問に答える。
「もう、心残りはない?」
「ーー心残りですか? それはーー無いと言えば嘘になりますね。でも、もうそれを果たすことはそもそも出来ないですから」
僕のその諦観にも似た発言に、椎堂さんは、
「そう」
とだけ相槌を打つと、座っていた来客用の椅子から立ち上がり、
「じゃあ、もう自分を許してあげよう?」
と、呟くと、僕の頭を包むように抱きしめる。
「っ椎堂さん⁉︎」
「紀美丹君はよく頑張ったよ? 尾張さんの為にできるだけの事をしてあげた。だからもう、自分を責めなくてもいいんだよ?」
僕が自分を責めている?
そんなこと。そんなことは、あるのかもしれない。ーーいや、ずっとそうだった。あの日尾張さんを一人で帰したりしなければ。僕がちゃんと家まで送っていれば。尾張さんと水城の間に何があったのかもっと早く気付いていたら。ーーきっと尾張さんが水城に殺されることはなかった。
だからあの日。ーー尾張さんの幽霊に出会った日。僕は彼女が怖かった。彼女に責められるのが怖かった。ーーだけど、それでも彼女が好きだったから。彼女にできるだけの事をしてあげたかった。
彼女が、死んでからの僕たちとの時間が彼女の慰めになったのなら。
尾張さんが満足して成仏できたなら。僕は、自分を許しても良いのだろうか。ーー許すことが出来るのだろうか?
「僕はーー僕を許してもいいんでしょうか? 尾張さんは僕を許してくれるでしょうか?」
その声に応えたのは、椎堂さんではなかった。
「そもそも。私、別に紀美丹君のこと恨んでないのだけれど?」
開かれたドアの前に立っていたのは、消えたはずの尾張さんだった。
「それより、目の前でいちゃつくのやめてもらっていいかしら」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる