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世界終わろう委員会
残された人々
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尾張さんの家は、タワーマンションの一室だった。
尾張さんがセキュリティコードを入力する。
自動ドアが開いて、尾張さんと僕はビルの中へ入っていく。
「そういえば、鍵はあるんですか?」
「・・・・・・紀美丹君が、どうにかするしかないわね。母は、専業主婦だからこの時間は家にいるはずだし。癪だけど、御参りにきたって言えば大丈夫でしょう」
えぇ。まぁ、そうなるとは思ってました。
インターホンを押すと、尾張さんの言う通り、尾張さんの母親らしき人が出る。
「はい。どちら様でしょう?」
用件を伝えると、少々お待ちください。と告げられ、通話は切られた。
玄関のチェーンが外され、現れたのは、尾張さんと同じ色の髪を肩口で切り揃えた。エプロン姿の歳若く見える女性だった。
「えと、尾張さんのお姉さんですか?」
「私に姉は居ないわ。母よ」
その女性は、あらぁ。お世辞なんて最近の子はませてるのねぇ。と言いながら、僕を家の中に招き入れる。
「お世辞じゃないんですが! どう見ても二十代前半の見た目なんですが! どうなってんですか?」
小声で尾張さんに質問する。
「あの人の見た目は永遠の謎よ。父が言うには、そういうものだ。理解しようとしても時間の無駄だ。だそうよ」
「えぇ・・・・・・」
仏間に通された僕は、お礼を言い、尾張さんの隣で尾張さんの遺影に手を合わせる。
なんだこれ。
「じゃあ、私は少し自分の部屋に行ってくるから」
尾張さんは、自分の遺影をチラッと見ると、なんでこの写真なのよ。と言いながら、自分の部屋に歩いていった。
さて、どうしようか。尾張さんが戻ってくるまで、ずっと手を合わせておくわけにもいかない。
薄く目を開けて、尾張さんの母親の様子を伺う。
どうやら、あちらも僕の事を観察しているらしい。まぁ、当然か。娘の御参りに一人でくる男子に興味を持たない方がどうかしている。
不自然にならないうちに、切り上げる。
とりあえず、僕の役割は果たしたので、早々に退散してもいいかもしれない。
もう一度、お礼を言って立ち上がろうとすると、尾張さんの母親は、
「貴方、ウチの娘の彼氏さんだったりしたのかしら?」
と、聞いてきた。
言葉に詰まった僕は、曖昧な返事しかできなかった。
「いえ、ごめんなさいね。あの子あんまり友達も居ないみたいだったけど、好きな人の一人でも居たならそう悪い人生じゃなかったんじゃないかって」
そう思いたいのよ。親としては。と、尾張さんの母親は独り言のように呟いた。
その顔は、諦観が入り混じり、遅まきにこの人が娘を亡くした人の親なんだという事を僕に実感させた。
「あの、尾張さんが・・・・・・恋さんが僕をどう思っていたかは、本当のところはわかりません。でも、僕は恋さんの事が」
好きでした。その言葉を言うのは、やめた。それがなにかの区切りになってしまいそうで、口に出すのが怖かった。
途中で言葉を止めた僕を見ながら、微笑むと、
「ごめんなさいね。変なこと聞いて。それと、ありがとうね」
そう言った。
僕は、いたたまれなくなり、
「あの、僕そろそろお暇しますね。ありがとうございました」
と矢継ぎ早に言うと、鞄を掴んで逃げるようにその場を後にした。
尾張さんがセキュリティコードを入力する。
自動ドアが開いて、尾張さんと僕はビルの中へ入っていく。
「そういえば、鍵はあるんですか?」
「・・・・・・紀美丹君が、どうにかするしかないわね。母は、専業主婦だからこの時間は家にいるはずだし。癪だけど、御参りにきたって言えば大丈夫でしょう」
えぇ。まぁ、そうなるとは思ってました。
インターホンを押すと、尾張さんの言う通り、尾張さんの母親らしき人が出る。
「はい。どちら様でしょう?」
用件を伝えると、少々お待ちください。と告げられ、通話は切られた。
玄関のチェーンが外され、現れたのは、尾張さんと同じ色の髪を肩口で切り揃えた。エプロン姿の歳若く見える女性だった。
「えと、尾張さんのお姉さんですか?」
「私に姉は居ないわ。母よ」
その女性は、あらぁ。お世辞なんて最近の子はませてるのねぇ。と言いながら、僕を家の中に招き入れる。
「お世辞じゃないんですが! どう見ても二十代前半の見た目なんですが! どうなってんですか?」
小声で尾張さんに質問する。
「あの人の見た目は永遠の謎よ。父が言うには、そういうものだ。理解しようとしても時間の無駄だ。だそうよ」
「えぇ・・・・・・」
仏間に通された僕は、お礼を言い、尾張さんの隣で尾張さんの遺影に手を合わせる。
なんだこれ。
「じゃあ、私は少し自分の部屋に行ってくるから」
尾張さんは、自分の遺影をチラッと見ると、なんでこの写真なのよ。と言いながら、自分の部屋に歩いていった。
さて、どうしようか。尾張さんが戻ってくるまで、ずっと手を合わせておくわけにもいかない。
薄く目を開けて、尾張さんの母親の様子を伺う。
どうやら、あちらも僕の事を観察しているらしい。まぁ、当然か。娘の御参りに一人でくる男子に興味を持たない方がどうかしている。
不自然にならないうちに、切り上げる。
とりあえず、僕の役割は果たしたので、早々に退散してもいいかもしれない。
もう一度、お礼を言って立ち上がろうとすると、尾張さんの母親は、
「貴方、ウチの娘の彼氏さんだったりしたのかしら?」
と、聞いてきた。
言葉に詰まった僕は、曖昧な返事しかできなかった。
「いえ、ごめんなさいね。あの子あんまり友達も居ないみたいだったけど、好きな人の一人でも居たならそう悪い人生じゃなかったんじゃないかって」
そう思いたいのよ。親としては。と、尾張さんの母親は独り言のように呟いた。
その顔は、諦観が入り混じり、遅まきにこの人が娘を亡くした人の親なんだという事を僕に実感させた。
「あの、尾張さんが・・・・・・恋さんが僕をどう思っていたかは、本当のところはわかりません。でも、僕は恋さんの事が」
好きでした。その言葉を言うのは、やめた。それがなにかの区切りになってしまいそうで、口に出すのが怖かった。
途中で言葉を止めた僕を見ながら、微笑むと、
「ごめんなさいね。変なこと聞いて。それと、ありがとうね」
そう言った。
僕は、いたたまれなくなり、
「あの、僕そろそろお暇しますね。ありがとうございました」
と矢継ぎ早に言うと、鞄を掴んで逃げるようにその場を後にした。
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