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世界終わろう委員会

罰ゲーム 

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 翌日の放課後。尾張さんは、既に元文芸部の部室にいた。

 僕は、不機嫌さを隠そうとはせずに、自分で用意した椅子に座る。

「どうかしたの? 紀美丹君。そんな、遊んでもらえない犬みたいな顔して」

「どんな顔ですかそれ。やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

 尾張さんは、顔を逸らして遠くを見つめている。
 そこに、椎堂さんが訪ねてくる。

「こんにちは。今、大丈夫? ちょっとお願いがあるんだけど」

「あぁ、椎堂さん。どうぞ。やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

 椎堂さんは、何言ってんだこいつといった顔で眉をひそめる。

「・・・・・・。は?」

「どうしました? やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

 椎堂さんが、ジーっとこちらを見てくる。
 尾張さんは、ずっと明後日の方向をみながら、こちらを見ようとしない。

「まあ、いいや。尾張さんはそこにいるんだよね?」

 椎堂さんは、何事もなかったかのように話を進める。

「えぇ、いますよ。やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

「明日、尾張さんと出かけたいんだけど。尾張さんは予定とかある?」

 尾張さんは、明後日の方向を見ながら、

「ないわね」

 と返答する。こっち見ろ。

「ないそうです。やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

「そう。じゃあ、明日の放課後にね。紀美丹君も明日一緒にどう?」

 椎堂さんが、自然と僕の事を誘ってくる。

「僕もいいんですか? お邪魔では? やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

「むしろいてもらった方が助かるかな。いちいちメッセージ送る手間が減るし」

 通訳代わりだった。

「・・・・・・やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

 尾張さんが吹き出した。

「じゃあ、また明日」

 椎堂さんが帰ろうとする。

「待ってください。やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

 このまま帰られたら僕の印象が大変な事になる。

「なに?」

「なにも言わないんですか? やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

 椎堂さんは、小さくため息をついて、

「それじゃあ、言わせてもらうけど。紀美丹君頭でも打ったの? いきなりやれやれ系主人公に目覚めたとか? 若しくは今更厨二病になっちゃった? それとも、自分のキャラの弱さを自覚したりした? それと紀美丹君さっきから全く笑ってないよね」

 と、一息に言うと、すっきりした顔をしていた。
 尾張さんは、笑いを堪えるのに必死なのか、さっきから深呼吸している。

「察してください。それと、キャラが弱いは別に自覚してなかったです。やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

 言葉のナイフでズタズタにされた僕は、やれやれと肩をすくめる。おや、おかしいな目から水が。

「言えって言ったの紀美丹君じゃない。別に泣かなくても・・・・・・」

 椎堂さんが珍しくオロオロしている。

「ま、まぁ、いいと思うよ厨二病。かっこいいよね。あれでしょ? 腕に包帯とか、眼帯とかつけて、くっ鎮まれ。とか言うんでしょ?」

「別に泣いてないです。それと厨二病でもないです。理由は言えませんが、これは仕方がないことなのです。ねぇ、尾張さん? やれやれこれだから人間は。僕はニヒルに笑う」

 尾張さんは、お腹を抑えてしゃがみ込んでいる。

「・・・・・・腹筋が、腹筋がつったわ」

 楽しんでいただけて何よりです。


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