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世界終わろう委員会

女の子 

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 こちらをジーっと伺っていたのは、六歳ぐらいの女の子だった。

 その女の子の目線は真っ直ぐに尾張さんを見ていた。空中に浮いているラケットを見ている可能性があるけど。

「お姉ちゃん上手だね!」

 どうやら、その可能性は消えたようだ。

「あら、ありがとう」

 尾張さんがお礼を言うと、

「お兄ちゃんはあんまりだね!」

 僕の方を見て、そう言ってきた。ほっといてほしい。
 尾張さんはニヤニヤしながら、

「だそうよ、紀美丹君?」

 と、何やら嬉しそうだ。

「尾張さん。その子に見えているからってあなたが幽霊であることに変わりはありませんよ?」

 それを聞いた尾張さんは、しかめっ面になる。

「いいえ、認識できる人間がいるということは、それだけで存在していると証明されるはずよ」

「存在の証明が必要な時点で、人間の領域から逸脱してますよね」

 僕の呆れたような返しに耳を塞ぐ尾張さん。

「お姉ちゃん幽霊なの?」

 女の子は、尾張さんをじーっと見つめる。

「いいえ?」

「幽霊です」

「?」

 耳を塞いでいるくせに、口の動きだけで何を言ったか読み取ったのか、質問には応える尾張さんだった。
 しかし、僕の返答と被ったことで、女の子は不思議そうな顔をしている。

「尾張さん。いい加減認めましょうよ」

 耳を塞ぐ尾張さんの両手を耳から外す。

「まだよ。まだ、私が生きている可能性が目の前に残っているわ」

 そう言う尾張さんの目つきは、血走っており、完全にヤバい人のそれになっていた。

「お姉ちゃん、お顔怖い」

 女の子は、尾張さんの気迫に気圧されたのか、ジリジリと後退りしている。

「尾張さん。落ち着いてください。せっかくの手掛かりに逃げられますよ?」

「私は落ち着いているわ。とても、クールよ。えぇ、とてもね」

 尾張さんのテンションがおかしなことになっているので、とりあえず、女の子との間に入る。

「お姉ちゃんが幽霊なら、ママもいるのかなぁ?」

 女の子は、そう呟いた。

「ママ?」

「そういえば、きみ、えーと」

 どう名前を聞こうか、迷っていると、その女の子は、ハッとしたように、

「わたしの名前は、田織未来タオリミクです! 六歳です!」

 と元気よく自己紹介をしてくれた。

「紀美丹君、幼女よりもコミュニケーション能力低いのね」

「尾張さんには言われたくないです」

 憎まれ口を叩きつつ、尾張さんと僕が自己紹介をすると、

「お姉ちゃん達、一緒の名前なんだね! すごい!」

 と、なにやら好感触だった。

「それで、未来ちゃん。っていうのは、どういう意味なのか教えてもらっても良いかな?」

 そう聞くと、未来ちゃんは俯いて、

「・・・・・・パパがね、ママは遠くに行っちゃったんだって言ってたの」

 未来ちゃんは、そのまま続ける。

「でもね、わたし知ってるの。ママは、悪い人に殺されたんだって」
 
 
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