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世界終わろう委員会

覚えてないわね 

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「覚えてないわね」

 一応、尾張さんに犯人を聞いてみたが、返答は僕の予想のとおりだった。

「それと、紀美丹君と仲が良かったという話も、初耳ね」

 別に、それは聞いてない。

「本当に仲良かったのかしら? あなたの妄想とかではなくて?」

 なかなかに聞き捨てならない発言をしてくれる。
 そちらがその気なら、こちらにも考えがある。

「では、僕と尾張さんの仲良しアピールをさせてもらいましょう」

「いえ、結構よ」

 相変わらず否定が早い。だが、決行させてもらう。

「まず、尾張さんの好きな食べ物はアイスクリーム」

「しなくていいと言ってるのに」

 尾張さんはため息を吐きながら腕を組む。

「お嬢様なのに、ジャンクフードが割と好き」

「お嬢様はやめなさい」

 尾張さんの顔がいつか見た時と同じように嫌そうに歪む。

「首筋に、小さな黒子がある」

「⁉︎ なんでそんなこと知ってるのよ!」

 かと思えば、頬を赤く染めて首に手を当てる。
 僕は頬を掻きながら照れ臭そうに告げる。

「僕達は、結婚の約束をしていました」

「堂々と嘘を言うのはやめなさい! 嘘よね? 嘘だと言いなさい‼︎」

 尾張さんが顔を赤くしながら、否定してくる。
 肩を揺さぶられ、僕の視界がぐらぐら揺れる。

「なんか懐かしいですね。こういうの」

「懐かしいのはあなただけでしょう! 私にその記憶はないわ!」

 フーフーっと息を切らせながら、真っ赤な顔で否定する尾張さん。

「僕たちは、休日にデートをする仲でした」

「それは、嘘なの? 本当なの?」

 明後日の方向に目線を向けながら、返答する。

「全て本当の事です」

 信じられないわ。と、尾張さんが呆然としながら呟く。
 結婚は断られていた気もするが、まぁ、いいだろう。

「・・・・・・それと、最後の約束はまだ、果たしていません」

「約束?」

 尾張さんの何も覚えてないといった不思議そうな顔を見るのは、すこしこたえた。
 その約束を僕しか覚えていなくても、だからこそ、無かったことにはしたくなかった。

「尾張さん。来週何があるか知っていますか?」

「来週?」

 尾張さんは、すこし考えるようにするが、思い至らないのか、

「さあ、何かあったかしら」

 と、言うのだった。だから、

「来週、見に行きましょう。流星群」

 今度は、僕が尾張さんを誘う。
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