17 / 85
世界終わろう委員会
好きだったのよ
しおりを挟む
「私ね、尾張さんのこと好きだったんだ」
「いきなりそんなカミングアウトされても困るんですが」
そう返した僕の言葉に、椎堂さんは苦笑いで答える。
「別に、恋愛感情とかじゃないよ。友達として」
好きだった。と椎堂さんは付け足した。
「でも、だからこそ、自分の不甲斐なさを許せなかった。私ね、尾張さんと中学校も一緒だったんだ」
彼女は自嘲気味に話す。
「尾張さんって、あんな性格だったじゃない。だから、中学生の時も周りから浮いてた。でも、なにやらせても完璧にこなしちゃうから、嫉妬されて嫌がらせされたりして。それでも、そんなの意に介さない」
そこに憧れた。彼女の隣に居たいって思った。椎堂さんは、遠い日の思い出を懐かしむように、窓から見える夕日に目を細めながら語り出す。
尾張さんの表情は、僕からは見えない。しかし、耳が紅潮しているのはわかった。
「だから、いっぱい努力した。運動はあまり得意じゃなかったから、せめて勉強で彼女と並び立てるぐらいになってやろうって。だけど、結局最後まで尾張さんには勝てなかった」
椎堂さんが僕の方に視線を向ける。
「尾張さんがテスト前に猫動画見てたって言った時、思っちゃったんだ。私、何やってんだろうって。努力しても、届かない。そんな空の上の人の隣に立ちたいだなんて」
本当に、馬鹿みたい。その言葉は、僕の感情をささくれさせた。彼女の自虐的な言葉は、彼女自身に向けられているようで、その実、僕にも向けられているように思えた。
「そう考えちゃったら、もうだめ。尾張さんと顔を合わせても、どんな態度をとればいいか、何を話せばいいのか、もうわかんなくなっちゃった」
悲しげに笑う。
「だから、尾張さんが亡くなったって聞いた時、悲しかったし、犯人が許せないって思えたけど、でも、少しホッとしてる自分に気づいたの」
もう、努力する必要がなくなったんだって。と、話す彼女の顔は、今にも泣き出しそうに見えた。
だからこそ、僕は、何か言わなければいけないと思った。
「最低ですね。椎堂さん」
違う。
「知ってる」
「尾張さんは、そんなこと望んでなかったと思います」
そうじゃない。
「わかってる」
「尾張さんは、僕に言いました。もっとうまく人と関わりたいって」
彼女の思いは。本当に望んでいたのは。
「・・・・・・」
「尾張さんだって好きで天才になったわけじゃない。なんでも出来るからって、独りでいたいわけじゃない。あなたが、友達としてすべきだったのは、彼女に追いつくことじゃなくて、ただ隣にいることだったんじゃないですか?」
友達でいるのに、資格なんていらない。そう、吐き出すように言った言葉は、椎堂さんに言っているようで、しかし、自分に言い聞かせているようだった。
「わかんないよ。そんなの」
椎堂さんの鬱血するほどに強く握りしめていた掌から力が抜ける。
「ところで、二人とも私がここにいること忘れてないかしら」
忘れてた。
「いきなりそんなカミングアウトされても困るんですが」
そう返した僕の言葉に、椎堂さんは苦笑いで答える。
「別に、恋愛感情とかじゃないよ。友達として」
好きだった。と椎堂さんは付け足した。
「でも、だからこそ、自分の不甲斐なさを許せなかった。私ね、尾張さんと中学校も一緒だったんだ」
彼女は自嘲気味に話す。
「尾張さんって、あんな性格だったじゃない。だから、中学生の時も周りから浮いてた。でも、なにやらせても完璧にこなしちゃうから、嫉妬されて嫌がらせされたりして。それでも、そんなの意に介さない」
そこに憧れた。彼女の隣に居たいって思った。椎堂さんは、遠い日の思い出を懐かしむように、窓から見える夕日に目を細めながら語り出す。
尾張さんの表情は、僕からは見えない。しかし、耳が紅潮しているのはわかった。
「だから、いっぱい努力した。運動はあまり得意じゃなかったから、せめて勉強で彼女と並び立てるぐらいになってやろうって。だけど、結局最後まで尾張さんには勝てなかった」
椎堂さんが僕の方に視線を向ける。
「尾張さんがテスト前に猫動画見てたって言った時、思っちゃったんだ。私、何やってんだろうって。努力しても、届かない。そんな空の上の人の隣に立ちたいだなんて」
本当に、馬鹿みたい。その言葉は、僕の感情をささくれさせた。彼女の自虐的な言葉は、彼女自身に向けられているようで、その実、僕にも向けられているように思えた。
「そう考えちゃったら、もうだめ。尾張さんと顔を合わせても、どんな態度をとればいいか、何を話せばいいのか、もうわかんなくなっちゃった」
悲しげに笑う。
「だから、尾張さんが亡くなったって聞いた時、悲しかったし、犯人が許せないって思えたけど、でも、少しホッとしてる自分に気づいたの」
もう、努力する必要がなくなったんだって。と、話す彼女の顔は、今にも泣き出しそうに見えた。
だからこそ、僕は、何か言わなければいけないと思った。
「最低ですね。椎堂さん」
違う。
「知ってる」
「尾張さんは、そんなこと望んでなかったと思います」
そうじゃない。
「わかってる」
「尾張さんは、僕に言いました。もっとうまく人と関わりたいって」
彼女の思いは。本当に望んでいたのは。
「・・・・・・」
「尾張さんだって好きで天才になったわけじゃない。なんでも出来るからって、独りでいたいわけじゃない。あなたが、友達としてすべきだったのは、彼女に追いつくことじゃなくて、ただ隣にいることだったんじゃないですか?」
友達でいるのに、資格なんていらない。そう、吐き出すように言った言葉は、椎堂さんに言っているようで、しかし、自分に言い聞かせているようだった。
「わかんないよ。そんなの」
椎堂さんの鬱血するほどに強く握りしめていた掌から力が抜ける。
「ところで、二人とも私がここにいること忘れてないかしら」
忘れてた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる