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世界終わろう委員会

好きだったのよ 

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「私ね、尾張さんのこと好きだったんだ」

「いきなりそんなカミングアウトされても困るんですが」

 そう返した僕の言葉に、椎堂さんは苦笑いで答える。

「別に、恋愛感情とかじゃないよ。友達として」

 好きだった。と椎堂さんは付け足した。

「でも、だからこそ、自分の不甲斐なさを許せなかった。私ね、尾張さんと中学校も一緒だったんだ」

 彼女は自嘲気味に話す。

「尾張さんって、あんな性格だったじゃない。だから、中学生の時も周りから浮いてた。でも、なにやらせても完璧にこなしちゃうから、嫉妬されて嫌がらせされたりして。それでも、そんなの意に介さない」

 そこに憧れた。彼女の隣に居たいって思った。椎堂さんは、遠い日の思い出を懐かしむように、窓から見える夕日に目を細めながら語り出す。

 尾張さんの表情は、僕からは見えない。しかし、耳が紅潮しているのはわかった。

「だから、いっぱい努力した。運動はあまり得意じゃなかったから、せめて勉強で彼女と並び立てるぐらいになってやろうって。だけど、結局最後まで尾張さんには勝てなかった」

 椎堂さんが僕の方に視線を向ける。

「尾張さんがテスト前に猫動画見てたって言った時、思っちゃったんだ。私、何やってんだろうって。努力しても、届かない。そんな空の上の人の隣に立ちたいだなんて」

 本当に、馬鹿みたい。その言葉は、僕の感情をささくれさせた。彼女の自虐的な言葉は、彼女自身に向けられているようで、その実、僕にも向けられているように思えた。

「そう考えちゃったら、もうだめ。尾張さんと顔を合わせても、どんな態度をとればいいか、何を話せばいいのか、もうわかんなくなっちゃった」

 悲しげに笑う。

「だから、尾張さんが亡くなったって聞いた時、悲しかったし、犯人が許せないって思えたけど、でも、少しホッとしてる自分に気づいたの」

 もう、努力する必要がなくなったんだって。と、話す彼女の顔は、今にも泣き出しそうに見えた。
 だからこそ、僕は、何か言わなければいけないと思った。

「最低ですね。椎堂さん」

 違う。

「知ってる」

「尾張さんは、そんなこと望んでなかったと思います」

 そうじゃない。

「わかってる」

「尾張さんは、僕に言いました。もっとうまく人と関わりたいって」

 彼女の思いは。本当に望んでいたのは。

「・・・・・・」

「尾張さんだって好きで天才になったわけじゃない。なんでも出来るからって、独りでいたいわけじゃない。あなたが、友達としてすべきだったのは、彼女に追いつくことじゃなくて、ただ隣にいることだったんじゃないですか?」

 友達でいるのに、資格なんていらない。そう、吐き出すように言った言葉は、椎堂さんに言っているようで、しかし、自分に言い聞かせているようだった。

「わかんないよ。そんなの」

 椎堂さんの鬱血するほどに強く握りしめていた掌から力が抜ける。

「ところで、二人とも私がここにいること忘れてないかしら」

 忘れてた。
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