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世界終わろう委員会

おかしい 

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 おかしい。尾張さんに触れることができる。
 尾張さんの背中に触れた手を、肩にまわす。

 尾張さんは死んだ。確かに殺されたはずだ。
 そして、今ここにいる彼女は、実体のない幽霊のようなもの。もしくは、僕の妄想の産物のはずだ。
 肩から、彼女の顔に手を移動し、頬をつまむ。

「ひみにふん。はにふふおよ」

 尾張さんが何か言っている気がする。

「椎堂さん」

「なに?」

 僕の行動を訝しげに見ていた椎堂さんに質問する。

「幽霊って触れるんですか?」

「はぁ?」

 なにを訳のわからない事をといった表情をする椎堂さん。

「はへはゆふへいよ。いいはへんははひははい」

 尾張さんの頬に触れていた手を振り払われる。

「変態」

 尾張さんは頬をさすりながら罵倒する。

「誰が変態ですか」

「いきなりどうしたの?」

 椎堂さんには、尾張さんの声は、やはり聞こえないらしい。

「尾張さん」

 僕の方をジトっと見つめる。

「なによ」

「いま、メッセージを送れますか?」

 尾張さんは、合点がいったのか、

「そういうことね」

 と呟くと、スマホを操作し始める。

「椎堂さん。メッセージアプリの尾張さんのブロック解除してもらえますか?」

「・・・・・・あのメッセージ、あなたが送ってきたの?」

 その時の、椎堂さんの表情は、怒りを押し殺しているようだった。

「いえ、違います。尾張さんが送信したものです」

 その言葉に、椎堂さんは我慢の限界を迎えたようで、怒りにまかせて叫ぶ。

「いい加減にして! さっきから何度も言ってるよね! 尾張さんは死んだんだよ!」

「えぇ、確かに彼女は死にました。ですが、ここにいるんです」

 証拠をお見せします。そう言って、彼女にブロック解除を促す。
 一度感情をぶつけたことで少し冷静になったのか、椎堂さんは半信半疑のまま、メッセージアプリを操作する。

 しばらくして、アプリの通知音が鳴る。

 椎堂さんは、メッセージを読むと困惑したような表情で僕の方を伺う。

「どう、やったの?」

「どうとは?」

 僕のはぐらかすような言葉に、

「だから、どうやってメッセージを送ったの。あなた、今スマホ持ってないよね?」

 苛立ったように質問を重ねる。

「いや、だから、僕じゃないんですって」

「じゃあ、この部屋のどこかにあなたの協力者がいるの? あなたたち一体なんのつもりなの? なんでこんなことするの!」

 椎堂さんは、どうしても尾張さんの存在を認められないようで、感情をどこまでも高ぶらせていく。

「協力者は尾張さんですし、目的は、尾張さんと椎堂さんに仲直りしてもらうことです」

 それを聞いた時の椎堂さんの表情は、意識の外から何かで殴られたような、そんな衝撃をうけたようなものだった。

「仲直りって、どういうこと?」

「椎堂さん、ずっと尾張さんの事を無視していたでしょう?」

 椎堂さんは唇を噛み、掌に爪が食い込むほどに強く手を握る。

「・・・・・・無視なんて、そんなつもり無かったわ」

 後悔を滲ませた声と表情は、どこか、悲痛さを感じさせた。

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