この悪縁に祝杯を

初瀬四季[ハツセシキ]

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氷山の一角

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 野生のノーヘッドチキンの捕獲。それが今回の依頼だった。

「ノーヘッドチキンは美味い」

 ミリアがボソリと呟く。

「美味い? 食物なのか? 魔物じゃなく?」
 
 アスハの疑問に対して、ユキが捕捉するように話し出す。

「ノーヘッドチキン。それは、首を落とされた鶏肉にゴースト系の魔物が乗り移り動きだした魔物の総称。羽を毟られ、頭部を落とされた鶏肉達が鳴くこともできずただただ歩きまわるその姿から、別名『歩く食材』と言われています」

「歩く食材⁉︎ーー美味いって、絶好のカモってことか」

 なにせ一匹捕獲で千メルクも出るという。しかも相手はただの動く鶏肉。
 アスハは楽そうな仕事に胸を躍らせる。



 城門の外へ出て、ノーヘッドチキンの生息地である草原にやってきたはいいものの、そこは既に焼け野原になっていた。

「なんだこれ?」

 困惑しながら、かつて草原であっただろう場所の変わり果てた姿を眺める。

「これはーー魔法によるものだな。誰かが範囲魔法でチキンどもを焼き払ったんだろう。見ろあのチキンどもの変わり果てた姿を。すっかりこんがりジューシーに焼き上がっているぞ?」

 確かに周囲には、香ばしく焼かれたチキンたちの芳しい香りが漂っている。

「いや、それってダメなんじゃないか? 依頼は捕獲だよな? 生っていうか、生きてる状態のノーヘッドチキンを捕まえないといけないんじゃあ」
 
「ですが、この様子ですと既に生のチキンは残っていないようですね」

 愕然とするアスハ達の目の前でこんがり焼けたチキンがジリジリと地面を擦るように動く。

「なぁ、あれなんでまだ動けるんだ?」

「本体はあくまでゴーストですから。ゴーストを倒さないといつまでも動き続けます」

 ジリジリとこちらに向けて進むチキン。それをいつのまに現れたのか、一体の大きな影が踏みつける。
 そして、ムシャビチッゴリッという音をたてながら、チキンを噛み砕きその胃の中におさめる。
 
「なんだよ、あれ?」

 思わずアスハの口から声が漏れた。
 チキンを食べ終え満足したのか、その影はアスハ達に向けてその琥珀色の視線を向ける。
 
「火トカゲだな」

 紅く赤熱する鱗をもった体長二メートル程度のトカゲを見ながら、ミリアが呟く。


 
「何故こんなところに? 火トカゲは火山の火口近くに生息する筈ですが?」

「知らん。餌を探して迷い込んだか。もしくは」

 天敵から逃げてきたのか。と口に出しながら、ミリアが二本の剣を抜く。

「おい、何するつもりだ?」

「決まっている。トカゲ狩りだ!」

 ミリアはそういうと目を爛々と輝かせる。
 
「やめろ! あれを狩っても一メルクにもならないだろ! 逃げるぞ!」

「いえ、火トカゲの鱗は防具の素材になりますし、胆嚢は割と高価ですよ?」

「よし! 狩るぞ! ノーヘッドチキンの仇だ!」

 ユキの言葉をうけてアスハは腰に下げた剣を抜く。
 火トカゲが、威嚇するように口を大きく開いた。そして、その巨体からは考えられないスピードで走り出しアスハに食らいつく。

「危なっ⁉︎」

 間一髪のところでその牙を避け、剣で撫でるように鱗に斬りつける。
 ガリガリという音がしたかと思えば、剣が刃こぼれをおこしていた。

「噓ぉ⁉︎」

 対する火トカゲは、体勢を立てなおし、もう一度噛みつこうと口を開く。

 アスハが火トカゲの牙を剣で防ぎ、前足の鋭い爪を手甲で防ぐ。

「ミリア! いまだ! やれ!」

 火トカゲの動きを止めながら、ミリアに指示を飛ばす。
 しかし、返事がない。

「ミリア⁉︎」

 ミリアは既に気絶し地面に転がっていた。

「ミリアさん⁉︎ 起きて! 今チャンスだから!」

「あの、何かした方がよろしいでしょうか?」

 ユキが鍔迫り合いを続けるアスハに話しかける。

「なんでもいいから! 攻撃して!」

 ユキはキョロキョロとあたりを見回すと、三メートル程度の大岩を持ち上げる。そして、それを火トカゲに向けて投擲する。

「はっ?ッ⁉︎⁉︎‼︎」

 アスハの目の前を大岩が通り過ぎ、火トカゲを巻き込んで地面を抉る。

「は?」

 ユキの行動に呆気にとられたアスハが間の抜けた声を出す。

「いやいやいやいや‼︎ おかしい! 今のはどう考えてもおかしい!」

「おかしいとは?」

 ユキが首を傾げている。

「どうすればあんな大岩をボールみたいに投げられるんだよ‼︎」

「こうですが?」

 ユキがキャッチボールでもするようなフォームで素振りをしはじめる。

「ちがう! そうじゃない!」

「はぁ・・・・・・?」

 アスハが何を驚いているのかわからないといったような顔で、ユキは不思議そうにしている。

「この世界の女の腕力はみんなこんなんなのか?」

 アスハは、酒場でミケにお手玉されたことを思い出す。

「そんなわけないだろ。そいつの力が異常なだけだ」

 いつのまにか目を覚ましていたミリアが口を挟む。

「ミリア様。おはようございます」

 ユキがミリアの背中についた枯れ草を払いながら、声をかける。

「は? もう夕方だぞ? 何言ってるんだユキ?」

 気絶していたミリアに対する嫌味なのか、それともいま目覚めたからそう言っただけなのか、判別しづらい態度のユキと、気絶していた事に気づいていない様子のミリアを見ながら、アスハはため息をつく。

「まぁ、とりあえず火トカゲ狩れたし、よしとするか」

 そんな彼等をひとつの視線が見つめていた。
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