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知らぬが仏
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ノーヘッドチキンの捕獲には失敗したものの、討伐した火トカゲを鍛冶屋に持っていき、売却した事でその補填が出来た。
刃こぼれをおこした剣はヴァイスに預けて研ぎ直してもらうことになり、かわりに同様の剣を購入した。
「またいい素材がとれたらいつでも持ってきな!」
去り際にヴァイスが上機嫌に言っていたので、次も利用するとしよう。
諸々の用事を済ませた頃には、すっかり深夜をまわっていた。
それでも酒場には無駄に活気が溢れている。
「じゃあ、俺はこのハニーワイン? って奴とノーヘッドチキンの丸焼きで」
「私はベリーワインとチキンサラダを」
「私はこのサクチキと大人の飲み物を貰おうか?」
給仕のお姉さんが、
「かしこま~」
と軽いノリで注文を聞いて厨房へ向かう。
「大人の飲み物ってなに?」
「フッ知らないのか? これは大人のみが口にできる秘密の飲み物なのだ。子供は口にすることは許されない禁断の味だ」
「じゃあ、お前飲めないじゃん」
アスハの何言ってんだこの子供? という視線にミリアが噛み付く。
「私は大人だ!」
「いやいや。ないない」
自らの正当性を主張するミリアだが、アスハは軽くあしらっている。
暫くして、飲み物が運ばれてきた。
「はい。こちら、ハニーワインとベリーワイン。それと、ミリアさんには子供のーーじゃなくて、大人の飲み物で~す。料理はもう少々お待ちくださ~い」
「お、きたか」
「なぁ、今、子供の飲み物って言いかけなかったか?」
ミリアの猜疑心に満ちた表情に、給仕のお姉さんは、ニコッと笑うと無言で戻っていく。
「へーそれが子供のーー大人の飲み物か。琥珀色で発泡してるって、なんかビールみたいだな」
「おい、これ、大人の飲み物なんだよな? このメニューにある子供の飲み物と間違ったりしてないよな?」
ミリアが厨房へ向けて質問しているが返答はない。
「ーー飲んだことあるんじゃないのか?」
「ーー冒険者みたいに魔物を討伐したら頼むって決めてたんだ。だから、今日初めて頼んだ」
「ミリア、お前・・・・・・今まで魔物倒したこと無かったのか?」
照れくさそうにしているミリアを見ながら、アスハは、正確にはミリアは魔物を倒していないという事実を口に出すべきかどうか迷う。
「火トカゲを倒したのは私ですが? ミリア様は気絶していただけでは?」
ユキが、ベリーワインに口をつけながら空気を読まずに呟く。
「う、あう、うるさい! パーティの勝利は私の勝利だからいいんだ!」
ミリアはそういうと、大人の飲み物(子供の飲み物)のジョッキを掴み腰に手を当てると、一気に飲み干す。
聞き耳を立てていたのか、店の常連達が指笛を吹いたり、「いっきいっき」等と囃し立てはじめる。
「く~っ‼︎ こ、これが大人の飲み物か⁉︎ すごい‼︎ すごいシュワシュワで甘い‼︎」
「ーー甘いんだ」
(甘いなら子供の飲み物だな)
常連達は、一様にそう思ったが口には出さなかった。大人の対応である。
アスハは、ミリアの感想を聞きながら、琥珀色のハニーワインに口をつける。
蜂蜜のような甘さの中にほんのりとアルコールの味がした。
「これ、すげぇ甘いな」
「ハニーワインは、魔法で果物を凍らせることで、糖度をあげて造られたワインですから。ちなみに、このベリーワインは木苺が混ぜてあるので、とても酸っぱいです」
ユキが、饒舌にワインの説明をはじめる。その表情にあまり変化はないが、頬に少し赤みがさしているように見えた。
給仕のお姉さんが、大皿を器用に両腕にのせて運んでくる。
「はい。丸焼きとサラダとサクチキね」
ミリアがすかさず大人の飲み物を追加注文する。
「は~い。子供の飲み物追加ね~」
「おい、今、子供の飲み物って言ったよな? なぁ! おい、まて! 大人の飲み物だぞ? 大人の飲み物持ってこいよ? 絶対だぞ⁉︎」
給仕のお姉さんに噛み付くミリアを横目に、アスハはノーヘッドチキンの丸焼きに取り掛かる。
何を隠そう、このチキンはアスハ達が捕獲したものだった。
正確には、ローストされ地面を這いずっていたチキンを、ついでだからと持ってきて酒場に買い取ってもらったのだ。
「チキンの買取額はそれなりだったけど、今日は割引してくれるって言うし、結果オーライだよな」
パリパリの皮と肉汁あふれるチキンにかじりつきつつ、アスハが同意を求めるように呟く。
サラダをムシャムシャと頬張りながら、ユキが頷く。
「それよりも、気になるのは草原のあの有様だな」
ミリアがサクチキにかぶりつきながら話しだす。
「気になるって、何が?」
「チキンを全部ローストしてくれた犯人だよ」
「それは、火トカゲじゃないのか?」
食べ終えたチキンの骨を皿に乗せ、次の部位に取り掛かる。
「それはない」
「なんで言い切れるんだ?」
「火トカゲは、火を吹けませんから」
ミリアの代わりに、ユキが答える。
「は? じゃあ、あれの犯人が別にいるってことなのか?」
「確実だな。それも恐らく魔物じゃなくて魔法が使える人間か、もしくは魔人か」
「魔人?」
ミリアは脂のついた指をペロッと舐めると話を続ける。
「人に似た姿に高い知能、頭部には角を持ち強力な魔法を操る。魔王配下の四大天魔の一人も魔人だって話だな」
「魔王配下の四大天魔って・・・・・・そんな奴がこんな所まで来るか? ここって一応、魔王領から一番遠い町なんだろ?」
数日この世界で過ごしながら得た情報から、この町がこの世界でどのような立ち位置にあるのか、なんとなく把握していた。
メルクリア公国の南東の端。冒険者の町ストーリア。多くの低ランク冒険者達がこの町から旅立って行く。
まさに始まりの町という呼称が相応しい町だった。
「ありえない話じゃないぞ? 敵は弱いうちに叩くに限る。この町に居るのは殆どが低ランクの雑魚だからな。強くなるまえに一掃しておくのも戦略としては悪くない」
「雑魚筆頭の言葉は説得力が違うな」
「そこに直れ。首を落としてやろう」
アスハの軽口にミリアがスネをガンガンと蹴りながら答える。
「痛っ⁉︎ 痛った⁉︎ スネを蹴るのはやめろ!」
「これが! 最強の! 力だ! 思い知れ!」
アスハがミリアの蹴りを鞘で防ぎつつハニーワインに口をつけていると、給仕のお姉さんが子供の飲み物のお代わりを持ってくる。
「は~い。お待たせ~」
「ちゃんと大人の飲み物なんだろうな?」
疑惑を向けるミリアは子供の飲み物を一口飲む。
「この甘み! シュワシュワ感! なんだちゃんと大人の飲み物じゃないか! 全く、惑わせるようなことを」
そうして、酒場での一夜が繰り広げられていく。
ミリアが大人の飲み物の真実を知るのは大分先の話である。
刃こぼれをおこした剣はヴァイスに預けて研ぎ直してもらうことになり、かわりに同様の剣を購入した。
「またいい素材がとれたらいつでも持ってきな!」
去り際にヴァイスが上機嫌に言っていたので、次も利用するとしよう。
諸々の用事を済ませた頃には、すっかり深夜をまわっていた。
それでも酒場には無駄に活気が溢れている。
「じゃあ、俺はこのハニーワイン? って奴とノーヘッドチキンの丸焼きで」
「私はベリーワインとチキンサラダを」
「私はこのサクチキと大人の飲み物を貰おうか?」
給仕のお姉さんが、
「かしこま~」
と軽いノリで注文を聞いて厨房へ向かう。
「大人の飲み物ってなに?」
「フッ知らないのか? これは大人のみが口にできる秘密の飲み物なのだ。子供は口にすることは許されない禁断の味だ」
「じゃあ、お前飲めないじゃん」
アスハの何言ってんだこの子供? という視線にミリアが噛み付く。
「私は大人だ!」
「いやいや。ないない」
自らの正当性を主張するミリアだが、アスハは軽くあしらっている。
暫くして、飲み物が運ばれてきた。
「はい。こちら、ハニーワインとベリーワイン。それと、ミリアさんには子供のーーじゃなくて、大人の飲み物で~す。料理はもう少々お待ちくださ~い」
「お、きたか」
「なぁ、今、子供の飲み物って言いかけなかったか?」
ミリアの猜疑心に満ちた表情に、給仕のお姉さんは、ニコッと笑うと無言で戻っていく。
「へーそれが子供のーー大人の飲み物か。琥珀色で発泡してるって、なんかビールみたいだな」
「おい、これ、大人の飲み物なんだよな? このメニューにある子供の飲み物と間違ったりしてないよな?」
ミリアが厨房へ向けて質問しているが返答はない。
「ーー飲んだことあるんじゃないのか?」
「ーー冒険者みたいに魔物を討伐したら頼むって決めてたんだ。だから、今日初めて頼んだ」
「ミリア、お前・・・・・・今まで魔物倒したこと無かったのか?」
照れくさそうにしているミリアを見ながら、アスハは、正確にはミリアは魔物を倒していないという事実を口に出すべきかどうか迷う。
「火トカゲを倒したのは私ですが? ミリア様は気絶していただけでは?」
ユキが、ベリーワインに口をつけながら空気を読まずに呟く。
「う、あう、うるさい! パーティの勝利は私の勝利だからいいんだ!」
ミリアはそういうと、大人の飲み物(子供の飲み物)のジョッキを掴み腰に手を当てると、一気に飲み干す。
聞き耳を立てていたのか、店の常連達が指笛を吹いたり、「いっきいっき」等と囃し立てはじめる。
「く~っ‼︎ こ、これが大人の飲み物か⁉︎ すごい‼︎ すごいシュワシュワで甘い‼︎」
「ーー甘いんだ」
(甘いなら子供の飲み物だな)
常連達は、一様にそう思ったが口には出さなかった。大人の対応である。
アスハは、ミリアの感想を聞きながら、琥珀色のハニーワインに口をつける。
蜂蜜のような甘さの中にほんのりとアルコールの味がした。
「これ、すげぇ甘いな」
「ハニーワインは、魔法で果物を凍らせることで、糖度をあげて造られたワインですから。ちなみに、このベリーワインは木苺が混ぜてあるので、とても酸っぱいです」
ユキが、饒舌にワインの説明をはじめる。その表情にあまり変化はないが、頬に少し赤みがさしているように見えた。
給仕のお姉さんが、大皿を器用に両腕にのせて運んでくる。
「はい。丸焼きとサラダとサクチキね」
ミリアがすかさず大人の飲み物を追加注文する。
「は~い。子供の飲み物追加ね~」
「おい、今、子供の飲み物って言ったよな? なぁ! おい、まて! 大人の飲み物だぞ? 大人の飲み物持ってこいよ? 絶対だぞ⁉︎」
給仕のお姉さんに噛み付くミリアを横目に、アスハはノーヘッドチキンの丸焼きに取り掛かる。
何を隠そう、このチキンはアスハ達が捕獲したものだった。
正確には、ローストされ地面を這いずっていたチキンを、ついでだからと持ってきて酒場に買い取ってもらったのだ。
「チキンの買取額はそれなりだったけど、今日は割引してくれるって言うし、結果オーライだよな」
パリパリの皮と肉汁あふれるチキンにかじりつきつつ、アスハが同意を求めるように呟く。
サラダをムシャムシャと頬張りながら、ユキが頷く。
「それよりも、気になるのは草原のあの有様だな」
ミリアがサクチキにかぶりつきながら話しだす。
「気になるって、何が?」
「チキンを全部ローストしてくれた犯人だよ」
「それは、火トカゲじゃないのか?」
食べ終えたチキンの骨を皿に乗せ、次の部位に取り掛かる。
「それはない」
「なんで言い切れるんだ?」
「火トカゲは、火を吹けませんから」
ミリアの代わりに、ユキが答える。
「は? じゃあ、あれの犯人が別にいるってことなのか?」
「確実だな。それも恐らく魔物じゃなくて魔法が使える人間か、もしくは魔人か」
「魔人?」
ミリアは脂のついた指をペロッと舐めると話を続ける。
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数日この世界で過ごしながら得た情報から、この町がこの世界でどのような立ち位置にあるのか、なんとなく把握していた。
メルクリア公国の南東の端。冒険者の町ストーリア。多くの低ランク冒険者達がこの町から旅立って行く。
まさに始まりの町という呼称が相応しい町だった。
「ありえない話じゃないぞ? 敵は弱いうちに叩くに限る。この町に居るのは殆どが低ランクの雑魚だからな。強くなるまえに一掃しておくのも戦略としては悪くない」
「雑魚筆頭の言葉は説得力が違うな」
「そこに直れ。首を落としてやろう」
アスハの軽口にミリアがスネをガンガンと蹴りながら答える。
「痛っ⁉︎ 痛った⁉︎ スネを蹴るのはやめろ!」
「これが! 最強の! 力だ! 思い知れ!」
アスハがミリアの蹴りを鞘で防ぎつつハニーワインに口をつけていると、給仕のお姉さんが子供の飲み物のお代わりを持ってくる。
「は~い。お待たせ~」
「ちゃんと大人の飲み物なんだろうな?」
疑惑を向けるミリアは子供の飲み物を一口飲む。
「この甘み! シュワシュワ感! なんだちゃんと大人の飲み物じゃないか! 全く、惑わせるようなことを」
そうして、酒場での一夜が繰り広げられていく。
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