この悪縁に祝杯を

初瀬四季[ハツセシキ]

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旅は道連れ世は情け

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 ユキが破壊したランプを、何故かアスハが弁償した後、依頼を受けるために酒場へやってきた。

「なぁ、おかしくないか?」

「なにがでしょう?」

 依頼書を精査しながらボソリと呟くアスハ。
 ユキは不思議そうな顔で、そんなアスハの顔を見る。

「なんで俺が、お前が破壊したランプを買取りしなきゃいけないんだ?」

「メイドの不手際は、主人の不手際。その責任を取るのは当然のことだぞ?」

 ミリアが腕を組みながら何を当たり前のことを。といった様子でアスハの疑問に答える。

「そうですね。私の不手際は、アスハ様の不手際です。その後始末を出来ることがメイドを雇う最低限の甲斐性というものです」

「メイド解雇したいんだけど」

 このままでは、金がいくらあっても足りない気がする。
 
「待ってください⁉︎ アスハ様に捨てられたら私どうやって生きていけばいいんですか⁉︎」

「誰か優しい人が拾ってくれるさ」

 遠い目をしながら、ボソリとこぼすアスハの腰にしがみつきガクガクと揺らすユキ。
 グワングワンと揺れる上半身のその勢いに押されて、後頭部を壁にぶつけるアスハ。
 一瞬意識を持っていかれる。

「ーーはっ⁉︎ 俺は一体何を?」

 これ幸いとユキはアスハにあることないこと吹き込みはじめる。

「絶体絶命の中、私に命を救われたアスハ様は、私に惚れこみ、ぜひメイドになって欲しいと、毎月の三十万メルクのお給金と食事付きの一軒家住まいを約束して下さいました。さあ、早く依頼を受けてお金を稼いでくるのです」

「そんなこと一言も言ってないからな! 記憶失ったわけじゃねぇよ! 洗脳しようとするな!」

 ユキは吹けない口笛を吹きながら、明後日の方向を向いている。

 ミリアはそんな二人を完全にスルーしながら、依頼書に手を伸ばす。

「これを受けるぞ」

 ミリアが出した依頼書を受け取ったのは、いつもの受付のお姉さんではなく、猫耳の生えた眠そうな目の女性だった。

「不受理ですにゃ」

「何故だ!」

 ミリアがまた、依頼の受付を拒否されている。アスハが依頼書の内容を確認すると、そこには、見覚えのある文字列が並んでいた。

「ドラゴンは無理だろ」

「無理ですね」

 アスハに続いて、ユキも頷く。
 ミリアはぐぬぬっと悔しそうに歯噛みすると、じゃあこれだ。と別の依頼書を受付の机に叩きつけるように置く。

「不受理ですにゃ」

「何故だ!ユニコーンぐらい楽勝で捕まえてやる!」

 猫耳のお姉さんは、やれやれと肩を竦める。

「ユニコーンの捕獲もドラゴン討伐と難易度殆ど変わらにゃいにゃ」

 ミリアは、親の仇のように依頼書を睨みつけると、別の依頼書を持ってくる。

「これは「不受理ですにゃ」

 ミリアが持ってきた依頼書をチラッと見ると、すぐに不可を告げる。
 ヤケになったミリアが、掲示板から大量に依頼書を持ってきて、受付の机に叩きつけるように置く。

「これ「全て不受理ですにゃ」

「なんで‼︎」

 ミリアが涙目になっている。
 
「めんどくさいからにゃ」

 猫耳のお姉さんが背後から現れた受付のお姉さんに後頭部を叩かれる。

「何してるんですか、ミケさん?」

「いたいにゃ。にゃにするにゃリスト。いきなり頭を叩くなんてパワハラにゃ。訴えるにゃ」

 ミケは頭をさすりながら、リストに抗議する。

「申し訳ありません。この子まだ新人なので、クレーマーへの対応方法がまだわかっていないんです。ここは私の顔を立てて、穏便にお願いします」

「誰がクレーマーだ‼︎」

 ミリアがガルルっと威嚇しながら噛み付く。
 側からみてもその行動はクレーマーっぽいが、本人は至って真面目に精一杯生きているだけである。

「わけがわからにゃいにゃ」

 ミリアに絡まれ、先輩に頭を叩かれたミケは、不貞腐れたように依頼書の束を弾く。
 その理不尽に打ちのめされているような姿に少し己を重ねたアスハはついボソリと呟く。

 「同意だにゃ」

 ミケは、びくりと反応する。

「にゃにゃ⁉︎ お前も寝猫族かにゃ?」

 猫耳を探すようにしげしげとアスハを眺めるミケ。
 アスハは右手を顔の前に当てニヒルに笑う。

「違うにゃ」

「じゃあ、にゃんで語尾ににゃをつけてるにゃ?」

 ミケは眉間にシワを寄せながら、アスハを見る。
 それを受けてアスハはやれやれと肩を竦める。

「にゃんとにゃくにゃ」

「もしかして、わたしのまねしてるにゃ?」

 ミケは嫌そうな顔をする。

「せやにゃ」

「まにぇしにゃいで欲しいにゃ」

 しっしっと手を振り帰れとジェスチャーで暗に伝えるミケ。
 それに気づかないフリをするアスハ。

「にゃんでかにゃ?」

「にゃんか馬鹿にされてる気ににゃるにゃっ!」

 ミケの尻尾が左右にゆらゆらと揺れている。

「ハハッワロス・・・・・・にゃ」

「杜撰! 杜撰だにゃ!」

 ミケの尻尾が膨らむ。

「わろにゃ」

「ワロタっていったにゃ? 馬鹿にしてるにゃ‼︎」

 ミケの瞳孔が細くなる。

「せやにゃ」

「ころころしていいにゃ?」

 ミケの声がワントーン低くなる。

「にゃんか不穏にゃ空気を感じるにゃ」

 アスハが危機感の薄い声を出す。

「いい加減にしにゃいと怒るにゃ?」

 ミケが微笑みを浮かべる。
 楽しくなってきたアスハがさらに煽る。

「からにょーにゃ?」

「本気でぶちころころしますよ?」

「語尾にょにゃがきえたにゃ‼︎?!」

 驚愕するアスハに対して、ミケが飛びかかる。

「ぶっころころす!」

 めっちゃころころされた。



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