この悪縁に祝杯を

初瀬四季[ハツセシキ]

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人は見かけによらぬもの

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「こいつの装備を見繕ってくれ」

 ミリアが、アスハを指差しヴァイスに注文をつける。

「あぁ? まぁいいが、嬢ちゃんとおんなじで貧弱な体格してんなぁ。こりゃフルプレートアーマーは無理だな」

 ヴァイスがミリアを横目にそう呟く。ミリアがすかさずローキックを決める。

「いや、ちょっと待て、シュヴァルツだかヴァイスだかわからんがあんたなんなんだ?」

 アスハの当然の疑問に、ヴァイスははげ上がった頭を掻きながら質問する。

「んなことどうでもいいんだよ。それより、どんな装備が欲しいんだ?」

 ヴァイスのかわりにミリアがアスハの疑問に答える。

「そいつは、ダブルって種族なんだよ」

「ダブル?」

 ミリアはめんどくさそうに説明をはじめる。

「『ダブル』別名『双人』今見たとおり、一つの身体に二つの人格を持った種族の事だ。こいつみたいに見た目が変化するのは珍しいけどな。基本的に片方が寝るともう片方が起きる」

「ーーつまり、生まれつき二重人格の種族ってことか。寝てる間にもう一人の自分が働いてくれるって羨ましいな」

 アスハの感想を聞いたヴァイスが不機嫌そうに会話に割って入る。

「ーー押しつけられる方はたまったもんじゃねぇよ。ーーそれで、どんな装備がほしいんだ?」

「ーーあー、オススメってある?」

 目の前の現象に驚いていたアスハは特に何も考えていなかった。

「あぁ? オススメねぇーー店の在庫処分の売れ残りならいつでもオススメしてるぜ?」

「そうじゃねぇよ! てめぇ売る気あんのか!」

 アスハがヴァイスの投げやりな対応に怒りを向ける。

「めんどくせぇなぁ。まず、兄ちゃんの好みを教えろよ。軽いのがいいのか、耐久性が高いのがいいのか。ウチはこの国でも割と品揃えがいい方だからな。種類も豊富だぜ?」

 アスハは暫く考えた後、答える。

「ーーじゃあ、羽のように軽くてドラゴンのブレスにも耐えられて、かっこいいやつがいい」

「ないな」

 にべもない。

「ないのかよ!」

「伝説級の装備はだいたいオーダーメイドだからな。お前さん初心者だろ? 古着着てる所からして、金もあんまりねぇだろうし。まずはぶっ壊すつもりで、安い装備使っとけよ。ドラゴンなんぞと戦う機会ねぇだろ」

 ないこともないが、それ以外はほぼ正論なので、とりあえず従っておく。

「まぁ、真面目にオススメするとしたら、これだな」

 ヴァイスは、手近にあった革製の鎧をアスハに手渡す。

「まぁ、まずは着てみな。火トカゲの皮をなめしてある。ドラゴンのブレスには耐えられんだろうが、熱にはそれなりに耐性があるぞ。なにより軽いしな」

 貧弱そうな兄ちゃんにはぴったりだ。と余計な一言を添える。
 アスハは、ジトっとヴァイスを睨みながらもとりあえず鎧を身につけてみる。
 
「ーーこれいいな。動きやすい」

 どうやらヴァイスは態度と顔に似合わず、見る目は確かなようで、サイズもアスハにピッタリと合っていた。

「武器はまぁ、取り敢えずこいつはどうだ?」

 ヴァイスが手渡してきたのは、中庸な長さの西洋剣だった。
 アスハは、剣を片手で掴むと試しに振ってみる。肉体労働のおかげで腕力は足りているようだった。しかし、

「ーー振られてやがるな。こっちはどうだ?」
 
 ヴァイスが先ほどより一回り小さい西洋剣を渡してくる。

「いい感じじゃねぇか。じゃあ後は盾と、靴も変えたほうがいいな」

 アスハの足元を見て、フォーマルな革靴に目を細める。

「ーーなんで兄ちゃん革靴だけいいもん履いてんだよ・・・・・・」

  他に金使うところあるだろうに。ヴァイスは若干呆れながら、丈夫そうなブーツを差し出してくる。

 そして、ちょっと待ってろと、店の裏に入っていく。
 アスハは靴を履き替えながら、ミリアに尋ねる。

「ーーなぁ、もしかしてヴァイスって凄いやり手なのか?」

「言ってなかったか? この店、王室近衛の御用達だぞ?」

 それを知っているミリアは一体なんなのか。
 新たな疑問が湧いてきたが、取り敢えず考えないようにしながらブーツの履き心地を確かめる。

「よくお似合いです。アスハ様。まるでちゃんとした冒険者みたいです」

 店内を物色していたユキが、アスハの服装を見て感想をもらす。

「ーーそ、そう?」

 ユキの発言は少し気になったが、一応褒められているようなので、照れた素振りを見せるアスハ。

「ユキも装備揃えたほうがいいんじゃないか?」

 アスハがユキのメイド服を見ながら、そう提案するが、ユキは首を振る。

「私はあくまでメイドなので」

 この服が戦闘服です。と続ける。

「なるほど。ーーわからん」

 わからなかった。そんなことを言っている間に、ヴァイスが戻ってくる。

「ほれ、こいつを左手につけてみろ」

 ヴァイスが持ってきたのは、黒い籠手だった。

「籠手? 盾は?」

「兄ちゃんの筋力だと盾を持っても動けんだろ」

 正論やめて。
 アスハは、少し涙目になりながら、籠手を左手に装備する。

「そいつは、アダマス鉱石製だから熱も伝わりにくいし、強度も高い。ただ、あまり強すぎる衝撃は受けるなよ? 斬撃には強いが、打撃にはあまり耐性が無いからな」

 ヴァイスは、軽く注意点を説明すると、まぁ、こんなもんだな。とアスハの全身をしげしげと見る。

「どうだ?」

 アスハは、軽く全身を動かすとその場で屈伸運動をする。

「ーー気に入った。買うよ。いくら?」

 即決だった。ヴァイスは、ニヤリと笑うと、

「まぁ、諸々込みで五十万メルクって所だな」

「五十万・・・・・・」

 買える。買えるがーーどうなんだ? ミリアに目配せする。
 ミリアは首を傾げる。

 ユキの方を見る。
 ユキはこちらを見ていない。

 アスハが口を開こうとすると、ヴァイスは、

「おっと、値下げ交渉なら受け付けねぇぜ? 今回はギリギリ大サービスだからな! 他の店で買ったら、六十万メルクぐらいになっちまう所を、その嬢ちゃんの知り合いってことでおまけしてやってるんだ」

 アスハはミリアを見る。
 また首を傾げている。ーーいや、その反応はおかしい。

「わかった。ーーそれで買うよ」

「そうこなくっちゃな。気前のいい奴は好きだぜ? さらにおまけしてやるよ」

 懐から五十万メルクちょうどを出し、ヴァイスに手渡すと、ヴァイスは、何やら赤い石をアスハに放ってくる。

「ーーこれは?」

「魔法石って奴だ。魔力を込めると、その石の中に封じられた魔法が発動する。使い切りだけどな」

 魔法! ワクワクしながらその石を光にかざす。内部に炎のような揺らぎが見えた。

「なんの魔法が使えるんだ?」

「さぁ? 貰いもんだから知らん。使ってからのお楽しみってやつだ」

 えぇ。ーーそういえば、店の外に同じような石がセール品として置いてあった気がする。
 もしかして、在庫処分品か?

「まぁ、頑張れよ兄ちゃん。とりあえず死ぬな! そうすりゃまぁ、なんとかなる! 応援してるぜ!」

 その言葉に、アスハがちょっとウルッとしてると、

「そして、うちの金づるになってくれ!」

 とヴァイスが続ける。

「言い方を考えろ⁉︎」

 アスハはヴァイスに背を向けると新たな冒険の始まりだ! といった気持ちで、店のドアを開け放つ。
 そして、ガシャーンといった効果音が鳴り響く。

 背後では、ユキがランプを取り落としていた。

「ーー兄ちゃん、これ買い取りしてくんね?」

 幸先が不安だ。

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