上 下
19 / 33

一枚の紙にも裏表

しおりを挟む
 暖かくなった懐を隠しながらアスハは武具店を訪れた。

「なんか不審者みたいだぞ?」

 ミリアがアスハの挙動を半眼で見ながら商品のロングソードを持ち上げようとして、断念している。

「馬鹿野郎、三百万だぞ! 三百万‼︎」

 アスハはワナワナと震える。

「ーーこんな大金持ってたら、いつ強盗に襲われるか・・・・・・」

 その時、アスハの目の前にヌッと巨大な影が現れる。
 
「ひっ強盗⁉︎」

「ーーえっ強盗⁉︎ どこどこ⁉︎」

 妙に高い声で驚きの声を上げる目の前の巨体の男は、はげ上がった頭部に無精髭を生やした色白の人物だった。

「よぉ、シュヴァルツ。武器よこせ」

 ミリアが、巨体の人物に話しかける。

「ひっ強盗⁉︎」

「誰が強盗だ」

 シュヴァルツは横柄な態度のミリアを強盗と認識して、小さく縮こまる。

「私だ、この前もこのエクスカリバーとダインスレイブを買いにきただろうが」

「ーーエクスカリバーとダインスレイブ?ーーあ、カトラス二本持ってったーーひっまた強盗するつもり⁉︎」

 シュヴァルツは、ガタガタ震えながらミリアを怯えた目で見る。

「お前、それ強奪したのか? ミリア?」

 アスハが、ミリアの腰に下げた二本のカトラスを見ながら若干引き気味になる。

「してないが? 人聞きの悪いことを言うな」

「嘘! この前、あたしが気絶してる間にカトラス持って行ったじゃない!」

 ミリアは縮こまる巨体を足蹴にするとグリグリと踏みつける。

「金は前払いで払っただろうが。お前が造った不良品のフルプレートアーマーの代わりに貰ったんだよ」

「不良品じゃないわよ! 貴女が貧弱過ぎるだけじゃない!」

 ミリアは、足に込める力を強める。

「誰が貧弱だ。踏み潰すぞ」

「ひぃ‼︎」

 ミリアの筋力ではどう考えても、シュヴァルツの巨体を踏み潰すことは出来ないが、シュヴァルツは、小さく叫び声をあげ、泡を拭いて白眼になる。

「ーーお、おいミリア? やりすぎじゃ?」

「これでいいんだ」
 
 ミリアは、はぁとため息を吐くと、足をどける。
 すると、シュヴァルツに異変が起こりはじめる。その真っ白だった肌が、徐々に褐色に変わっていき、遂には真っ黒になる。
 そして、シュヴァルツは目を開ける。

「チッ! また気絶しやがったな、シュヴァルツのビビリめ」

 そう口走ったのは、真っ黒な巨体になったシュヴァルツ自身だった。

「やっと出てきたな、ヴァイス」

「あっ? よう嬢ちゃんカトラスの切れ味はどうよ?ーーまぁ嬢ちゃんの貧弱さじゃ扱いきれないだろうが」

「しばくぞ?」

 ミリアは立ち上がったヴァイスのスネに、ローキックを決めながら悪態をつく。
 ヴァイスは、それを気にした様子もなく大きく伸びをする。

「それで? 今日はなんのようだ?」

 驚愕しているアスハの後ろで、グワングワンと大きな音が鳴り響く。

 振り向いたアスハが見たのは、大きな盾を取り落として、オロオロしながら口笛を吹こうとして失敗するユキの姿だった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

140字小説〜ロスタイム〜

初瀬四季[ハツセシキ]
大衆娯楽
 好評のうちに幕を閉じた750話の140字小説。  書籍化が待たれるもののいまだそれはなされず。  というわけで、書籍化目指して頑張ります。  『140字小説〜ロスタイム〜』  開幕‼︎

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

人生フリーフォールの僕が、スキル【大落下】で逆に急上昇してしまった件~世のため人のためみんなのために戦ってたら知らぬ間に最強になってました

THE TAKE
ファンタジー
落ちて落ちて落ちてばかりな人生を過ごしてきた高校生の僕【大楽 歌(オオラク ウタ)】は、諦めずコツコツと努力に努力を積み重ね、ついに初めての成功を掴み取った。……だったのに、橋から落ちて流されて、気付けば知らない世界の空から落ちてました。 神から与えられしスキル【大落下】を駆使し、落ちっぱなしだった僕の人生を変えるため、そしてかけがえのない人たちを守るため、また一から人生をやり直します!

処理中です...