この悪縁に祝杯を

初瀬四季[ハツセシキ]

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一枚の紙にも裏表

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 暖かくなった懐を隠しながらアスハは武具店を訪れた。

「なんか不審者みたいだぞ?」

 ミリアがアスハの挙動を半眼で見ながら商品のロングソードを持ち上げようとして、断念している。

「馬鹿野郎、三百万だぞ! 三百万‼︎」

 アスハはワナワナと震える。

「ーーこんな大金持ってたら、いつ強盗に襲われるか・・・・・・」

 その時、アスハの目の前にヌッと巨大な影が現れる。
 
「ひっ強盗⁉︎」

「ーーえっ強盗⁉︎ どこどこ⁉︎」

 妙に高い声で驚きの声を上げる目の前の巨体の男は、はげ上がった頭部に無精髭を生やした色白の人物だった。

「よぉ、シュヴァルツ。武器よこせ」

 ミリアが、巨体の人物に話しかける。

「ひっ強盗⁉︎」

「誰が強盗だ」

 シュヴァルツは横柄な態度のミリアを強盗と認識して、小さく縮こまる。

「私だ、この前もこのエクスカリバーとダインスレイブを買いにきただろうが」

「ーーエクスカリバーとダインスレイブ?ーーあ、カトラス二本持ってったーーひっまた強盗するつもり⁉︎」

 シュヴァルツは、ガタガタ震えながらミリアを怯えた目で見る。

「お前、それ強奪したのか? ミリア?」

 アスハが、ミリアの腰に下げた二本のカトラスを見ながら若干引き気味になる。

「してないが? 人聞きの悪いことを言うな」

「嘘! この前、あたしが気絶してる間にカトラス持って行ったじゃない!」

 ミリアは縮こまる巨体を足蹴にするとグリグリと踏みつける。

「金は前払いで払っただろうが。お前が造った不良品のフルプレートアーマーの代わりに貰ったんだよ」

「不良品じゃないわよ! 貴女が貧弱過ぎるだけじゃない!」

 ミリアは、足に込める力を強める。

「誰が貧弱だ。踏み潰すぞ」

「ひぃ‼︎」

 ミリアの筋力ではどう考えても、シュヴァルツの巨体を踏み潰すことは出来ないが、シュヴァルツは、小さく叫び声をあげ、泡を拭いて白眼になる。

「ーーお、おいミリア? やりすぎじゃ?」

「これでいいんだ」
 
 ミリアは、はぁとため息を吐くと、足をどける。
 すると、シュヴァルツに異変が起こりはじめる。その真っ白だった肌が、徐々に褐色に変わっていき、遂には真っ黒になる。
 そして、シュヴァルツは目を開ける。

「チッ! また気絶しやがったな、シュヴァルツのビビリめ」

 そう口走ったのは、真っ黒な巨体になったシュヴァルツ自身だった。

「やっと出てきたな、ヴァイス」

「あっ? よう嬢ちゃんカトラスの切れ味はどうよ?ーーまぁ嬢ちゃんの貧弱さじゃ扱いきれないだろうが」

「しばくぞ?」

 ミリアは立ち上がったヴァイスのスネに、ローキックを決めながら悪態をつく。
 ヴァイスは、それを気にした様子もなく大きく伸びをする。

「それで? 今日はなんのようだ?」

 驚愕しているアスハの後ろで、グワングワンと大きな音が鳴り響く。

 振り向いたアスハが見たのは、大きな盾を取り落として、オロオロしながら口笛を吹こうとして失敗するユキの姿だった。





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