この悪縁に祝杯を

初瀬四季[ハツセシキ]

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傷口に塩を塗り込む 「改」

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 大方の予想通り、ミリアは木のツルに足をとられて転び気を失った。

『な、なんだ?』

 ドラゴンが困惑したような思念を飛ばす。

「すいません! なんでもないです! ではさようなら!」

 アスハは、ミリアを小脇に抱えてその場を離れようとする。しかし、

『待て』

 ドラゴンに待ったをかけられる。

「な、なにか?」

『その幼子、我に攻撃しようとしてなかったか?』

 ダラダラと冷や汗を流しながらアスハは、

「そんなことないですよ?」

 と棒読みで返事をする。

『くらええええええ‼︎と聞こえたが?』

「それは、こいつなりの挨拶です」

 ドラゴンは、そうかと相槌を打つとゆっくりとその身の丈、数十メートルはあろうかという巨体を起こす。

『まぁ、そんなことはどうでもいい。久方ぶりの挑戦者だ。相手をしてやろう』

「挑戦者? 誰が?」

 アスハは周囲を見回す。すると一匹のぬこと目が合う。
 ぬこはビクッと一瞬硬直すると、じっとこっちを見つめる。

「まさか、あのぬこがドラゴンに挑戦するというのか? 無理だ。体格差がありすぎる。八つ裂きにされるぞ⁉︎」

『貴様は一体なにを言っているんだ。挑戦者は貴様に決まっているだろう』

「ですよねー」

 アスハがシクシクと諦めの涙を流していると、ミリアが目を覚ます。

 ミリアは、キョロキョロと周囲を見回し、状況を確認すると、

「どうやら、真打ち登場といったところだな」

 アスハに抱えられたまま妄言を吐く。

「いや、お前じゃ無理‼︎」

 アスハのツッコミはミリアには届かない。ミリアは、アスハを振り払うとドラゴンの前に仁王立ちする。

 ドラゴンは口を大きく開けるとブレスを吐く準備をしながら、思念を送る。

『クソザコなめくじは、塩でも食らって惨めたらしく縮み上がっているが良い』

「言われてるぞ? アスハ。言い返してやれ!」

 ミリアがかわいそうなものを見る目でアスハを見る。

「いやお前のことだと思うぞ!」

『お前のことだ‼︎ 金髪の幼子よ‼︎』

 ミリアはなんだと? とドラゴンの方を振り向くと啖呵をきる。

「ふっ私の真の実力を見てもそんな減らず口が叩けるかな?」

『真の実力だと?』

 ドラゴンは訝しげな表情をする。

「私が意識を失うと、私の真なる力が溢れ出しお前のような三流ドラゴンなど一瞬で切り刻んでくれるわ」

 こいつ今、気を失ってたこと忘れてるのか? アスハがミリアの記憶力に一抹の不安を抱いていると、

「無理です‼︎ ドラゴンとか絶対無理です‼︎」

 影たちが騒ぎはじめる。しかし、ミリアには聞こえていないようだ。

「止めてください‼︎ 死んでしまいます‼︎ 私達にはドラゴン討伐とか無理ですから‼︎」

「おーい、無理だってー」

「お前はそこで見ているがいい私のドラゴンスレイヤーとしての第一歩を」

 そう啖呵をきると、二本の剣をひきぬいて、ドラゴンに斬りかかる。

 ドラゴンは、呆れたような顔をしながら爪の先でミリアを弾く。

 それだけで、ミリアは数メートル飛んでいき意識を失ったようだった。

『それで、次はどうするのだ? そろそろ燃やしても構わないか?』

「よし! 逃げよう!」

 アスハは、吹っ飛ばされたミリアを再び背負うと一目散に逃げ出した。

 二人の影を残して。

「ちょっ‼︎ はや‼︎」

 影たちは、一歩出遅れながらもそれに続く。

「ひどい‼︎ 私達を置いていくなんて‼︎」

「知るか‼︎ こいつはともかく、あんたらは勝手に着いてきてるだけだろうが‼︎ こいつの守護が役目ならおとりにでもなってろ‼︎」

 先程までの恨みから、影たちには辛辣なアスハであった。

『逃がすと思うか?』

 ドラゴンがブレスを放つ。
 獄炎の炎が周囲の木々を焼きながら、真っ直ぐアスハが背負うミリアに直撃する。

「ちょっ‼︎ 熱っ‼︎・・・・・・くない?」

 そして、直撃したと思われた炎はミリアに触れる直前で消え去る。

『なんだと⁉︎』

 ドラゴンの驚いたような声が頭に響く。

『打ち消した? まさか、その幼子・・・・・・』

 ドラゴンは、攻撃の手を止めると、ジッと観察するようにミリアを見つめる。

「なんか知らんが今のうちに逃げるぞ‼︎ 走れー‼︎」

 そして、アスハたちはその場を後にした。



「そっかあ、私ってクソザコなめくじだったんだなあ」

 ギルドに戻ってきて、影がいつのまにか捕獲していた迷いぬこを受付のお姉さんに渡し、賞金をもらう。
 どうやら、偶然水辺にいたぬこが探していた個体だったようだ。
 その後、影たちのことも踏まえて、ことの顛末をミリアに告げると、ミリアは愕然とした顔をしながら、呟いた。

 ミリアは生気を失ったような目をしながら、体育座りで椅子の傷をなぞっている。

「うすうすおかしいとは思ってたんだあ。だって、気を失ったら相手が倒れてるってどう考えてもおかしいもん。気を失うと発動する真の力とか使い勝手悪すぎるもん。みんな影たちがやってたんだなあ。そりゃあそうだよなあ。私歩いただけで何もないところで転ぶし、背も低いし、フルプレートアーマー重くて着れなかったし。真の力なんかあるわけないよなあ」

 ミリアの、自虐が止まらない。

「おい、なんとかしろよあれ。お前らのせいだろ?」

「どうしろっていうんですか⁉︎ 私達は良かれと思って‼︎」

 影たちは、ただオロオロとするだけでミリアにかける言葉がみつからないようだ。
 現在、二人の影たちはその姿を現していた。

 二人の姿を見た時のミリアは、親に秘密の日記を見られた子供のような表情をしていた。

「まあ、そう気を落とすなよ。今はクソザコなめくじでも、頑張ればいつかいいことあるって!」

 アスハの全く慰めになってない慰めに、

「私の事は放っておいてください」

 と敬語で返すミリア。

 めんどくさいと思いながら、

「まあ、気分が落ち込んだ時は、飯でも食えば、気分もだいぶマシになるさ」

 ミリアに声をかけつつ、あるものを注文する。

「これは俺からの奢りだ。元気出せよ?」

 そう言ってミリアの前に器いっぱいに盛られた塩を差しだす。

 ミリアはそれをみると、

「表でろ」

 と呟いて、二本の剣を抜くのだった。


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