この悪縁に祝杯を

初瀬四季[ハツセシキ]

文字の大きさ
上 下
11 / 33

地獄の沙汰も金次第 「改」

しおりを挟む
「死んだ?」

「縁起でもないこと言わないでください」

 意識を失ってから、ピクリとも動かないミリアを上から眺めるアスハ。

「あなた、ちょっと確かめてください」

「なんで俺が⁉︎」

 影は、アスハを縛る縄を切る。また、頭から落下するアスハ。悶絶しながら、

「ふざけんなよお前ら!」

「いいから、はよ?」

 アスハは、渋々、ミリアの脈と呼吸を確認する。

「生きてるよ、たぶん」

 影に向けて、そう報告する。

「では、あなたが介抱してください」

「何故⁉︎」

 あなたが原因なのだから、当たり前でしょう。変なことしたら殺します。とだけ言い残すと影はそれきりだんまりを決め込むのだった。

「変なことなんかするか‼︎」

 流石にこんな荒くれ者の巣窟のような場所に意識のない女の子を放置するのも気が引けた。
 仕方なく、ミリアを抱え上げる。そして、空いていたテーブルの座席に寝かせる。

 しばらく後、ミリアが目を覚ました。額にのせられた濡れタオルをとると、

「おい、具合はどうだ?」

 そう問いかけるアスハに、

「なんのつもりだ?」

 と、訝しげなミリア。

「別に。やむを得ない事情があったから仕方なくだ」

 介抱しなければ、殺されるというほぼ強制的な理由であった。
 ミリアは、アスハのその態度をどう受け取ったのか、

「なるほどな。そういうことか」

 と、一人で納得したようだった。

「お前、私の下僕になりたかったのか」

「ちげぇよ‼︎」

 ひどい勘違いをされていた。
 ミリアは、一人うんうんと頷くと、

「隠さなくていい。私の下僕になりたいというのも致し方ないことだ。なにせ、私には、隠しても、隠しきれないカリスマ性があるからな」

「お前から見てとれるのは、溢れんばかりのポンコツロリ具合だけだが?」

「だが、そこがいい!」

 耳元で、影が呟いた気がした。ミリアは、アスハの発言を聞いていないのか、

「よかろう。では下僕に最初の仕事を与えてやろう。椅子になれ」

「断る」

 首筋に冷たい何かが触れる。

「かしこまりました」

 アスハは、掲示板の前で四つん這いになる。
 ミリアは、それを見ると、アスハの背中に立膝で乗る。

「よし、もう少しだもう少しで届く」

 どうやら、まだ届いていないらしい。

「なぁ、俺がその依頼書取った方が早いんじゃあ」

「黙りなさい」

 首筋にまた冷たい何かが触れる。

「ミリア様がご自身でやりきることに意味があるのです。なによりそっちの方が可愛いでしょう! 見なさいあの健気にも手を思いっきり伸ばしても届かない愛らしい姿を! 尊いでしょう!」

 床しか見えません。それと、背中がゴリゴリと痛いです。

 暫く背中をゴリゴリされながら床を見る時間が続いた。
 
 その後、なんとか目的の依頼書を手に入れたミリアは、

「よし、いくぞ下僕」

 と、アスハを引きずりながら、受付に向かった。

「いや、まて‼︎ なんで俺までお前とクエスト受けなきゃいけないんだ‼︎ 絶対嫌だ‼︎! 失敗する未来しか見えない‼︎!」

 暴れるアスハを無理矢理引っ張るミリア。

「安心しろ。私は、最強だからな。ドラゴンくらい一瞬で輪切りにしてやろう」

「ドラゴン⁉︎ 無理! 絶対無理! ほら、俺装備もまだだし、初心者だから‼︎」

 ミリアは、勢いよく受付に依頼書を出すと、

「これを受ける!」

「受理できません」

 受付で一蹴される。

「何故だ!」

 ミリアが受付のお姉さんに噛みつく。

「いえ、募集条件がランクA以上ですので。ミリアさんまだランクFですよね」

「ランクF⁉︎」

 俺より下がいるだと。

「ランクなど飾りでしかない。本当に必要なのは、実力だ」

「はい。その実力が足りてないです」

 受付のお姉さんが困った顔で辛辣な事を言っている。

「馬鹿な! 私は最強だぞ⁉︎」

「秒で気絶する方はちょっと。あ、こちらの迷いぬこ探しとかどうですか?」

 自然に別の依頼を進められている。

「ぬこってなんですか?」

 猫とは違うのだろうか。

「愛玩用に品種改良されたぬこ科のかわいい生き物ですよ」

 ぬこ科ってなんだよ。

「ちなみに報酬っていくらぐらいなんですか?」

「五千メルクです」

 メルク?

「あの、それってどれくらいの価値になるんですか?」

「そうですね・・・・・・切りつめれば五千メルクで半月の食費は賄えるんじゃないかと思いますよ」

 ということは、大体一メルク一円くらいの価値なんだろうか。

「いや無理だろ。そんな端金一瞬でなくなる」

 ミリアが、ジト目で迷いぬこの依頼書を見ている。

「ミリアさんの金遣いが荒すぎるだけだと思いますよ?」

 受付のお姉さんは呆れたような顔で事務作業に戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

140字小説〜ロスタイム〜

初瀬四季[ハツセシキ]
大衆娯楽
 好評のうちに幕を閉じた750話の140字小説。  書籍化が待たれるもののいまだそれはなされず。  というわけで、書籍化目指して頑張ります。  『140字小説〜ロスタイム〜』  開幕‼︎

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...