この悪縁に祝杯を

初瀬四季[ハツセシキ]

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憎まれっ子世に憚る 「改」

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 そこは、真っ暗な世界だった。

 暗闇の中を手探りで歩く。
 突然手に、柔らかい感触が触れる。

 その瞬間、上からの光がアスハの周囲を照らした。
 
「ようこそ痴漢さん神前の間へ」

「誤解です!」

 そこにいたのは、鳥の羽のようなものを背中から生やした、金髪の女性だった。

「いえ、気にしないでください。変態には慣れていますから」

 目が笑っていなかった。

「変態って。まさか僕のことじゃないよねー? サシェルさーん」

 突然現れたその声は、ソプラノな音色を響かせる管楽器を思わせた。

「いえいえ、滅相も無い。神様の事を変態だなんて」

 みんな言ってます。と小さな呟きが聞こえた気がした。

「そりゃそうだよねぇ。崇め奉るべき僕のことを変態とかいう奴居るわけないよね!」

 えぇそうですとも。と相槌を打つ、サシェル。

「ところでサシェルさん。ここに君の部屋から拝借した日記があるんだけど」

「なに、人の部屋に勝手に入ってんですかこの変態!」

「今のは、取り敢えず聞かなかったことにするよ。それより、この内容なんだけどさぁ」

 サシェルは明後日の方向を向いて、口笛を吹き始める。

「この散々にこき下ろされてる、Rって誰のことかなぁ?」

「さぁ。ルーマンさんじゃないですか?」

「ふーん。この『昨日冷蔵庫に入ってた私のケーキをRの野郎が食いやがった。くたばれ』って記述なんだけど、実は僕も昨日食べたんだよね。君のケーキ」

 サシェルは苦々しげな顔をしながら歯噛みする。

「へっ、へーそうなんですか。偶然ですねー。ダメですよー? 人の物勝手に食べたりしたら」

 「それで、今日は、こんなものを拝借してきました!」

 そういうと、神は、角笛を取り出した。

「・・・・・・それっ! 私のじゃないですか!」

「イエス!」

 神はピースサインをしながら角笛を弄ぶ。

「何をするつもりですか」

「いや、最近サシェルさんの尊敬の念が感じられないからさぁ、ペロリといっちゃおうかなぁって」

 そう言いながら舌を伸ばす。

「やめてください! ぶっ飛ばしますよ!」

「あーん」

 角笛と神の口が近づく。

「やめてぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」

「あのぉ、そろそろ状況説明してもらっても良いですか?」

 主役はいつだって遅れてくるものなのだ。そう、けして、無視されていたわけではない。
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