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少女喜ぶ
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少女は泣いた。
「ーー嫌って言ったのに。ーーやめてって言ったのに。ひどい!」
アルフォードは、メソメソ泣き続けるサクヤにオロオロしながらも、なんとか慰めようと奮闘する。
「サク。すみません。でも、これは仕方のないことなんです。この誓約をしないと婚約の儀式は成立しないんです」
嫌がるサクヤの指を数人で押さえつけて、針を刺し血判を押すことで、婚約は成立した。
特殊なインクで書かれた誓約書は、血判を押すと、すぐさま青い炎を吹き上げ燃え上がり中空へ消えた。
そして、サクヤとアルフォードの胸元に一瞬紋様が浮き上がると、すぐ見えなくなる。
「それに、これから婚約のお祝いですよ! パーティです! さぁ、涙を拭いて? サク?」
サクヤはアルフォードの顔を潤んだ瞳で見つめる。
アルフォードは、その顔を見ると、何故か胸の奥がざわつくのを感じた。
「サクヤ、いつまでも泣いているものではありませんよ? 貴女はこれから次代の王妃となるのですから」
見るに見かねた、サクヤの母が少女の頭に手をおきながらたしなめる。
「王妃?」
「そうです。貴女はこの国の王子であるアルフォード様と結婚するのですから」
少女は考える。
「それって、お姫様ってこと?」
「? えぇ貴女はお姫様になるんです」
少女は歓喜した。
「私! お姫様! 本当に? 夢じゃないの⁉︎」
今まで自分が何をしていたのか理解していなかった少女(中身幼女)はこの時、唐突に思い至る。
そう、幼女は四年という長い人生の中で思い描いた、大きな夢の一歩手前まで来ているのだ。
アルフォードは喜ぶサクヤをホッと微笑ましいものを見るような顔で眺めながら、先程の自らの心のざわつきの正体について考える。ーー私はさっき、なにを考えた?
その正体を突き止めることは、自らを危険に晒す事だと、アルフォードは考えを打ちきる。
「アルくん!」
サクヤが天真爛漫な笑顔を見せてアルフォードを呼ぶ。
今はこれで良い。この笑顔を彼女の隣で守っていこう。アルフォードはそう心に決めた。
「なんですか? サク?」
「私、お姫様なんだって!」
当然のことを何度も確認する子供のような振る舞いに、アルフォードは、つい本心から笑ってしまう。
「クッフフ」
「アルくん?」
それまでの作られたような笑顔を浮かべていたアルフォードの、仮面が剥がれたような笑顔に、サクヤは不思議そうに首を傾げる。
「本当に、おかしな人だ」
「サクおかしくないもん!」
サクヤは馬鹿にされたと考えたのか、プクッと頬を膨らませる。
それを見たアルフォードは、また吹き出すと、その頬を指でつつく。
「なーに?」
「いえ、なんでもないです」
サクヤは、不思議そうな顔をしながら
「えいっ!」
とアルフォードの頬をつつく。
「なんですか?」
「んー? パーティ楽しみだね! アルくん!」
サクヤはニコニコと花のように笑う。
「ーー嫌って言ったのに。ーーやめてって言ったのに。ひどい!」
アルフォードは、メソメソ泣き続けるサクヤにオロオロしながらも、なんとか慰めようと奮闘する。
「サク。すみません。でも、これは仕方のないことなんです。この誓約をしないと婚約の儀式は成立しないんです」
嫌がるサクヤの指を数人で押さえつけて、針を刺し血判を押すことで、婚約は成立した。
特殊なインクで書かれた誓約書は、血判を押すと、すぐさま青い炎を吹き上げ燃え上がり中空へ消えた。
そして、サクヤとアルフォードの胸元に一瞬紋様が浮き上がると、すぐ見えなくなる。
「それに、これから婚約のお祝いですよ! パーティです! さぁ、涙を拭いて? サク?」
サクヤはアルフォードの顔を潤んだ瞳で見つめる。
アルフォードは、その顔を見ると、何故か胸の奥がざわつくのを感じた。
「サクヤ、いつまでも泣いているものではありませんよ? 貴女はこれから次代の王妃となるのですから」
見るに見かねた、サクヤの母が少女の頭に手をおきながらたしなめる。
「王妃?」
「そうです。貴女はこの国の王子であるアルフォード様と結婚するのですから」
少女は考える。
「それって、お姫様ってこと?」
「? えぇ貴女はお姫様になるんです」
少女は歓喜した。
「私! お姫様! 本当に? 夢じゃないの⁉︎」
今まで自分が何をしていたのか理解していなかった少女(中身幼女)はこの時、唐突に思い至る。
そう、幼女は四年という長い人生の中で思い描いた、大きな夢の一歩手前まで来ているのだ。
アルフォードは喜ぶサクヤをホッと微笑ましいものを見るような顔で眺めながら、先程の自らの心のざわつきの正体について考える。ーー私はさっき、なにを考えた?
その正体を突き止めることは、自らを危険に晒す事だと、アルフォードは考えを打ちきる。
「アルくん!」
サクヤが天真爛漫な笑顔を見せてアルフォードを呼ぶ。
今はこれで良い。この笑顔を彼女の隣で守っていこう。アルフォードはそう心に決めた。
「なんですか? サク?」
「私、お姫様なんだって!」
当然のことを何度も確認する子供のような振る舞いに、アルフォードは、つい本心から笑ってしまう。
「クッフフ」
「アルくん?」
それまでの作られたような笑顔を浮かべていたアルフォードの、仮面が剥がれたような笑顔に、サクヤは不思議そうに首を傾げる。
「本当に、おかしな人だ」
「サクおかしくないもん!」
サクヤは馬鹿にされたと考えたのか、プクッと頬を膨らませる。
それを見たアルフォードは、また吹き出すと、その頬を指でつつく。
「なーに?」
「いえ、なんでもないです」
サクヤは、不思議そうな顔をしながら
「えいっ!」
とアルフォードの頬をつつく。
「なんですか?」
「んー? パーティ楽しみだね! アルくん!」
サクヤはニコニコと花のように笑う。
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