4 / 8
少女想わない
しおりを挟む
扉を開け放して、ツカツカと歩いてきたのは、真っ黒なウェーブがかった前髪を垂れさせ、陰鬱そうな目元に隈を作った、青年だった。
「だ、誰?」
ビクッと震えるサクヤ。
「誰って、何を言っているんだ。ーーサクヤ? 俺だよ! 君と将来を誓い合ったギルバートだ!」
青年は、ギルバート・L・ロレンツォオと名乗った。
「親が勝手に決めた婚約を断るから大人しく待っていて欲しいと君が言うから、俺は。ーーなのに何故! その男とそんなに!」
サクヤはアルフォードの袖をギュッと掴む。
「あの人、なに言っているの? 怖い」
「サクヤ⁉︎」
アルフォードは、サクヤを優しく抱き寄せる。
「ギルバート君と言ったかな? 今は、大事な婚約の儀式の最中なんだ。私の大事な人が怖がってしまっている。すまないが、お引き取り頂けるだろうか?」
「どういうことなんだ? サクヤ! 俺のことを忘れてしまったのか? あんなに愛しあった仲じゃないか⁉︎ 君だって俺のことを好きだと! 愛していると! そう言っていたじゃないか!」
ギルバートは狼狽えつつも、アルフォードの言葉を無視して、サクヤに話しかける。
「ーー違うもん」
サクヤは、怯えたような素振りを見せながらも、ギルバートを睨み付ける。
「ーーえ?」
「違うもん! サクヤじゃないもん! 朔だもん‼︎ あなたなんか知らないもん‼︎」
ギルバートは、愕然とした顔をして後退りする。
「・・・・・・サク、ヤ? いったい、どうしたというんだ?」
ギルバートの様子に眉を潜めながら、アルフォードはもう一人の護衛に命じる。
「リリム。彼に退室いただいてくれ」
「かしこまりました」
リリムと呼ばれた、細身の騎士は、ツカツカと歩を進めると、ギルバートに退室を促す。
「ーー何を、した。」
俯いたギルバートは、ボソリとこぼす。
「貴様ら! サクヤに何をした‼︎」
ギルバートがアルフォードに掴みかかろうと走りだす。
それをいち早く察知したリリムは、ギルバートを一瞬で床に叩き伏せる。
「っぐぅ⁉︎」
「落ち着いてください。これ以上は、貴方を処罰しなければならなくなります」
リリムは、ギルバートの拘束を強めながら囁く。
ギルバートは、関節をきめられ動けば激痛がはしるはずの身体を持ち上げながら、アルフォードをその真っ黒な瞳で睨みつける。
「ーー認めない。ーー絶対に、サクヤは、俺が助けだす。待っていてくれ・・・・・・サクヤ。俺が、必ず」
「黙りなさい」
リリムは、ギルバートの首に手を当てると、その意識を奪う。
「サク? 大丈夫ですか?」
リリムがギルバートを別室に運んだ後、アルフォードが、袖を掴むサクヤを慮るように話しかける。
「うん!ーーでも、あの人なんだったんだろう?」
サクヤは、ホッとしたような笑顔を浮かべると、不思議そうな顔で自らに愛を叫んだ青年について考える。
「・・・・・・サクヤ。お前というやつは、そこまで我等の家系の事を想ってくれていたのだな」
何故か両親が涙ぐんでいる。
「? うん!」
サクヤはよくわからないがとりあえず頷いておいた。
「それでは、横槍が入ってしまいましたが、婚約の儀式の続きを」
エドガルズが場の空気を変える。
「サク、それでは誓約書に血判をお願いします」
「うん!」
サクヤは、左手の薬指を誓約書に触れさせる。
するとーー特に何も起こらなかった。
「? これで終わり?」
「おかしいですね? 婚約が為されれば、誓約書は焼き消える筈なのですが?」
エドガルズが誓約書をまじまじと見つめる。
「ーーなるほど。サクヤ様。もう一度血判をお願いします」
「え?」
エドガルズが誓約書を示す。
「サクヤ様の血液が乾いてしまっていたようですので」
サクヤは、嫌そうな顔をしながら、アルフォードと両親を見る。
「さぁ、サクヤ様」
エドガルズが、先程の針を差し出してくる。
「嫌!」
「サ、サク?」
アルフォードが狼狽えながら、サクヤの顔色を伺う。
「痛いの嫌!」
「で、でも先程は大丈夫だと」
サクヤは、涙目で叫ぶ。
「痛いのは痛いもん‼︎」
「だ、誰?」
ビクッと震えるサクヤ。
「誰って、何を言っているんだ。ーーサクヤ? 俺だよ! 君と将来を誓い合ったギルバートだ!」
青年は、ギルバート・L・ロレンツォオと名乗った。
「親が勝手に決めた婚約を断るから大人しく待っていて欲しいと君が言うから、俺は。ーーなのに何故! その男とそんなに!」
サクヤはアルフォードの袖をギュッと掴む。
「あの人、なに言っているの? 怖い」
「サクヤ⁉︎」
アルフォードは、サクヤを優しく抱き寄せる。
「ギルバート君と言ったかな? 今は、大事な婚約の儀式の最中なんだ。私の大事な人が怖がってしまっている。すまないが、お引き取り頂けるだろうか?」
「どういうことなんだ? サクヤ! 俺のことを忘れてしまったのか? あんなに愛しあった仲じゃないか⁉︎ 君だって俺のことを好きだと! 愛していると! そう言っていたじゃないか!」
ギルバートは狼狽えつつも、アルフォードの言葉を無視して、サクヤに話しかける。
「ーー違うもん」
サクヤは、怯えたような素振りを見せながらも、ギルバートを睨み付ける。
「ーーえ?」
「違うもん! サクヤじゃないもん! 朔だもん‼︎ あなたなんか知らないもん‼︎」
ギルバートは、愕然とした顔をして後退りする。
「・・・・・・サク、ヤ? いったい、どうしたというんだ?」
ギルバートの様子に眉を潜めながら、アルフォードはもう一人の護衛に命じる。
「リリム。彼に退室いただいてくれ」
「かしこまりました」
リリムと呼ばれた、細身の騎士は、ツカツカと歩を進めると、ギルバートに退室を促す。
「ーー何を、した。」
俯いたギルバートは、ボソリとこぼす。
「貴様ら! サクヤに何をした‼︎」
ギルバートがアルフォードに掴みかかろうと走りだす。
それをいち早く察知したリリムは、ギルバートを一瞬で床に叩き伏せる。
「っぐぅ⁉︎」
「落ち着いてください。これ以上は、貴方を処罰しなければならなくなります」
リリムは、ギルバートの拘束を強めながら囁く。
ギルバートは、関節をきめられ動けば激痛がはしるはずの身体を持ち上げながら、アルフォードをその真っ黒な瞳で睨みつける。
「ーー認めない。ーー絶対に、サクヤは、俺が助けだす。待っていてくれ・・・・・・サクヤ。俺が、必ず」
「黙りなさい」
リリムは、ギルバートの首に手を当てると、その意識を奪う。
「サク? 大丈夫ですか?」
リリムがギルバートを別室に運んだ後、アルフォードが、袖を掴むサクヤを慮るように話しかける。
「うん!ーーでも、あの人なんだったんだろう?」
サクヤは、ホッとしたような笑顔を浮かべると、不思議そうな顔で自らに愛を叫んだ青年について考える。
「・・・・・・サクヤ。お前というやつは、そこまで我等の家系の事を想ってくれていたのだな」
何故か両親が涙ぐんでいる。
「? うん!」
サクヤはよくわからないがとりあえず頷いておいた。
「それでは、横槍が入ってしまいましたが、婚約の儀式の続きを」
エドガルズが場の空気を変える。
「サク、それでは誓約書に血判をお願いします」
「うん!」
サクヤは、左手の薬指を誓約書に触れさせる。
するとーー特に何も起こらなかった。
「? これで終わり?」
「おかしいですね? 婚約が為されれば、誓約書は焼き消える筈なのですが?」
エドガルズが誓約書をまじまじと見つめる。
「ーーなるほど。サクヤ様。もう一度血判をお願いします」
「え?」
エドガルズが誓約書を示す。
「サクヤ様の血液が乾いてしまっていたようですので」
サクヤは、嫌そうな顔をしながら、アルフォードと両親を見る。
「さぁ、サクヤ様」
エドガルズが、先程の針を差し出してくる。
「嫌!」
「サ、サク?」
アルフォードが狼狽えながら、サクヤの顔色を伺う。
「痛いの嫌!」
「で、でも先程は大丈夫だと」
サクヤは、涙目で叫ぶ。
「痛いのは痛いもん‼︎」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
推しの幼なじみになったら、いつの間にか巻き込まれていた
凪ルナ
恋愛
3歳の時、幼稚園で机に頭をぶつけて前世の記憶を思い出した私は、それと同時に幼なじみの心配そうな顔を見て、幼なじみは攻略対象者(しかも前世の推し)でここが乙女ゲームの世界(私はモブだ)だということに気づく。
そして、私の幼なじみ(推し)と乙女ゲームで幼なじみ設定だったこれまた推し(サブキャラ)と出会う。彼らは腐女子にはたまらない二人で、もう二人がくっつけばいいんじゃないかな!?と思うような二人だった。かく言う私も腐女子じゃないけどそう思った。
乙女ゲームに巻き込まれたくない。私はひっそりと傍観していたいんだ!
しかし、容赦なく私を乙女ゲームに巻き込もうとする幼なじみの推し達。
「え?なんで私に構おうとするかな!?頼むからヒロインとイチャイチャして!それか、腐女子サービスで二人でイチャイチャしてよ!だから、私に構わないでくださいー!」
これは、そんな私と私の推し達の物語である。
─────
小説家になろう様、ノベリズム様にも同作品名で投稿しています。
変態王子&モブ令嬢 番外編
咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と
「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の
番外編集です。
本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。
「小説家になろう」でも公開しています。
我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。
和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)
男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。
二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
こんにちは、女嫌いの旦那様!……あれ?
夕立悠理
恋愛
リミカ・ブラウンは前世の記憶があること以外は、いたって普通の伯爵令嬢だ。そんな彼女はある日、超がつくほど女嫌いで有名なチェスター・ロペス公爵と結婚することになる。
しかし、女嫌いのはずのチェスターはリミカのことを溺愛し──!?
※小説家になろう様にも掲載しています
※主人公が肉食系かも?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる