ダークマター~二つの記憶

おはようバス

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共鳴する想い

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横浜での集会には三百十四名の賛同者が集まった。 千鶴が壇上に上がるとアイドルの登場シーンのような掛け声が挙がった。 千鶴は、臆することなく淡々とダブルメモリーの団体設立の趣旨や今後の活動方針を説明した後に、協力要請を依頼した。
続いて壇上にキムジウが上がり、韓国での活動を報告されると、木田という参加者から疑問の声が上がった。 
「韓国の人を入れるとかき回されて混乱するのではないですか?」 キムジウが
「なぜそう思うのですか?」と尋ねると、木田は
「今まで日本は、色々と関係改善に向けて提案し、協力体制を築いてきました。 しかし、その好意を自分たちの都合で度々覆すばかりか、国際社会で日本の足を引っ張るような民族です。 信用できません。」とあたかも正しい主張をするかのように言い放った。 
困っているキムジウに替わりダイスケが
「君は、韓国の人と交流を持ったりしたことはありますか?」と問うと木田は
「ありませんよ。ただ周りの人から聞くと韓国の人はそういうものだと聞いています。」と答えた。 ダイスケが
「確かに多少の民族的な性質はあるかもしれないが、それでも同じ人間で普通に友達関係が築けるし、同じ目標に対し活動できる。 大体、日本人でも同じだろう 。一緒に取り組むことが出来ない人もいるし、あなたのことを否定する人間だっている。 それと間違ってはいけないことだが、何も日本が好意で協力しているのではないことも十分承知しておかないといけない。」と指摘すると、木田が敵意を剥き出しに
「日韓請求権協定だって、アジア女性基金だって、癒し和解財団だって、日本の好意で行ったことでしょう? そうでなかったら何なのですか?」と怒鳴りたてた。 山田が
「それは地政学的、経済的利益のために必要であったと考えられないのか? 日本では韓国との協力関係が日本の好意によって行われているかのように報じてきた。しかしながら日本が韓国からもたらされている利益については報じられず、韓国をあたかも日本の科学技術を盗む悪者であるかのようなイメージ付けをしている。」と言うと、木田が
「だってそうじゃないですか。 携帯だって、家電だって全部日本の技術を盗んだんでしょう。 そのため日本が貧しくなった。」と答えた。 
「本当にそう思っているなら、日本の自動車産業や家電が全て自分たちの力で作り出した発明品だったというのか?」と聞くと木田は苦々しい表情で沈黙した。
「趣旨から外れてしまいましたが、いずれにしてもこの団体は、国境に関係無く人権を無視された、特に子供たちに注視し、問題を解決することを目的に活動して行きます。 だが、過去に被害を受けた人たちのことを無視することもしません。 その犯罪性を忘れてしまうことがまた同じ過ちを繰り返す原因となるからです。 ですから先ずは、元慰安婦で被害にあった人達に寄り添い、話し合い、償うことから始めるのです。」と千鶴が力を込めて語ると会場から拍手が沸き起こった。 結局二百三名が今後コメントに対する対応を行うことに同意し、全ての人が団体に参加することになった。
終了後、ダイスケはキムジウを連れて、木田に駆け寄り挨拶を交わすと
「韓国人のキムジウです」とキムジウを紹介した。 照れる木田は
「フアンです。声が好きです。」と言って握手を求めてきた。キムジウは優しく手を握り「よろしくね。」とほほ笑んだ。ダイスケは、
「日本人でも共感できない人はいる。 外国人でも共感できる人はいる。 我々はまず手始めに元慰安婦の救済という目標で共感しているのだからわかって欲しい。」と言うと、木田は、照れ臭そうに頷いた。 その様子を見ていた参加者たちから拍手が行った。

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