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真凛その2
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真凛に相談があると横浜のマックに呼びだされた千鶴は、真凛の変わり果てた姿に困惑していた。 細く弱々しい姿は影を潜め、お洒落で流行の服を着た派手な姿で現れたからだ。だが彼女の本質である怯えた瞳は変わっていなかった。
「元気だった?」と笑顔で挨拶する千鶴に小さく頷くと顔を直ぐに反らした
「まだ、コンビニでバイトしているの?」と尋ねると、真凛は首を横に振り
「もう辞めたの。」と呟いた。 用件を言い出し難そうにする真凛に対し家族の話や今の活動など差しさわりのない話をしていると、真凛が
「千鶴ちゃん、お金貸して欲しいの。十万、ううん、五万でいいわ。」と震えるような小声で切り出した。
「お金を貸すのはできるけど、理由を聞かせて」というと、真凛は首を振りながら
「借金があるのよ。」とすがるように言った。千鶴が借金の額と理由について聞くと、自分の付き合っている男に百五十万円の借金があると告げられた。
「なんでそんなことになったの。」と千鶴が問い詰めると、真凛は涙ながらに
「私、嬉しかったの。 家族以外に認められた気がして。二十四歳の彼は、いつも自慢の彼女って言ってくれた。 だから彼の要求通りの恰好をして、彼の色に染まったわ。 だけど彼は、私の収入を当てにして働かなくなったの。 でもね、真凛のおかげって褒めてくれるから嬉しくて、苦じゃなかった。 だけど私、未成年だし、お金借りられないからもう無理というと、未成年でも金を貸してくれる人紹介するよって。 紹介してくれた人からお金借りていたんだけど。 突然彼が、お前の責任で俺は百五十万円建て替えることになったって怒って。」
「真凛ちゃん、百五十万円も借りていたの?」と千鶴が聞くと、真凛が首を横に振り
「五十万円くらいかな?」と答えた。千鶴は、
「大丈夫私が解決してあげる。そんなの、許せない。」と言うと、真凛が
「駄目よ。彼、普段は優しいけど切れると手が付けられなくて。」と首を横に振った。
「大丈夫だよ、真凛ちゃん。私には心強い仲間がいるの。そうだ、私の所で働けば良いじゃない? ちょっと一緒に事務所に来て。」と声を弾ませた。
五月が警察庁に出向くと、矢部と上田のほかに見たことのない人物が昨日の動画を見ていた。 矢部から、五月にゼロワンのことについて説明するように促され、綱島が作成した資料を用い説明を行うと、その男から
「公安は何をしていたのか?」と矢部が叱責を受けた。その男は内閣府の公安委員で防衛庁出身の隅田と名乗った。隅田は
「とにかく飯田の足取りを公安の最重要項目として全力で捜査するようにしろ。これは安倍総理からの言葉と受け止めろ。」と声を荒げると、矢部が
「ですが、犯罪の証拠はないのですが。 良いのでしょうか?」と尋ねると
「安倍総理のお言葉だ。」と繰り返した。
千鶴が真凛と共に事務所に着くと、吉原がダイスケと共に迎えてくれた。 吉原はダイスケから既に事情を聴いていたので、真凛に
「大丈夫、未成年への借金は親の同意がなければ、無効だよ。 第一どんな違法な利子を付けたら五十万が百五十万になるのやら。おばさん弁護士だからね、任せてね。」と優しく言った。 真凛は大人に囲まれて緊張しているのか小さく頷いただけであった。
「で、その男との縁を切りたくないかい。 どうもその男は初めからあんたを嵌めるために仕組んでたってことはないかい?」と聞くと、それまで静かだった真凛が激しく
「そんなことは無いわ。」と答えた。
その様子にダイスケは静かに
「借金の他に彼に嫌なことされなかった?」と聞くと真凛は黙ってしまった。その様子に少し時間が必要だと感じたダイスケは、
「とりあえず、借金の五十万円は、彼に返すこととして、バックの男と話せるようにしてもらえないか?」と真凛を諭すと、真凛は頷いて彼に電話を掛けた。 事情を話す真凛に彼が怒声を浴びせるのが携帯越しからも伝わり、みんなが呆れた顔になっていた。 吉原が電話を替わり、弁護士である旨と違法金利であることを伝えると、彼は
「そんなことは関係ない。知ったことか。」と強がって見せた。 吉原がとにかく借金をさせた男に連絡を入れるよう諭すと、
「ばばあ、後悔するなよ。」と捨て台詞を吐いて電話を切った。 その振る舞いに真凛が居たたまれない様子で下を向くと、吉原が真凛の頭を撫でながら
「直ぐに解決するよ。大丈夫だよ。」と言った。真凛の目から大粒の涙が落ちた。
あくる日、吉原とレオンで借金をさせた男と会い、今回の一件は落ち着いた。 真凛は、彼から顔を潰されたと叱責を受けたが、大男のレオンにビビり、粋がることで虚勢を保った。 「真凛とはもう別れる。」と彼が伝えると、真凛は「わかった。」と呟いた。
帰りの電車で、真凛は彼から売春を強要されていたこと、未成年であるのにも関わらず、キャバクラで働かせられていたことが告げられるとレオンが、
「とっちめてやろうか?」とすごんだが、
「もういいの。でも売春をしてしまった私が、みなさんみたいにがんばっている人たちに助けてもらって本当に良いのかしら。」と小さな声で言うと、吉原が目に涙を浮かべながら 「辛かったろう。 でも、後悔しているのであれば、もうしないようにすればいいさ。
前を向いてこれから誇れる人生を歩めば良いさ。」と頭を抱き寄せた。
真凛の目から再び涙がこぼれた。 結局、真凛は千鳥のもとで経理を担当することになった。その日は、真凛が仲間になった歓迎会が催された。 真凛の顔にも笑顔が戻り、みんなが楽しい時間を共有した。
ダイスケは、その中で千鶴が目指す世界平和について考えていた。 世界はなぜいつまでも戦争を繰り返すのか? その疑問を今まで何度となく反芻してきたが、行きつく先はいつもやりたい放題の権力者の存在だった。 自身は権力の傘に守られ、兵士は死線を駆け抜ける。 なぜ、兵器が無尽蔵に提供され続けるのか? なぜ、兵士は、無尽蔵に製造され続けるのか? わかりきったことである。 それで儲ける者がいる。 でも同じお金ならば、戦争ではなく防災などの公共事業で使えばいいのにと考えてしまう。 日本の予算も防衛費は増える一方であるにも関わらず、治水などの防災関連の予算は減って行く。 一体誰のための政治なのか?
「元気だった?」と笑顔で挨拶する千鶴に小さく頷くと顔を直ぐに反らした
「まだ、コンビニでバイトしているの?」と尋ねると、真凛は首を横に振り
「もう辞めたの。」と呟いた。 用件を言い出し難そうにする真凛に対し家族の話や今の活動など差しさわりのない話をしていると、真凛が
「千鶴ちゃん、お金貸して欲しいの。十万、ううん、五万でいいわ。」と震えるような小声で切り出した。
「お金を貸すのはできるけど、理由を聞かせて」というと、真凛は首を振りながら
「借金があるのよ。」とすがるように言った。千鶴が借金の額と理由について聞くと、自分の付き合っている男に百五十万円の借金があると告げられた。
「なんでそんなことになったの。」と千鶴が問い詰めると、真凛は涙ながらに
「私、嬉しかったの。 家族以外に認められた気がして。二十四歳の彼は、いつも自慢の彼女って言ってくれた。 だから彼の要求通りの恰好をして、彼の色に染まったわ。 だけど彼は、私の収入を当てにして働かなくなったの。 でもね、真凛のおかげって褒めてくれるから嬉しくて、苦じゃなかった。 だけど私、未成年だし、お金借りられないからもう無理というと、未成年でも金を貸してくれる人紹介するよって。 紹介してくれた人からお金借りていたんだけど。 突然彼が、お前の責任で俺は百五十万円建て替えることになったって怒って。」
「真凛ちゃん、百五十万円も借りていたの?」と千鶴が聞くと、真凛が首を横に振り
「五十万円くらいかな?」と答えた。千鶴は、
「大丈夫私が解決してあげる。そんなの、許せない。」と言うと、真凛が
「駄目よ。彼、普段は優しいけど切れると手が付けられなくて。」と首を横に振った。
「大丈夫だよ、真凛ちゃん。私には心強い仲間がいるの。そうだ、私の所で働けば良いじゃない? ちょっと一緒に事務所に来て。」と声を弾ませた。
五月が警察庁に出向くと、矢部と上田のほかに見たことのない人物が昨日の動画を見ていた。 矢部から、五月にゼロワンのことについて説明するように促され、綱島が作成した資料を用い説明を行うと、その男から
「公安は何をしていたのか?」と矢部が叱責を受けた。その男は内閣府の公安委員で防衛庁出身の隅田と名乗った。隅田は
「とにかく飯田の足取りを公安の最重要項目として全力で捜査するようにしろ。これは安倍総理からの言葉と受け止めろ。」と声を荒げると、矢部が
「ですが、犯罪の証拠はないのですが。 良いのでしょうか?」と尋ねると
「安倍総理のお言葉だ。」と繰り返した。
千鶴が真凛と共に事務所に着くと、吉原がダイスケと共に迎えてくれた。 吉原はダイスケから既に事情を聴いていたので、真凛に
「大丈夫、未成年への借金は親の同意がなければ、無効だよ。 第一どんな違法な利子を付けたら五十万が百五十万になるのやら。おばさん弁護士だからね、任せてね。」と優しく言った。 真凛は大人に囲まれて緊張しているのか小さく頷いただけであった。
「で、その男との縁を切りたくないかい。 どうもその男は初めからあんたを嵌めるために仕組んでたってことはないかい?」と聞くと、それまで静かだった真凛が激しく
「そんなことは無いわ。」と答えた。
その様子にダイスケは静かに
「借金の他に彼に嫌なことされなかった?」と聞くと真凛は黙ってしまった。その様子に少し時間が必要だと感じたダイスケは、
「とりあえず、借金の五十万円は、彼に返すこととして、バックの男と話せるようにしてもらえないか?」と真凛を諭すと、真凛は頷いて彼に電話を掛けた。 事情を話す真凛に彼が怒声を浴びせるのが携帯越しからも伝わり、みんなが呆れた顔になっていた。 吉原が電話を替わり、弁護士である旨と違法金利であることを伝えると、彼は
「そんなことは関係ない。知ったことか。」と強がって見せた。 吉原がとにかく借金をさせた男に連絡を入れるよう諭すと、
「ばばあ、後悔するなよ。」と捨て台詞を吐いて電話を切った。 その振る舞いに真凛が居たたまれない様子で下を向くと、吉原が真凛の頭を撫でながら
「直ぐに解決するよ。大丈夫だよ。」と言った。真凛の目から大粒の涙が落ちた。
あくる日、吉原とレオンで借金をさせた男と会い、今回の一件は落ち着いた。 真凛は、彼から顔を潰されたと叱責を受けたが、大男のレオンにビビり、粋がることで虚勢を保った。 「真凛とはもう別れる。」と彼が伝えると、真凛は「わかった。」と呟いた。
帰りの電車で、真凛は彼から売春を強要されていたこと、未成年であるのにも関わらず、キャバクラで働かせられていたことが告げられるとレオンが、
「とっちめてやろうか?」とすごんだが、
「もういいの。でも売春をしてしまった私が、みなさんみたいにがんばっている人たちに助けてもらって本当に良いのかしら。」と小さな声で言うと、吉原が目に涙を浮かべながら 「辛かったろう。 でも、後悔しているのであれば、もうしないようにすればいいさ。
前を向いてこれから誇れる人生を歩めば良いさ。」と頭を抱き寄せた。
真凛の目から再び涙がこぼれた。 結局、真凛は千鳥のもとで経理を担当することになった。その日は、真凛が仲間になった歓迎会が催された。 真凛の顔にも笑顔が戻り、みんなが楽しい時間を共有した。
ダイスケは、その中で千鶴が目指す世界平和について考えていた。 世界はなぜいつまでも戦争を繰り返すのか? その疑問を今まで何度となく反芻してきたが、行きつく先はいつもやりたい放題の権力者の存在だった。 自身は権力の傘に守られ、兵士は死線を駆け抜ける。 なぜ、兵器が無尽蔵に提供され続けるのか? なぜ、兵士は、無尽蔵に製造され続けるのか? わかりきったことである。 それで儲ける者がいる。 でも同じお金ならば、戦争ではなく防災などの公共事業で使えばいいのにと考えてしまう。 日本の予算も防衛費は増える一方であるにも関わらず、治水などの防災関連の予算は減って行く。 一体誰のための政治なのか?
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