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謎の人物
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夕方になると千鶴は、昨日とは打って変わって落ち込んだ様子で現れた。ダイスケが千鶴に「何かあったのか?」と尋ねると、千鶴がため息をついて
「人間て本当にどうしようもないわね。」と言った。 昨晩、ダイスケがアップした「黙示録~カラーで見る第一次世界大戦」を見て当時のあまりの惨さに打ちのめされたとのことであった。 第一次世界大戦があんなにひどい状況であったにも関わらず、直ぐに第二次世界大戦を始めるなんて本当に人類は、愚かだわ。」と繰り返した。ダイスケは、
「本当にそうだ。 戦争を始めるのも終わらせるのも人間さ。 そして、勝っても負けても双方が後悔した。 多くの屍を残すことになるんだからね。 ある番組で元米軍の兵士が言っていた。 多くの死んでいった戦友たちは、英雄になった。 生き残った自分は、英雄じゃないと。では、自身は何だと考えていたのかな?」と聞くと、千鶴は少し間を置き、
「彼は、殺した敵兵や救えなかった戦友たちへの自責の念を胸にずっと生き続けることになったのかしら?」と答えた。ダイスケは頷くと
「そうだ、彼は、自分を手の負えない獣になっていたと考えていたのかもしれない。 平時であれば、人を殺すことを考えることもない人間が、戦時では人を殺すことを厭わなくなる。 むしろ敵という人を殺すことが彼の目的であり。彼自身が生き残るための手段となった。 彼は戦後に思い出すだろう。 敵とはいえ、彼が殺めたのはまぎれもなく人間であり、その背後には間違いなくその人の人生があったのだから。」と言った。
「どうすればいいと思う?」と聞く千鶴の顔がさらに曇った。
「簡単なことさ、不戦の普遍理論を探し始めればよい。」と答えると、千鶴は
「それが難しいの。」と言った。
「でも誰かが始めないと、その方法を発見でない。」というダイスケの問いに戸惑いながら千鶴は、
「誰かが発見できるのかしら?」と疑問を投げかけた。
「殺しを伴う戦争は、人間により多発的に発見されたいわば本能による行為と思われるかもしれない。 しかし、衝突が無ければ起こり得ないし、衝突は共感や同調などの、人類が集団で暮らすために身に着けた本能により回避できる。 だから誰かが衝突を共感で回避する普遍理論を発見できればいいだけなのかもしれない。」とダイスケが答えると、千鶴は、難しい顔をして
「わかった。考えてみるわ。」と答えその場を離れた。
側で話を聞いていたギルバートが話を引きついだ。
「ダイスケさん、普遍理論とは大胆ですね。 1795年にドイツ古典哲学の祖であるカントが著した『永遠の平和のために』などの戦争を行わない為の計画についての研究は、疎かになり、誰も恒久平和のための普遍理論など語らなくなっていますよ。 今のこの世界はカントが言っていたように不十分な講話や条約のみで、一時凌ぎの危うい世界であることは間違いないですね。」との問いに対し、
「科学や教育が進み、貧困、偏見、差別が解消されればいつかはきっと出来るって考えてもいいのでは?」とダイスケは答えた。
「きっといつかは・・・そうなればいいですね。」とギルバートがウインクをした。
事務所に現れた五月ゆみは、ダイスケが想像していたような大柄のいかにもスパイという人物像とは程遠い、小柄でか弱そうな童顔の女性だった。 五月は、似合わないリクルートスーツで見事なアニメ声で自己紹介をこなした。 ダイスケが雇用条件を述べ、主に中国語の翻訳をと依頼すると
「有難うございます。無給でも良かったのに良い条件で雇っていだだき有難いです。」
と言って笑顔を見せた。 同席した山田と雪乃が、にやついた。 千鶴たちに紹介すると 「フアンです。動画を始めて見た時からずっといいと思っていました。」と笑顔で握手を求めてきた。キムジウが手を握りながら
「ゆみちゃんて、呼んでもいい?」と聞くと嬉しそうに「はい。」と答えた。ゆみは
「なんで、こんなことを始めようと思ったのですか?」と聞くと、千鶴はここに至る経緯を丁寧に説明していった。 ゆみは、驚いた様子で
「当然と言えば、当然ですよね。 日本は法治国家とはいえ、売春防止法、風営法、詐欺防止法などの刑法では、扱いが軽すぎるのよ。 現在でも未成年者の買春や売春斡旋が横行しているわ。 本当に駄目な国よね。」と憤って持論を展開した。
ダイスケはその様子を見て本当に我々に賛同してくれているのではないかと思っていた。この五月ゆみが公安であるとの推測は、ダイスケ、雪乃、山田、綱島、葉山の間の秘密であった。 ダイスケが早速、ホームページの中国語での翻訳を依頼し、
「家でも事務所でもどちらで仕事をしてもかまいませんから。」と言うと、
「通常事務所で仕事しますと。」答えた。
そのころダイスケたちの仕事は、主に質問や疑問に対する回答をコメントすることに追われていた。全てのコメントに返答することは不可能なほど増えてしまい、もはや対応できない状態になっていた。 “千鶴とキムジウ(仮)”から(仮)の字が消えて、ファンクラブの会員数は既に約5万名、ダブルメモリーの支援会員は、愛花やDTXである綱島の存在も大きいのか約10万名に及んでいた。 3万人の未成年者以外の会員には、月額最低330円の会費を聴取するので、既に月額三千万円ほどの収益が出ていた。
「恐ろしい勢いですね。ユーチューブからの収入も合わせると、このお金どう使いますか?」と綱島に聞かれると、ダイスケは、困ったように
「本当は、元慰安婦の賠償に充てようかと思っていたのだけれど、彼女の話を聞くと賠償の目的ではないと一蹴されてしまってね。」と答えると、千鶴が
「助けを求めている人は、今でも沢山いるわ。 お金はいくらあっても足りないわ。」と強い視線を向けた。その言葉に綱島が
「そうですね。」と相槌を打つと、千鳥が、
「千鶴ちゃん、やりたいことがあるのであれば、今回みたいに計画が必要よ。 直ぐでなくてもいいからプレゼンする資料を作ってみたら? お母さんも手伝うから。」と母親の優しい眼差しを向けた。
「そうね。」と千鶴は、嬉しそうに答えた。
「いずれにしても会計してくれる社員が必要ですね。 千鳥さんは仕事がありますし。」とダイスケが言うと、千鳥が
「今月いっぱいで退社することにしたわ。」と答えた。
「こんなチャンスないもの。 親子三世代が同じ目的を目指して一生懸命働ける。 しかも平和のためによ。 理想的よね、本当に。 但し、千鶴は、学校辞めてはいけないし、大学も絶対行ってね。」と千鳥が言った。それを聞いて雪乃が
「そうだな。理想的だ。」と笑った。 ダイスケは、それを羨ましいと思った。
日を追うごとに活動にのめり込む自分の姿に公安である自分の立場を重ね合わせ、五月は、苛ついていた。 担当の課長には、どう考えても犯罪組織ではないと報告を挙げたが、組織はどこで犯罪化するかわからないとの理由で、捜査の継続を言い渡された。
いずれにしてもダイスケたちの話は、納得できるものであり、千鶴の、今も起きている同様の事態を解決しようとする意志に強い感銘を受けていた。 自分もできることがあるのでは、と考え自分なりの解決方法を模索していた。 中国語に翻訳されて以来、問い合わせてくるコメントに対し返信しながら、中国人の元慰安婦に対し、日本が何もして来なかったことに気付かされていた。
事務所に現れた葉山と吉原は、ダイスケを呼びつけ雪乃の部屋に向かった。 雪乃の部屋には、山田が既に座っていた。 吉原が、
「五月が捜査員なのかわからないが、公安の捜査対象にダブルメモリーが認定されたよ。NGO法人審査も厳しくなるかも。でも、私が何とかするよ。」と言った。
「しかし、解せないのは基調も行われずにいきなり捜査対象とは何かの忖度が働いたのかね?」と疑問を呈した。雪乃が
「何れにしても悪いことしているわけじゃないから問題ないよ。」というと、山田が
「増えすぎた会員で過激思想を持つものを洗い出す必要があるね。」と言った。
早速、ダイスケは、ダイスケの部屋で仕事をしている綱島に状況を伝えると、綱島がリストを提示した。 リストには左右傾化をグラフ化するとともにコメント回数や過激なコメントを指数化してあった。
「この辺ですかね。 もちろん“政府転覆”や“戦犯国日本”といったコメントを多く残している人も問題ですが、実際に「デモをしないか」とコメントするものが複数人居ますね。 特に飯田正人さんですか。 過激な言動を繰り返しながらもデモを呼びかけ、その信者も増えているようで、来週末に首相官邸前でデモを行うようですね。 それで、飯田のことについてネットで探ってみたのですが、情報はありませんでした。」と綱島が言った。 なるほど山田の言う通りであった。 ダイスケは、デモの前までに飯田にアポイントを取るよう依頼し、雪乃の部屋に戻った。
山田らによると飯田正人という人物は、九十年代に出来た過激な左翼組織「ゼロワン」のリーダーの名前と一致した。 当時、過激な左翼団体に入党したその男は、あっという間に頭角を現し組織を乗っ取り、「ゼロワン」を結成した。 そのことは一時、左翼の間で話題に上った。
「この組織で随分違法なこともしていたが、徹底した証拠隠滅と秘密主義、で警察組織やマスコミすらも気付くことはなかったが、当時この組織に潜入していた左翼の人物に知られると忽然と組織が消えた。 年はダイスケ位かね。」と雪乃が言った。ダイスケは、
「ファシズムの社会実験というとあれですか?」と聞くと、山田が
「そう、サードウエイブ実験ね。」と答えた。 サードウエイブ実験とは、1967年に、アメリカ合衆国カリフォルニア州の高等学校でおこなわれた社会学的な実験であり、ヒトラーが定義する「あらゆる活動を拘束し、義務づける法則」に則り、ナチス運動の特定の特徴をモデル化することを目的とした規律とコミュニティを強調する組織を高校のクラスに作ると、その中で組織は自発的に機能し、さらに他のコーにも影響を及ぼすうえに、制御不能になるという社会心理実験のことである。
「本当に飯田が同一人物であれば、問題ありだな。でも、うちには強い見方がいるよ。」と雪乃が五月を思い浮かべ言った。
「人間て本当にどうしようもないわね。」と言った。 昨晩、ダイスケがアップした「黙示録~カラーで見る第一次世界大戦」を見て当時のあまりの惨さに打ちのめされたとのことであった。 第一次世界大戦があんなにひどい状況であったにも関わらず、直ぐに第二次世界大戦を始めるなんて本当に人類は、愚かだわ。」と繰り返した。ダイスケは、
「本当にそうだ。 戦争を始めるのも終わらせるのも人間さ。 そして、勝っても負けても双方が後悔した。 多くの屍を残すことになるんだからね。 ある番組で元米軍の兵士が言っていた。 多くの死んでいった戦友たちは、英雄になった。 生き残った自分は、英雄じゃないと。では、自身は何だと考えていたのかな?」と聞くと、千鶴は少し間を置き、
「彼は、殺した敵兵や救えなかった戦友たちへの自責の念を胸にずっと生き続けることになったのかしら?」と答えた。ダイスケは頷くと
「そうだ、彼は、自分を手の負えない獣になっていたと考えていたのかもしれない。 平時であれば、人を殺すことを考えることもない人間が、戦時では人を殺すことを厭わなくなる。 むしろ敵という人を殺すことが彼の目的であり。彼自身が生き残るための手段となった。 彼は戦後に思い出すだろう。 敵とはいえ、彼が殺めたのはまぎれもなく人間であり、その背後には間違いなくその人の人生があったのだから。」と言った。
「どうすればいいと思う?」と聞く千鶴の顔がさらに曇った。
「簡単なことさ、不戦の普遍理論を探し始めればよい。」と答えると、千鶴は
「それが難しいの。」と言った。
「でも誰かが始めないと、その方法を発見でない。」というダイスケの問いに戸惑いながら千鶴は、
「誰かが発見できるのかしら?」と疑問を投げかけた。
「殺しを伴う戦争は、人間により多発的に発見されたいわば本能による行為と思われるかもしれない。 しかし、衝突が無ければ起こり得ないし、衝突は共感や同調などの、人類が集団で暮らすために身に着けた本能により回避できる。 だから誰かが衝突を共感で回避する普遍理論を発見できればいいだけなのかもしれない。」とダイスケが答えると、千鶴は、難しい顔をして
「わかった。考えてみるわ。」と答えその場を離れた。
側で話を聞いていたギルバートが話を引きついだ。
「ダイスケさん、普遍理論とは大胆ですね。 1795年にドイツ古典哲学の祖であるカントが著した『永遠の平和のために』などの戦争を行わない為の計画についての研究は、疎かになり、誰も恒久平和のための普遍理論など語らなくなっていますよ。 今のこの世界はカントが言っていたように不十分な講話や条約のみで、一時凌ぎの危うい世界であることは間違いないですね。」との問いに対し、
「科学や教育が進み、貧困、偏見、差別が解消されればいつかはきっと出来るって考えてもいいのでは?」とダイスケは答えた。
「きっといつかは・・・そうなればいいですね。」とギルバートがウインクをした。
事務所に現れた五月ゆみは、ダイスケが想像していたような大柄のいかにもスパイという人物像とは程遠い、小柄でか弱そうな童顔の女性だった。 五月は、似合わないリクルートスーツで見事なアニメ声で自己紹介をこなした。 ダイスケが雇用条件を述べ、主に中国語の翻訳をと依頼すると
「有難うございます。無給でも良かったのに良い条件で雇っていだだき有難いです。」
と言って笑顔を見せた。 同席した山田と雪乃が、にやついた。 千鶴たちに紹介すると 「フアンです。動画を始めて見た時からずっといいと思っていました。」と笑顔で握手を求めてきた。キムジウが手を握りながら
「ゆみちゃんて、呼んでもいい?」と聞くと嬉しそうに「はい。」と答えた。ゆみは
「なんで、こんなことを始めようと思ったのですか?」と聞くと、千鶴はここに至る経緯を丁寧に説明していった。 ゆみは、驚いた様子で
「当然と言えば、当然ですよね。 日本は法治国家とはいえ、売春防止法、風営法、詐欺防止法などの刑法では、扱いが軽すぎるのよ。 現在でも未成年者の買春や売春斡旋が横行しているわ。 本当に駄目な国よね。」と憤って持論を展開した。
ダイスケはその様子を見て本当に我々に賛同してくれているのではないかと思っていた。この五月ゆみが公安であるとの推測は、ダイスケ、雪乃、山田、綱島、葉山の間の秘密であった。 ダイスケが早速、ホームページの中国語での翻訳を依頼し、
「家でも事務所でもどちらで仕事をしてもかまいませんから。」と言うと、
「通常事務所で仕事しますと。」答えた。
そのころダイスケたちの仕事は、主に質問や疑問に対する回答をコメントすることに追われていた。全てのコメントに返答することは不可能なほど増えてしまい、もはや対応できない状態になっていた。 “千鶴とキムジウ(仮)”から(仮)の字が消えて、ファンクラブの会員数は既に約5万名、ダブルメモリーの支援会員は、愛花やDTXである綱島の存在も大きいのか約10万名に及んでいた。 3万人の未成年者以外の会員には、月額最低330円の会費を聴取するので、既に月額三千万円ほどの収益が出ていた。
「恐ろしい勢いですね。ユーチューブからの収入も合わせると、このお金どう使いますか?」と綱島に聞かれると、ダイスケは、困ったように
「本当は、元慰安婦の賠償に充てようかと思っていたのだけれど、彼女の話を聞くと賠償の目的ではないと一蹴されてしまってね。」と答えると、千鶴が
「助けを求めている人は、今でも沢山いるわ。 お金はいくらあっても足りないわ。」と強い視線を向けた。その言葉に綱島が
「そうですね。」と相槌を打つと、千鳥が、
「千鶴ちゃん、やりたいことがあるのであれば、今回みたいに計画が必要よ。 直ぐでなくてもいいからプレゼンする資料を作ってみたら? お母さんも手伝うから。」と母親の優しい眼差しを向けた。
「そうね。」と千鶴は、嬉しそうに答えた。
「いずれにしても会計してくれる社員が必要ですね。 千鳥さんは仕事がありますし。」とダイスケが言うと、千鳥が
「今月いっぱいで退社することにしたわ。」と答えた。
「こんなチャンスないもの。 親子三世代が同じ目的を目指して一生懸命働ける。 しかも平和のためによ。 理想的よね、本当に。 但し、千鶴は、学校辞めてはいけないし、大学も絶対行ってね。」と千鳥が言った。それを聞いて雪乃が
「そうだな。理想的だ。」と笑った。 ダイスケは、それを羨ましいと思った。
日を追うごとに活動にのめり込む自分の姿に公安である自分の立場を重ね合わせ、五月は、苛ついていた。 担当の課長には、どう考えても犯罪組織ではないと報告を挙げたが、組織はどこで犯罪化するかわからないとの理由で、捜査の継続を言い渡された。
いずれにしてもダイスケたちの話は、納得できるものであり、千鶴の、今も起きている同様の事態を解決しようとする意志に強い感銘を受けていた。 自分もできることがあるのでは、と考え自分なりの解決方法を模索していた。 中国語に翻訳されて以来、問い合わせてくるコメントに対し返信しながら、中国人の元慰安婦に対し、日本が何もして来なかったことに気付かされていた。
事務所に現れた葉山と吉原は、ダイスケを呼びつけ雪乃の部屋に向かった。 雪乃の部屋には、山田が既に座っていた。 吉原が、
「五月が捜査員なのかわからないが、公安の捜査対象にダブルメモリーが認定されたよ。NGO法人審査も厳しくなるかも。でも、私が何とかするよ。」と言った。
「しかし、解せないのは基調も行われずにいきなり捜査対象とは何かの忖度が働いたのかね?」と疑問を呈した。雪乃が
「何れにしても悪いことしているわけじゃないから問題ないよ。」というと、山田が
「増えすぎた会員で過激思想を持つものを洗い出す必要があるね。」と言った。
早速、ダイスケは、ダイスケの部屋で仕事をしている綱島に状況を伝えると、綱島がリストを提示した。 リストには左右傾化をグラフ化するとともにコメント回数や過激なコメントを指数化してあった。
「この辺ですかね。 もちろん“政府転覆”や“戦犯国日本”といったコメントを多く残している人も問題ですが、実際に「デモをしないか」とコメントするものが複数人居ますね。 特に飯田正人さんですか。 過激な言動を繰り返しながらもデモを呼びかけ、その信者も増えているようで、来週末に首相官邸前でデモを行うようですね。 それで、飯田のことについてネットで探ってみたのですが、情報はありませんでした。」と綱島が言った。 なるほど山田の言う通りであった。 ダイスケは、デモの前までに飯田にアポイントを取るよう依頼し、雪乃の部屋に戻った。
山田らによると飯田正人という人物は、九十年代に出来た過激な左翼組織「ゼロワン」のリーダーの名前と一致した。 当時、過激な左翼団体に入党したその男は、あっという間に頭角を現し組織を乗っ取り、「ゼロワン」を結成した。 そのことは一時、左翼の間で話題に上った。
「この組織で随分違法なこともしていたが、徹底した証拠隠滅と秘密主義、で警察組織やマスコミすらも気付くことはなかったが、当時この組織に潜入していた左翼の人物に知られると忽然と組織が消えた。 年はダイスケ位かね。」と雪乃が言った。ダイスケは、
「ファシズムの社会実験というとあれですか?」と聞くと、山田が
「そう、サードウエイブ実験ね。」と答えた。 サードウエイブ実験とは、1967年に、アメリカ合衆国カリフォルニア州の高等学校でおこなわれた社会学的な実験であり、ヒトラーが定義する「あらゆる活動を拘束し、義務づける法則」に則り、ナチス運動の特定の特徴をモデル化することを目的とした規律とコミュニティを強調する組織を高校のクラスに作ると、その中で組織は自発的に機能し、さらに他のコーにも影響を及ぼすうえに、制御不能になるという社会心理実験のことである。
「本当に飯田が同一人物であれば、問題ありだな。でも、うちには強い見方がいるよ。」と雪乃が五月を思い浮かべ言った。
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