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国家権力の介入
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あくる日、加藤から千鶴とキムジウとの対談について承諾する旨の連絡が入った。 但し、対談は、二人とのみ行い、他のものが口を出すことを禁止する条件が出された。 小娘たちをやり込めてやる位の軽い気持ちであったのかもしれない。 学校から帰った千鶴とキムジウは、その申し出を受けると、「頑張る。」と笑顔を見せた。
朝から事務所に詰める綱島は、組んだアルゴリズムにより解析された情報に満足気に
「そろそろ、日本でも一度、賛同者による会議を行う必要がありそうです。」と言うと、
雪乃から「学校は?」と問われ、「問題ありませんよ。」と小声で答えた。
何が問題ないのかについてダイスケには分からなかったが、キムジウに会議の調整と集会についての計画を立てるよう依頼すると、キムジウが気まずそうに、
「集会の件なのですが、都立公園等では少なくともひと月前にはイベントの申し込みが必要なようです。」と都立公園に関する各種申し込みについてのウエブサイトを開いて説明した。 ダイスケが、十月末か十一月初旬の土日で、コンサートもできる会場を探すように依頼すると、キムジウが都内と横浜で使用可能な公園のリストを提示した。 みんなで、提示された公園のホームページを確認し、横浜の元競馬場の公園で十一月三日に行うことを決定した。
加藤がその場に現れたのは約束の時間から1時間も過ぎてのことであった。生放送をホームページで告知していたため、十万人ほどが、時間になると視聴していたが、現れない加藤に業を煮やした視聴者のコメントに対し、千鶴とキムジウが答えるという対応によりさらに視聴数が増えていた。 現れた加藤は悪びれる様子もなく席に着くと、ICレコーダーを手に「始めますか?」と言い、千鶴とキムジウに卑しい目を向けた。
戸惑う二人に加藤は、「お宅らから申し出があったんだろう。言いたいことを言えばいい。」とにやりと笑った。
キムジウが「今回、書かれた記事でテロ組織と書かれていますが、我々はホームページで主張した通り、日本国政府ができない慰安婦、個人への救済の手伝いを、」と言うと、
話を遮るように加藤が「国が解決積みと言っているのに、話を蒸し返し、ややこしくする。これが反政府的運動でなくて何だ?」と凄んだ。
千鶴が、「では加藤さん、あなたは今の日韓関係についてはどう思いますか?」と聞くと、「もともと、韓国が日本に対して無礼を何回も繰り返すからこういうことになったのだろう? 何が問題なのか理解もせずに、問題、問題って。お嬢ちゃんたち少し社会勉強した方がいいだろ。」と頭ごなしに言った。 この男は、典型的なステレオタイプであり、我々の主張について全く理解できない人間だと二人は見抜いていた。 そう思うと彼の傲慢な態度も、威嚇するような視線も怖くなくなった。
「加藤さん、単純な話をしましょう。あなたに娘がいて、もしその子が売春をしていたと聞いたらあなたはどう思いますか?」と千鶴が聞くと、
加藤は、「まあ、俺には娘はいないが、したかったのなら仕方ない。気にもしないよ。」と答えた。 加藤は、以前結婚しており、ギャンブルの借金により、元妻を風俗に落としたことがあったし、それが生きるためには仕方ないと思っていたため、これは本心であった。
加藤の回答に対し、キムジウが「“仕方ない”は、加藤さんの考えであり、娘さんの考えではないのではないの?」と指摘した。 確かに、それは俺の考えであると、加藤は、風俗に落とした元妻の言葉を思い出した。
「あなたはそれでいいかももしれない。 でも、私はそれでは済まない。 普通の人生を送れたらって思う。 誰も知らない土地で暮らしても、私の穢れは一生ぬぐえない。」との言葉を残し、加藤の元を去って行った。
キムジウはなおも続けた。「まず、その子が強制された場合と自主的に行った場合に分けて考えてみて。」 小娘に主導権を取られたようで気にいらなかったが、加藤は答えた。
「強制された場合は、強制した奴を犯罪行為で警察に訴えればいいだろう。」
「では、その子の心のケアはどうするの。」キムジウが言うと、
「騙されたほうが悪い。」と加藤は答えた。
「騙された方が悪いと、本当にあなたはその子に言えるの?だから仕方がないと言えるの? 犯人が捕まったから解決したって言えるの?」と千鶴が言葉を畳み込むと、加藤は言葉を失った。
「そのうち犯人は、刑期や賠償を済ませて社会復帰して、娘さんの前に現れて罪を償ったからもう解決積みだと言って、いやらしい目で見つめてきてもあなたは許せるの。」とキムジウが言った。
加藤が「それが法治国家だ。」と怒鳴りつけると、
「そうね、でも許せない気持ちは残らないかしら。 その子が持つ憎しみや後悔、自己嫌悪の言葉に、もう解決積みだからお前は黙れって言えるのかしら。」とキムジウが言うと、
「では、どうすれば良いのか?」と加藤は、弱気な言葉を吐いた。
「もう、止めてくれ。」と心の中で加藤は、叫んでいた。
しかし、彼女たちは続けた。
「では、自主的に売春を行った子について考えてみて。」とキムジウが尋ねた。
「それは自己責任だから問題ない。」と加藤が言うとキムジウが指摘した。
「慰安婦問題でよく言われているのは当時17歳位から彼女たちが働かされていたことね。 その位の歳であまり状況を理解せずに働いて、後になって後悔することを責めることができるというの? そういった子を働かせていたことが問題ないと言えるの?」と千鶴が言うと、加藤が
「そういう時代だから仕方なかった。」と言った。その答えに千鶴が
「当時、韓国は日本に統治されていた。 日本は統治していた国だからこそ、そういう状況にしないようにできた時代でもあったと考えることはできなかったのかしら?」と問うと、加藤は、「きれいごとだ。」と指摘した。
「きれいごとかもしれないわ。でも、どこかで解決しないと。 世界では、いまだにアフリカや東南アジアで同様のことが繰り返されているの。 どこかで解決する手段を模索しないと、これからもずっと繰り返されるわ。 こんな世界でいいわけないじゃないの。」
と千鶴が声を荒げた。
「確かに日本政府は、慰安婦問題に色々と対応してきた。 でも、それを解決していないと思う人の声を封じることはできないし、してよい問題でもない。 だったら、誰かが一緒にどうしたら解決できるかを模索することは、悪いことだと私は思わないわ。」と千鶴が言うと、山田は何も答えることが出来なかった。
「でも、日本が戦争を起こした時代背景、特に欧米列国が、日本や侵略した国に挑んできたことについても理解したうえで、それでも戦争をしない選択がなかったのかと考えてしまうの。 どんな理由があろうと失われた命は戻らないから。戦争は『悪』だと思うわ。」
その後の加藤は、心ない質問を繰り返すが、いずれの質問も千鶴たちに論破された。
「いずれにしても記事は取り消さないし、謝罪もできない。」と加藤が捨て台詞を吐くと、キムジウが「かまわないわ。 私たちは誤解している人、反感を持つ人たちに対しても一人ひとり対応して行くわ。」と答えた。
対談終了前にキムジウから「わかっているとは思うけどこのアパートには私たちの事務所があるの。 ダイスケさんの愛人どころか、二人とも個人的に二人きりで会ったこともないわ。」と言い放った。
収録が終わると自然と拍手が起こった。仲間たちの笑顔に迎えられた二人は、緊張の糸が切れたのか緩んだ表情をみせた。
「ダイスケさん、如何でした?」と誇らしげに聞く千鶴に、
「よかったよ。但し、相手を説き伏せようとする論法は、注意した方がいいかな。 今回は加藤がわざとそう仕向けていたがね。」とダイスケが指摘すると、少し機嫌を損ねたのかふてくされた様子で「了解。」と答えた。
レオンが「今回のインタビューに早速、英語の字幕を入れてよう。」と言うと、キムジウが「ハングルも必要ね。」と続いた。
ダイスケは、キムジウに「そろそろ、ハングルのできるスタッフが必要じゃないか?」と聞くと、「まだ、大丈夫よ。」と答えたが、
「とにかく学業もあるし、他にやってもらいたいことも増えてくる。 友達で手伝ってくれる奴がいれば、バイトスタッフとして紹介してくれ。」と言うと、少し不満げにキムジウが「わかった。」と答えた。
加藤が記事の謝罪を述べるとダイスケが、「これで知名度が上がった。」と笑顔を見せた。
五月ゆみは、困惑していた。 ダブルメモリーが、加藤と千鶴とキムジウ(仮)のインタビュー翌日という異例の速さで公安の監視対象に指定されたうえ、五月が所属する調査第二部第三部門が担当することになったからだ。 ダブルメモリーの担当となった、調査第二部第三部門は、朝鮮総連や北朝鮮を監視する部門であり、市民団体を監視するのは本来調査第一部第一課が担当する。 その速さといい、担当変更といい何か見えない力が働いたのではと考えたが、下っ端の捜査官である五月が考えても仕方ないことであった。 何れにしても、千鶴とキムジウをユーチューブで見て感動したうえ、ダブルメモリーの活動に感銘を受けた五月が、監視対象とはいえ、場合によっては潜入調査できる立場であることを嬉しく感じると同時に、もし見えない巨大な存在がバックにあったことを想像すると複雑な気持ちになった。
自分が投稿したコメントをもう一度見直し、職業をかくし他の人物として行動すべきかと考えながら、接触の手段を模索していた。 続いて、ダブルメモリーのホームページやNGO申請のために提出された書類に目をとおしながら、この団体についての概要報告と捜査計画書を作成した。 最後に、都内在住の28歳無職の女性でハングルと中国語を扱うことができるので無給でもいいので働きたいと、ダブルメモリーにメールを送った。
五月のメールを山田と雪乃に見せると、山田が「これは公安だな。」と指摘した。 山田の指摘に雪乃が
「大体、無職なのにハングル、中国語ができてしかも無給でいいからなんて、都合のいい人材がいるわけはないよ。」と続いた。 ダイスケは、困惑しつつも
「公安でも使える人材であれば、雇いませんか?もちろん、有給でね。」と言うと二人は了解してくれた。
早速、面接の希望日について問い合わせ、明日の十時に事務所で行うことになった。
「しかし、デモ行進や過激な言動も行っていないのに、このスピードで監視対象になるなんてびっくりだな。」と山田が言うと、雪乃が
「葉山恵子に聞けば何かわかるかもしれないね。」と怪訝そうな顔をした。ダイスケは、「この人は、一曲目アップ当初からコメントしていますし、二人の思い過ごしだと思いますよ。」と言ったが、二人はニヤニヤしながら
「ダイスケは、わかっちゃいないな。 綱島くん、この五月ゆみについて身辺調査してみて。」と雪乃が依頼した。
「あれ、五月ゆみさんですが、SNSとかやっていないのかな? 情報がほとんどありませんよ。 不自然ですね?」と綱島が首をかしげながら言うと、山田が「な、ダイちゃん。」と笑顔で言った。
朝から事務所に詰める綱島は、組んだアルゴリズムにより解析された情報に満足気に
「そろそろ、日本でも一度、賛同者による会議を行う必要がありそうです。」と言うと、
雪乃から「学校は?」と問われ、「問題ありませんよ。」と小声で答えた。
何が問題ないのかについてダイスケには分からなかったが、キムジウに会議の調整と集会についての計画を立てるよう依頼すると、キムジウが気まずそうに、
「集会の件なのですが、都立公園等では少なくともひと月前にはイベントの申し込みが必要なようです。」と都立公園に関する各種申し込みについてのウエブサイトを開いて説明した。 ダイスケが、十月末か十一月初旬の土日で、コンサートもできる会場を探すように依頼すると、キムジウが都内と横浜で使用可能な公園のリストを提示した。 みんなで、提示された公園のホームページを確認し、横浜の元競馬場の公園で十一月三日に行うことを決定した。
加藤がその場に現れたのは約束の時間から1時間も過ぎてのことであった。生放送をホームページで告知していたため、十万人ほどが、時間になると視聴していたが、現れない加藤に業を煮やした視聴者のコメントに対し、千鶴とキムジウが答えるという対応によりさらに視聴数が増えていた。 現れた加藤は悪びれる様子もなく席に着くと、ICレコーダーを手に「始めますか?」と言い、千鶴とキムジウに卑しい目を向けた。
戸惑う二人に加藤は、「お宅らから申し出があったんだろう。言いたいことを言えばいい。」とにやりと笑った。
キムジウが「今回、書かれた記事でテロ組織と書かれていますが、我々はホームページで主張した通り、日本国政府ができない慰安婦、個人への救済の手伝いを、」と言うと、
話を遮るように加藤が「国が解決積みと言っているのに、話を蒸し返し、ややこしくする。これが反政府的運動でなくて何だ?」と凄んだ。
千鶴が、「では加藤さん、あなたは今の日韓関係についてはどう思いますか?」と聞くと、「もともと、韓国が日本に対して無礼を何回も繰り返すからこういうことになったのだろう? 何が問題なのか理解もせずに、問題、問題って。お嬢ちゃんたち少し社会勉強した方がいいだろ。」と頭ごなしに言った。 この男は、典型的なステレオタイプであり、我々の主張について全く理解できない人間だと二人は見抜いていた。 そう思うと彼の傲慢な態度も、威嚇するような視線も怖くなくなった。
「加藤さん、単純な話をしましょう。あなたに娘がいて、もしその子が売春をしていたと聞いたらあなたはどう思いますか?」と千鶴が聞くと、
加藤は、「まあ、俺には娘はいないが、したかったのなら仕方ない。気にもしないよ。」と答えた。 加藤は、以前結婚しており、ギャンブルの借金により、元妻を風俗に落としたことがあったし、それが生きるためには仕方ないと思っていたため、これは本心であった。
加藤の回答に対し、キムジウが「“仕方ない”は、加藤さんの考えであり、娘さんの考えではないのではないの?」と指摘した。 確かに、それは俺の考えであると、加藤は、風俗に落とした元妻の言葉を思い出した。
「あなたはそれでいいかももしれない。 でも、私はそれでは済まない。 普通の人生を送れたらって思う。 誰も知らない土地で暮らしても、私の穢れは一生ぬぐえない。」との言葉を残し、加藤の元を去って行った。
キムジウはなおも続けた。「まず、その子が強制された場合と自主的に行った場合に分けて考えてみて。」 小娘に主導権を取られたようで気にいらなかったが、加藤は答えた。
「強制された場合は、強制した奴を犯罪行為で警察に訴えればいいだろう。」
「では、その子の心のケアはどうするの。」キムジウが言うと、
「騙されたほうが悪い。」と加藤は答えた。
「騙された方が悪いと、本当にあなたはその子に言えるの?だから仕方がないと言えるの? 犯人が捕まったから解決したって言えるの?」と千鶴が言葉を畳み込むと、加藤は言葉を失った。
「そのうち犯人は、刑期や賠償を済ませて社会復帰して、娘さんの前に現れて罪を償ったからもう解決積みだと言って、いやらしい目で見つめてきてもあなたは許せるの。」とキムジウが言った。
加藤が「それが法治国家だ。」と怒鳴りつけると、
「そうね、でも許せない気持ちは残らないかしら。 その子が持つ憎しみや後悔、自己嫌悪の言葉に、もう解決積みだからお前は黙れって言えるのかしら。」とキムジウが言うと、
「では、どうすれば良いのか?」と加藤は、弱気な言葉を吐いた。
「もう、止めてくれ。」と心の中で加藤は、叫んでいた。
しかし、彼女たちは続けた。
「では、自主的に売春を行った子について考えてみて。」とキムジウが尋ねた。
「それは自己責任だから問題ない。」と加藤が言うとキムジウが指摘した。
「慰安婦問題でよく言われているのは当時17歳位から彼女たちが働かされていたことね。 その位の歳であまり状況を理解せずに働いて、後になって後悔することを責めることができるというの? そういった子を働かせていたことが問題ないと言えるの?」と千鶴が言うと、加藤が
「そういう時代だから仕方なかった。」と言った。その答えに千鶴が
「当時、韓国は日本に統治されていた。 日本は統治していた国だからこそ、そういう状況にしないようにできた時代でもあったと考えることはできなかったのかしら?」と問うと、加藤は、「きれいごとだ。」と指摘した。
「きれいごとかもしれないわ。でも、どこかで解決しないと。 世界では、いまだにアフリカや東南アジアで同様のことが繰り返されているの。 どこかで解決する手段を模索しないと、これからもずっと繰り返されるわ。 こんな世界でいいわけないじゃないの。」
と千鶴が声を荒げた。
「確かに日本政府は、慰安婦問題に色々と対応してきた。 でも、それを解決していないと思う人の声を封じることはできないし、してよい問題でもない。 だったら、誰かが一緒にどうしたら解決できるかを模索することは、悪いことだと私は思わないわ。」と千鶴が言うと、山田は何も答えることが出来なかった。
「でも、日本が戦争を起こした時代背景、特に欧米列国が、日本や侵略した国に挑んできたことについても理解したうえで、それでも戦争をしない選択がなかったのかと考えてしまうの。 どんな理由があろうと失われた命は戻らないから。戦争は『悪』だと思うわ。」
その後の加藤は、心ない質問を繰り返すが、いずれの質問も千鶴たちに論破された。
「いずれにしても記事は取り消さないし、謝罪もできない。」と加藤が捨て台詞を吐くと、キムジウが「かまわないわ。 私たちは誤解している人、反感を持つ人たちに対しても一人ひとり対応して行くわ。」と答えた。
対談終了前にキムジウから「わかっているとは思うけどこのアパートには私たちの事務所があるの。 ダイスケさんの愛人どころか、二人とも個人的に二人きりで会ったこともないわ。」と言い放った。
収録が終わると自然と拍手が起こった。仲間たちの笑顔に迎えられた二人は、緊張の糸が切れたのか緩んだ表情をみせた。
「ダイスケさん、如何でした?」と誇らしげに聞く千鶴に、
「よかったよ。但し、相手を説き伏せようとする論法は、注意した方がいいかな。 今回は加藤がわざとそう仕向けていたがね。」とダイスケが指摘すると、少し機嫌を損ねたのかふてくされた様子で「了解。」と答えた。
レオンが「今回のインタビューに早速、英語の字幕を入れてよう。」と言うと、キムジウが「ハングルも必要ね。」と続いた。
ダイスケは、キムジウに「そろそろ、ハングルのできるスタッフが必要じゃないか?」と聞くと、「まだ、大丈夫よ。」と答えたが、
「とにかく学業もあるし、他にやってもらいたいことも増えてくる。 友達で手伝ってくれる奴がいれば、バイトスタッフとして紹介してくれ。」と言うと、少し不満げにキムジウが「わかった。」と答えた。
加藤が記事の謝罪を述べるとダイスケが、「これで知名度が上がった。」と笑顔を見せた。
五月ゆみは、困惑していた。 ダブルメモリーが、加藤と千鶴とキムジウ(仮)のインタビュー翌日という異例の速さで公安の監視対象に指定されたうえ、五月が所属する調査第二部第三部門が担当することになったからだ。 ダブルメモリーの担当となった、調査第二部第三部門は、朝鮮総連や北朝鮮を監視する部門であり、市民団体を監視するのは本来調査第一部第一課が担当する。 その速さといい、担当変更といい何か見えない力が働いたのではと考えたが、下っ端の捜査官である五月が考えても仕方ないことであった。 何れにしても、千鶴とキムジウをユーチューブで見て感動したうえ、ダブルメモリーの活動に感銘を受けた五月が、監視対象とはいえ、場合によっては潜入調査できる立場であることを嬉しく感じると同時に、もし見えない巨大な存在がバックにあったことを想像すると複雑な気持ちになった。
自分が投稿したコメントをもう一度見直し、職業をかくし他の人物として行動すべきかと考えながら、接触の手段を模索していた。 続いて、ダブルメモリーのホームページやNGO申請のために提出された書類に目をとおしながら、この団体についての概要報告と捜査計画書を作成した。 最後に、都内在住の28歳無職の女性でハングルと中国語を扱うことができるので無給でもいいので働きたいと、ダブルメモリーにメールを送った。
五月のメールを山田と雪乃に見せると、山田が「これは公安だな。」と指摘した。 山田の指摘に雪乃が
「大体、無職なのにハングル、中国語ができてしかも無給でいいからなんて、都合のいい人材がいるわけはないよ。」と続いた。 ダイスケは、困惑しつつも
「公安でも使える人材であれば、雇いませんか?もちろん、有給でね。」と言うと二人は了解してくれた。
早速、面接の希望日について問い合わせ、明日の十時に事務所で行うことになった。
「しかし、デモ行進や過激な言動も行っていないのに、このスピードで監視対象になるなんてびっくりだな。」と山田が言うと、雪乃が
「葉山恵子に聞けば何かわかるかもしれないね。」と怪訝そうな顔をした。ダイスケは、「この人は、一曲目アップ当初からコメントしていますし、二人の思い過ごしだと思いますよ。」と言ったが、二人はニヤニヤしながら
「ダイスケは、わかっちゃいないな。 綱島くん、この五月ゆみについて身辺調査してみて。」と雪乃が依頼した。
「あれ、五月ゆみさんですが、SNSとかやっていないのかな? 情報がほとんどありませんよ。 不自然ですね?」と綱島が首をかしげながら言うと、山田が「な、ダイちゃん。」と笑顔で言った。
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