ダークマター~二つの記憶

おはようバス

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みんなの想いとNPO申請

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日曜の朝、起きた千鶴はホームページの掲示板を視ていた。昨日から少し増えたコメントにレスをしていた。 自分に宛てて書かれたわけでもないコメントにも丁寧にレスをしていた。 高校生になってから与えられたスマホは、彼女にとって世界を広げる夢の道具であるかのように思えたが、顔も知らない繋がり日々増えてゆき、それが茨のように彼女の世界を縛って行った。 それでも無責任で、無慈悲なコメントに丁寧に対応するようにしていた。
ダイスケの言う通り、犯した罪はたとえ償ったとしても終わったわけではないことは、理解できたし、自分も、そうすべきだと考えた。 それでも、このことに自分が立ち向かえるか否か自信がなかった。しかも、自分が矢面に立つように話が進んでいることも不安の一つであった。 母の千鳥から朝食を促す声に答え、ダイニングに行くと大好きな卵焼きとジャガイモの味噌汁が用意されていた。
「頂きまーす」と言いつつ箸を運ぶと、千鳥が言った。
「私が千鳥で、あなたが千鶴。 どうしてこの名前が付けられたか覚えている?」
千鳥の問いに、今は、亡き母方の祖父が、鳥類の研究者でだったからでしょと答えると、千鳥は、「それだけではないのよ。」と言った。
「覚えてないかもしれないけど、二人とも千の文字が入っているのは、多くの人たちの思いを考えられる人になることから名付けられたのよ。」
そのことも千鶴は、覚えていた。
「千鶴ここからは、千鶴には話したことはなかったけれど、おじいちゃんは鶏の系統について研究していたの。 鶏は、諸説あるけど、元々東南アジアの密林に生息していたセキソクヤケイが、人の手により交配されて世界に広がった、世界で最も成功した鳥の一種なの。」
鶏が、世界で最も成功した鳥であることを千鶴は、理解できなかった。
「なんで、最も成功したかというとアジアの片隅で、このままいけば、絶滅したかもしれない種が、世界に広がり、今では2千万億羽以上が世界で飼育されているからなの。」
「数が多いことが成功」と考える千鳥の答えに違和感を覚えた。
「種の繁栄が、生物学上の成功と考えればそう言えるかもしれない。 成長した鶏は、体を動かすこともままならない、狭いゲージに移され一生、卵を産む装置にされるか、食用として殺されてしまうの。」
その言葉に千鶴は、暗い工場の機械の一部として機能する鶏の姿を思い浮かべ、声を失った。
「千鶴、人も同じなのよ。戦時下の日本で、生まれた人は、戦争という装置の中で、或いは兵器として、或いは慰安婦として生産され、消費されて行った。 そして、その連鎖は、今もアフリカや中東の紛争地域でも同じように生産され、消費されて行っている。 また我々も現代日本いう装置のなかで、その一部として消費されて行っているだけかもしれないわね。 その意味では、たとえ失敗したとしてもこの活動は千鶴にとっては貴重な経験になるわ。」 確かに、その通りである。
「多くの人の気持ちを掬い取り、少しでも良い世界へ導くことが出来れば、この活動には意味はあるということね。」 千鶴は、力強く言った。

キムジウは朝、母から送られてきたメールに目を通し暗い気分になっていた。元々、日本嫌いの親族から、キムジウの日本留学を問題視した連絡があったらしい。
メールには、「そっちは大丈夫?」との問いがあったため、「問題ない」とのみ返信した。
正月にある親族の集まりで、叔父に会うことになることを考えると気が重かった。 昨年の集まりでも酒に酔った叔父から、とうとうと愛国心と日本の行ってきた行為について語られ、留学を叱責された。 そういった韓国の閉塞感も、日本に逃げだした理由の一つではあったが、まだ片言の日本語で話していた頃に日本で味わったヘイト的な言葉にも傷つけられた。 結局、どこでも同じで、私は韓国人であり、私の本質を理解するまえに周りの個々の感情により定義されてしまう。
午後から予定されている歌の練習では、横浜のカラオケ店で行うことになっていた。 千鶴と千鳥、雪乃、綱島の4人が集まることになっていた。 ダイスケと山田は、その様子から麻雀でもするのであろう。 私がこれから取り組む行動に対し叔父さんを含めた親族や友人は理解してくれるかどうか、キムジウは考えたが答えは出なかった。 但し、ダイスケが話していた、個々に寄り添い挑む姿勢は正しいことだと思った。 私の歌や言葉が人の心に響くかが、問題ではない、挑む姿勢が重要なのだと思った。

雪乃は、はっと、我に返っていた。今月の家賃をダイスケから受け取っていないのである。
元々、事業で財を成した雪乃にとっては、ダイスケからの家賃収入など、些細なものであったが、金があるのに度々遅れるダイスケの態度が気に入らなかった。
雪乃にとってダイスケとの付き合いは、20年以上になっていた。
何回も、酒を酌み交わし、交わした話を思い出していた。
雪乃は、当時から、ダイスケには事業家や活動家としての資質があると見抜いていた一方で、行動を起こさないことにヤキモキしていた。 そんなことを考え、腹が立ってきた雪乃がダイスケの部屋に向かった。 扉を叩き、家賃は?と言うと、ダイスケがトランクスとランニングシャツの姿で、雪乃に家賃の入った袋を渡して来た。 テレビには、愛花の動画が流れていたので、「見ていたのかい」と尋ねると、にやにやしながらダイスケが頷いた。
ダイスケの部屋が、煙草で煙っていた様子に思わず言った。
「煙草、いい加減止めなよ。これからも元気でいてもらわないといけないのだから。」
雪乃は、ダイスケの部屋に強引に入り、窓を開けると言った。 「がんばろうや。」

山田は、その朝そわそわしていた。 久しぶりの麻雀である。
あの日、ダイスケの発言に共感して、雪乃に話したことからこの歯車が回り始め、自分もその一員として忙しく過ごしてきた。 毛嫌いしていたパソコンを克服するのにも時間が掛っていたし、一線を引いた自分にとって、この目まぐるしい日々は、予想をしていなかった。
山田は、徹マンをする意気込みであった。 横須賀中央駅を降りると、昼食に駅前の街中華で、ビールとチャーハンを頬張った。 その店は、今では珍しくなったチャーハンに焼き豚ではなくハムを使用する店であり、もう覚えてないくらい昔から行きつけの店だった。
食後、煙草に火をつけると、突然入ってきた客に嫌な顔をされた。 山田は、火を消して雀荘に向かっていると偶然、ダイスケに出会った。
「ダイちゃん、よお」 ダイスケに山田が声を掛けると、嬉しそうにダイスケも答えた。
「ダイちゃん、俺、役に立っているかい?」
「大丈夫です。山田さんの知識が俺たちの計画の後ろ立てになってくれています。」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいよ。なんか、目まぐるしくってさ。」 
そう言って、雀荘に入ると待合席には、綱島と後藤が、既に来ていた。 綱島に「今日はカラオケに行く予定ではなかったのか?」と、尋ねると綱島が答えた。
「今日は、男の付き合いを優先しました。」
「偉い。」と、山田が声を掛けると、綱島は照れ笑いをしていた。

次の日、雪乃に呼び出されたダイスケが雪乃の部屋に行くと、徹マンで疲れ切った顔の山田が、弱々しい声で「ダイちゃん、お疲れ」と挨拶してきた。 ダイスケは、20時頃に雀荘を出たが、山田と綱島は、今日の7時まで打っていたと綱島が掲示板に書き込んでいた。
山田の労をねぎらいつつも、雪乃に今日呼び出された理由を聞くと、早急にNPO法人を立ち上げる必要があると言われた。
NPO法人とは、特定非営利活動促進法により定められた法人であり、特定非営利活動促進法は、特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により、 ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進することを目的として、平成10年12月に施行されたものだ。 特定非営利活動とは、以下の20種類の分野に該当する活動であり、不特定かつ多数のものの利益に寄与することを目的とするものとされている。
1. 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2. 社会教育の推進を図る活動
3. まちづくりの推進を図る活動
4. 観光の振興を図る活動
5. 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
6. 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
7. 環境の保全を図る活動
8. 災害救援活動
9. 地域安全活動
10. 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
11. 国際協力の活動
12. 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
13. 子どもの健全育成を図る活動
14. 情報化社会の発展を図る活動
15. 科学技術の振興を図る活動
16. 経済活動の活性化を図る活動
17. 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
18. 消費者の保護を図る活動
19. 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
20. 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動

このように定められており、今回の計画では、10、11が該当すると考えられた。 NPO法人を作る大きなメリットとしては、経費を精算できることであり、交通費や会議室を借りた経費が精算できることである。 但し、社員が10名以上必要になることから、現在のメンバーが7名であるため足かせになるが、山田から申請時に5名程度、名義貸しできる人がいるとの提案があった。 NPO法人が認可されるまでに3か月以上かかることを考慮すると、早急に申請する必要がある。 以下の申請書類のうち、ダイスケは雪乃から、土曜日の定例会までに、以下の1と9を作成するよう指示を受けた。
1、定款
2、役員名簿(役員の氏名及び住所又は居所並びに各役員についての報酬の有無を記載)
3、役員の就任承諾書及び誓約書の謄本
4、役員の住所又は居所を証する書面
5、社員のうち 10 人以上の氏名及び住所又は居所を示した書面
6、認証要件に適合することを確認したことを示す書面
7、設立趣旨書
8、設立についての意思の決定を証する議事録の謄本
9、設立当初の事業年度及び翌事業年度の事業計画書
10, 設立当初の事業年度及び翌事業年度の活動予算書

ダイスケは、今回の話と、土曜日の定例会議で法人化について決議することを掲示板に書き込むとともに、法人名を募集することにした。
土曜日、ダイスケは朝の5時から事業計画書の追い込みのため、奮闘していた。
8時になると、千鶴とキムジウの歌が聞こえてきた。 千鶴の力強さとキムジウの果敢無げなハーモニーが感動的であった。 11時前には事業計画書ができたので、ホームページに定款とともにアップした。 千鶴とキムジウに差し入れを買おうと外に出ると青空が眩しかった。 定例会の前に千鶴とキムジウが歌っている部屋に差し入れを持って行き、その歌声を褒めると、二人とも照れた様子で顔を見合わせて笑っていた。 二人は、練習で時間を共有したことで、急速に仲が良くなっていたようで、キムジウの「千鶴、少し、頂戴。」の言葉に「はい、あーん。」と千鶴が自分のホークで食べさせていた。
「そういえば、法人名は決まったの?」とキムジウがダイスケに聞いてきたが、「推薦したいと思っている名前は決まっているが、最終的には皆で決める。」とダイスケが言うと、「わかった。」とだけ答えて、千鶴とコスメの話をし始めた。

定例会では、まず、NPO法人化についての話が出され、同意が得られた。 続いて、法人名についての議題に移ったので、ダイスケよりキムジウのダブルメモリーを押したいとの提案があり、キムジウからダブルメモリーについての説明がなされた。
「ダブルメモリーというのは、韓国人と日本人の、戦後語られてきた戦争の二つの記憶が今回の対立の元となっていると思うの。 だから、この二つの記憶を両国民が理解して、解決することが、今回の計画の理念となるから、こんな名前がいいかなって・・・」
「ついでに」とダイスケが続けた。
「ダブルメモリーの頭文字をとるとDMになる。僕が好きな宇宙科学用語でダークマターという理論を聞いたことがあるかと思うけど。」
全員の顔を見ると「何?それ。」と不思議な顔をしていた。
「ダークマターは銀河を繋げる観測不能の物質で、宇宙が始まるビックバン理論によるとビックバン直後の宇宙は、あまりにも高温で量子同士が結びつくことが出来ない状態にあったが、ダークマターが、物質同士を結び付けることが出来るようにした物質と言われている。 即ち、この物質がなければ、銀河も星も、当然、地球もできなかったんだ。」
「みんなを結び付けるためという意味なの?」
キムジウの問いに頷きつつ、ダイスケが言った。
「そう、それもあるけれど、あることが分かっていながら、観測できない物質というのも、何かに似ていると思わないか?」
「人の感情や思考?」
綱島が答えると、ダイスケは、頷いた。
「だったら、法人名もダークマターでもいいのでは?」とのキムジウの問いに
「だって、言葉のイメージが悪いじゃん。」とダイスケが言うとみんなが、同意し名称はダブルメモリーで決定した。 続いて、綱島から提案された、今後の方針と秘密保持について議論が移った。 ダイスケが作成した実施計画書の内容を検討したところ、今回の計画はホームページを公開するまでは、活動内容を可能な限り情報を隠匿することがカギになる。十分に理解されないままに情報が流出すれば、強いネガティブキャンペーンや理解不十分なまま話題となり、また模倣などにより我々の目的が隠され、失敗する可能性が高まるからとのことであった。 その提案についてみんなの同意が取れるとダイスケは言った。
「千鶴ちゃん、キムジウさん、綱島君。 君たちは、これから人の面前に立って我々の主張を語ることになる。 そこで、差別や偏見について理解してほしい。」
「僕たちは、差別や偏見なんかありませんよ。」と綱島が答えた。
「では、綱島君が、思う韓国人ってどういう人種?」
ダイスケの問いに、「そうですね、お洒落で、ダンスが上手くて。 うーん、執着心が強くて、攻撃的な感じですか。」
「キムジウさんについて、当てはまる点は?」とダイスケが尋ねると、
「お洒落なとこは当てはまるけれど、他は、当てはまらないかな?」
「それが、確証バイアスだ。 確証バイアスは、信念や仮説を検証する際、自分が支持する情報ばかりを集め、反証する情報を集めない、または無視する傾向のことだ。 綱島くんの場合は、マスコミや大人たちにより、そう思わせるステレオタイプの情報を子供のころから繰り返し、受けたことより潜在的に埋め込まれていったことによる。」
「お洒落で、ダンスが上手いは、K-POPの影響で、執着心が強いや攻撃的は、ニュースや周りの大人たちの意見の影響かしら。」 千鶴の質問にダイスケは、「そうだよ。」と答え続けた。
「例えば、一般的に黒人のイメージは、運動神経が高く、暴力的であるというイメージが、また白人は、紳士的で知性が高いというイメージがあることも、我々が持つ確証バイアスであり、このことを理解している俺でさえもその先入観を払拭できない。」
「それが、これからにどう影響するのかしら。」キムジウが不安な表情で聞いた。
「これから我々は、偏った情報により反韓や反日感情を持つ者たちと対峙することになる。 彼らとっては、それが差別や偏見ではなく、事実だと思っているし、彼らにとっての正義だと思っている。 ぶつかる考えに捕らわれ、彼らと対立すれば聖戦を仕掛けられてしまうことになり、さらに言葉による暴力を振るわれることになるだろう。」
「どうすれば、いいのかしら?」と聞くキムジウに、千鶴が閃いたとばかりに
「対話ね。」と、言った。
ダイスケは、千鶴の答えに嬉しそうに頷くと言った。
「彼らと我々の間にある溝は、完全に埋まることはないかもしれない。しかし、埋められるものもあると思う。 彼らの多くは、愛国心や戦争被害に立ち向かうという、自分らが信じる正義の戦士なのだから、その正義の矛先を少しだけ変えられればそれで十分だ。 そしてそれを可能にするのは共感だ。」 ダイスケの言葉にみんなが力強く頷いていた。
「しかし、全く異なったイデオロギーに対し共感を見出すことは難しいのでは?」と
綱島が疑問を呈すると、
「被害者が自分の家族であったならばという考え方であれば、比較的容易に共感を導くことが出来ると思われるし、相手により様々な方法を考えればいい。」とダイスケは答えた。
「共感ね。」と千鶴が周りの仲間を見回し嬉しそうに笑っていた。
動画の撮影は、丁度夕日が窓に差し込む頃に開始された。 夕日に手を取り合い歌う、シルエットが映し出された。 その果敢なげな歌は、みんなの心を打った。 山田は、その顔に似合わぬ涙を浮かべながら「俺がレコード出してやるよ。」と言いながら、にかっと笑った。         撮影に合わせてやって来た愛花も満足そうに「数万回再生されるわ。」と言った。その後、綱島が異なるカットを幾つか撮って、解散となった。 別れ際に綱島が言った。
「水曜日までに編集しますから。 皆、感想くださいね。 来週の定例会で公開することでいいですか?」と当初の予定を言うと、みんなが頷いた。
ダイスケは、部屋に戻り煙草に火を付けると、4リットルの焼酎のボトルからどんぶりに注ぎ、ぐっと乾いた喉に流し込んだ。 これからの展開を思い浮かべながら、焼酎を飲み続けた。 本当に正しいのだろうかと酔った頭に考えが過った。 元慰安婦の人たちにとって、怒りの中心にあるのは日本政府の態度であり天皇からの謝罪であって、日本国民からの対応ではないのではないかと、様々な資料から日本人の幾つかの団体が彼女たちの救済のため活動を行っていた事実はある。 が、いずれの団体も本当の意味で彼女たちに寄り添っていたのかは不明だし、はたして十分であったかどうかもも不明だ。 だから少なくともまだ、彼女たちが生きている間に、出来る限りのことをすることには意味があると・・・・

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