内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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狼心狗肺の報

85. 裏切りの決断

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「おーい! バルタザーク! ダリルフェルド―!」

セルジュはバルタザークたちの拠点が見えてくると大きな声で二人の名前を呼んだ。それに気が付いた二人は作業の手を停めてセルジュの近くまで寄ってくる。

「セルジュ!? どうしたんだ、こんなとこまで?」
「いやー、ちょっと緊急事態でね」
「さっきも東さんの兵か? 数騎がものすごい勢いで南に下って行ったぞ」

セルジュはモパッサの手を借りてホンスから降りると、ここまでの経緯を二人に話すことにした。誤って認識している部分はモパッサの忠告に耳を傾けながら。

「で、どうするべきだと思う?」
「受けるべきじゃあねぇわな。いくら報酬が良くても防ぎきれるはずがねぇ。絶対的に兵が足りないからな」
「オレも同感だ。オレたちが孤立無援となっちまったらお終いだろ」

二人の意見は明確な反対であった。要因はやはり兵力の不足。問題点の洗い出しが終わるとモパッサが一つの提案を行い始めた。

「わかった。では兵力があれば良いんだな?」
「ん? ああ、まあ、そうだな」
「具体的にはどれくらいだ?」

この質問に対して二人は考え込む。先に口を開いたのはバルタザークであった。

「そうだな。攻め込んでくる敵兵の数の半分は欲しいな」

砦や城を落とす場合、籠城している兵の三倍を用意するという兵法の基礎から考えると、半分の兵が居れば落ちないというのは理論的には正解だろう。

「わかった。それでは私が率いていた一五〇名を其方たちに預け、さらにソフィアとその配下二五〇名にこの砦を守らせよう。それでどうだ?」

仮に敵の兵力が四〇〇だったとしても、こちらの兵力は一七〇だ。これであれば充分に勝負になる数字であった。さらにあと二か月もすればこの辺り一帯は雪景色となる。つまり、籠城の選択を取ったとしても二か月で解放となるのだ。

さらにソフィアがこの建設中の砦に籠るのであればミゲル伯爵からの兵は彼女が受け持ってくれるだろう。つまり、セルジュ達は純粋にスポジーニ東辺境伯の相手をしていれば良いと言うことになる。

「うん、悪くはないな。悪くない」

バルタザークとダリルフェルドは互いの目を見合って頷く。この条件であれば二人の腹は決まったようだ。それから褒美に関して、さらに追加を強請り始めた。

「セルジュの陞爵と土地、それに金貨は何枚ほど?」
「確かに。オレたちも命張るわけだから果実酒を浴びるほど飲める額は貰わねぇとな」

モパッサは額に手を当てて息を吐くと三本の指を立てた。それに対し、ダリルフェルドが指を五本立てる。ノーと言えないモパッサはその条件を飲むしかなかった。

「もうこれ以上は飲めんぞ? 良いな?」
「もちろんだとも、なあセルジュ」

バルタザークがセルジュの背中を何度も叩く。セルジュはむせ返りながらモパッサに承諾の意を伝えた。

「じゃあ兵はすぐに手配する。明日中に到着するはずだ」
「よし! 総員、撤収準備!! もたもたするなよーっ!!」

バルタザークの号令で片付けを始める兵士たち。その横でモパッサは懐から羊皮紙を取り出して契約書を作り始めた。そしてモパッサ自身のサインと血判を右下に認めた。

「私が嘘を吐いていると思われたら心外だからな。これを」
「ありがたく。まあ期待に応えられるよう善処します」
「うむ」
「あ、あの! それから、ダンドンとドージェとデグと言う三人組を知りませんか? どうやらそちらに捕まったようなのですが……」
「ふぅむ。聞いたことが無いな。……わかった。調べておこう」

そう言うとそのままモパッサはホンスを走らせて南の方へと向かっていった。おそらくソフィアと合流する予定なのだろう。

セルジュ達は八割がた完成している砦を放棄して自分たちの拠点である不傾館へと舞い戻る。荷車にダナとセルジュを乗せて。
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