内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

inu

文字の大きさ
上 下
88 / 91
狼心狗肺の報

83. 二人の来訪者

しおりを挟む
セイファー歴 756年 10月13日

セルジュの元に三人の伝令が集まっていた。一人はバルタザークが派遣したボルグである。彼はモパッサから聞いた情報をセルジュに伝えにやって来た。

もう一人はジョルト。彼もまた南辺境伯陣営からの情報をセルジュに持ってきた。そして最後はジョイだ。彼はトルスから聞いた情報を伝えに来たのだ。最初に口を開いたのはジョイであった。

「凄い大変だったよ。みんな慌ただしそうにしているし、話なんて聞いてもらえるような雰囲気じゃなかったよ」
「こっちもです。南辺境伯たちは捕まらないし、城には碌な情報が無くて大変でした」
「二人ともありがとう。じゃあ、まずはジョイから報告を利かせてくれ」

セルジュが促すとジョイは見聞きした全てを報告し始めた。スポジーニ東辺境伯は部屋に籠っておりレボルトが政を取り仕切っていること。ダドリックとドッダードルグは重傷を負ってるが命に別状がないこと。そして最後にレボルトが手勢の数騎を連れて南に向かっていったことである。

次に報告をしたのはジョイだ。彼が言うにはダドリックとドッダードルグは討ち取っており、南辺境伯が今もなお追撃中とのことだけである。

最後の報告はボルグだ。ファート領の領都であるアルマナは焼け落ちたと言う報告は既知の情報である。アルマナに生存者は居なかったこと、それからモパッサが言うにはダドリックとドッダードルグは討ち取ったと言うことである。

「うーん、情報が錯綜しているな」

セルジュは頭を抱えて机にへたり込む。大きな相違点と言えばドッダードルグとダドリックの安否だろう。ゲルブムの生死も不明だが恐らくは生きておるまい。そして一番重要なのが南へと向かったレボルトである。

「レボルトが南に向かったというのはミゲル伯爵のところへと向かっているのだろう。スポジーニ東辺境伯とミゲル伯爵が手を結べば追撃中のベルドレッド南辺境伯を挟撃することが出来る」

セルジュが地図に手作りの駒を置いて状況を再現する。もちろん、南辺境伯の位置は推測であるが。

「これは……我々が重要な位置に存在していますね」

ジョルトが呟いた。その通りである。ファート領が崩壊した今、スポジーニ東辺境伯とミゲル伯爵との間にはアシュティア領が存在するのだ。南辺境伯はなんとしてでも此処を奪取してくるだろう。そこで、ボルグが思い出したようにもう一つの情報をセルジュに伝えた。

「あ! そう言えばもう一つ。モパッサって人が『約束を果たす時が来た』だってよ」

セルジュは何のことかわからず、額に手を当てて思い出そうとする。すると、一つだけ思い当たる節があった。それはダドリックが存命中は東辺境伯に味方するが、居なくなったらその限りではないと言う話である。

「いやいやいや! この状況で裏切れるわけないでしょ!!」

今ここでセルジュが南側に与したら袋叩きに合うことは目に見えている。これは東側に組み入る一択だろう。そう考えていると不傾館の表が騒がしくなり始めた。誰か来たようだ。

「坊ちゃま。お客様です」

ドロテアがそう言って表にやって来た人物を中へと通した。その人物と言うのはモパッサその人であった。ジョルトほか二人は素早く席を立ってセルジュの後ろに起立する。

「軍議の最中だったかな? 失礼するぞ」

いつも通り鬱陶しそうな前髪の隙間からこちらに視線を送るモパッサ。セルジュはイヤなタイミングに来られたと考えていたが、それを表情に出さないよう努めた。

「先日の言伝は聞いたかね?」
「ええ。と言ってもたった今ですが」

そう言って暖かいお茶を一口。ドロテアがモパッサのために煎れたお茶を持ってくる。そしてそれを早々に一口。

「なんとも香ばしいお茶だな。風が冷たかったので暖かさが身に沁みる」
「お褒めに預かり光栄です」

モパッサが一息を吐いてから木のカップを机に置く。そして、本題を切り出してきた。

「それで、こちらに与してもらえると考えて良いのかな?」
「申し訳ありませんが、ダドリック殿がご存命の間は東辺境伯側に付く所存です」
「何を馬鹿な!? ダドリックは我々が討ち取ったぞ!!」

驚愕とも憤怒とも形容しがたいモパッサの声が室内に響き渡る。しかし、セルジュは臆することなく淡々と言葉を紡いでいった。

「ですが、東辺境伯側からは重傷を負っているという情報しか入っておりません。身罷られたという確証がございませんので」

ダドリックの死を公表したい南辺境伯側と公表したくない東辺境伯側。死んだという確たる証拠を提出するのは首でも持ってこない限り難しいだろう。

モパッサがうんうんと唸っていると、今度は別の一団がセルジュたちの元を訪れた。偶々、それを窓から覗いていたジョイは大きく声を上げる。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...