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狼心狗肺の報
83. 二人の来訪者
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セイファー歴 756年 10月13日
セルジュの元に三人の伝令が集まっていた。一人はバルタザークが派遣したボルグである。彼はモパッサから聞いた情報をセルジュに伝えにやって来た。
もう一人はジョルト。彼もまた南辺境伯陣営からの情報をセルジュに持ってきた。そして最後はジョイだ。彼はトルスから聞いた情報を伝えに来たのだ。最初に口を開いたのはジョイであった。
「凄い大変だったよ。みんな慌ただしそうにしているし、話なんて聞いてもらえるような雰囲気じゃなかったよ」
「こっちもです。南辺境伯たちは捕まらないし、城には碌な情報が無くて大変でした」
「二人ともありがとう。じゃあ、まずはジョイから報告を利かせてくれ」
セルジュが促すとジョイは見聞きした全てを報告し始めた。スポジーニ東辺境伯は部屋に籠っておりレボルトが政を取り仕切っていること。ダドリックとドッダードルグは重傷を負ってるが命に別状がないこと。そして最後にレボルトが手勢の数騎を連れて南に向かっていったことである。
次に報告をしたのはジョイだ。彼が言うにはダドリックとドッダードルグは討ち取っており、南辺境伯が今もなお追撃中とのことだけである。
最後の報告はボルグだ。ファート領の領都であるアルマナは焼け落ちたと言う報告は既知の情報である。アルマナに生存者は居なかったこと、それからモパッサが言うにはダドリックとドッダードルグは討ち取ったと言うことである。
「うーん、情報が錯綜しているな」
セルジュは頭を抱えて机にへたり込む。大きな相違点と言えばドッダードルグとダドリックの安否だろう。ゲルブムの生死も不明だが恐らくは生きておるまい。そして一番重要なのが南へと向かったレボルトである。
「レボルトが南に向かったというのはミゲル伯爵のところへと向かっているのだろう。スポジーニ東辺境伯とミゲル伯爵が手を結べば追撃中のベルドレッド南辺境伯を挟撃することが出来る」
セルジュが地図に手作りの駒を置いて状況を再現する。もちろん、南辺境伯の位置は推測であるが。
「これは……我々が重要な位置に存在していますね」
ジョルトが呟いた。その通りである。ファート領が崩壊した今、スポジーニ東辺境伯とミゲル伯爵との間にはアシュティア領が存在するのだ。南辺境伯はなんとしてでも此処を奪取してくるだろう。そこで、ボルグが思い出したようにもう一つの情報をセルジュに伝えた。
「あ! そう言えばもう一つ。モパッサって人が『約束を果たす時が来た』だってよ」
セルジュは何のことかわからず、額に手を当てて思い出そうとする。すると、一つだけ思い当たる節があった。それはダドリックが存命中は東辺境伯に味方するが、居なくなったらその限りではないと言う話である。
「いやいやいや! この状況で裏切れるわけないでしょ!!」
今ここでセルジュが南側に与したら袋叩きに合うことは目に見えている。これは東側に組み入る一択だろう。そう考えていると不傾館の表が騒がしくなり始めた。誰か来たようだ。
「坊ちゃま。お客様です」
ドロテアがそう言って表にやって来た人物を中へと通した。その人物と言うのはモパッサその人であった。ジョルトほか二人は素早く席を立ってセルジュの後ろに起立する。
「軍議の最中だったかな? 失礼するぞ」
いつも通り鬱陶しそうな前髪の隙間からこちらに視線を送るモパッサ。セルジュはイヤなタイミングに来られたと考えていたが、それを表情に出さないよう努めた。
「先日の言伝は聞いたかね?」
「ええ。と言ってもたった今ですが」
そう言って暖かいお茶を一口。ドロテアがモパッサのために煎れたお茶を持ってくる。そしてそれを早々に一口。
「なんとも香ばしいお茶だな。風が冷たかったので暖かさが身に沁みる」
「お褒めに預かり光栄です」
モパッサが一息を吐いてから木のカップを机に置く。そして、本題を切り出してきた。
「それで、こちらに与してもらえると考えて良いのかな?」
「申し訳ありませんが、ダドリック殿がご存命の間は東辺境伯側に付く所存です」
「何を馬鹿な!? ダドリックは我々が討ち取ったぞ!!」
驚愕とも憤怒とも形容しがたいモパッサの声が室内に響き渡る。しかし、セルジュは臆することなく淡々と言葉を紡いでいった。
「ですが、東辺境伯側からは重傷を負っているという情報しか入っておりません。身罷られたという確証がございませんので」
ダドリックの死を公表したい南辺境伯側と公表したくない東辺境伯側。死んだという確たる証拠を提出するのは首でも持ってこない限り難しいだろう。
モパッサがうんうんと唸っていると、今度は別の一団がセルジュたちの元を訪れた。偶々、それを窓から覗いていたジョイは大きく声を上げる。
セルジュの元に三人の伝令が集まっていた。一人はバルタザークが派遣したボルグである。彼はモパッサから聞いた情報をセルジュに伝えにやって来た。
もう一人はジョルト。彼もまた南辺境伯陣営からの情報をセルジュに持ってきた。そして最後はジョイだ。彼はトルスから聞いた情報を伝えに来たのだ。最初に口を開いたのはジョイであった。
「凄い大変だったよ。みんな慌ただしそうにしているし、話なんて聞いてもらえるような雰囲気じゃなかったよ」
「こっちもです。南辺境伯たちは捕まらないし、城には碌な情報が無くて大変でした」
「二人ともありがとう。じゃあ、まずはジョイから報告を利かせてくれ」
セルジュが促すとジョイは見聞きした全てを報告し始めた。スポジーニ東辺境伯は部屋に籠っておりレボルトが政を取り仕切っていること。ダドリックとドッダードルグは重傷を負ってるが命に別状がないこと。そして最後にレボルトが手勢の数騎を連れて南に向かっていったことである。
次に報告をしたのはジョイだ。彼が言うにはダドリックとドッダードルグは討ち取っており、南辺境伯が今もなお追撃中とのことだけである。
最後の報告はボルグだ。ファート領の領都であるアルマナは焼け落ちたと言う報告は既知の情報である。アルマナに生存者は居なかったこと、それからモパッサが言うにはダドリックとドッダードルグは討ち取ったと言うことである。
「うーん、情報が錯綜しているな」
セルジュは頭を抱えて机にへたり込む。大きな相違点と言えばドッダードルグとダドリックの安否だろう。ゲルブムの生死も不明だが恐らくは生きておるまい。そして一番重要なのが南へと向かったレボルトである。
「レボルトが南に向かったというのはミゲル伯爵のところへと向かっているのだろう。スポジーニ東辺境伯とミゲル伯爵が手を結べば追撃中のベルドレッド南辺境伯を挟撃することが出来る」
セルジュが地図に手作りの駒を置いて状況を再現する。もちろん、南辺境伯の位置は推測であるが。
「これは……我々が重要な位置に存在していますね」
ジョルトが呟いた。その通りである。ファート領が崩壊した今、スポジーニ東辺境伯とミゲル伯爵との間にはアシュティア領が存在するのだ。南辺境伯はなんとしてでも此処を奪取してくるだろう。そこで、ボルグが思い出したようにもう一つの情報をセルジュに伝えた。
「あ! そう言えばもう一つ。モパッサって人が『約束を果たす時が来た』だってよ」
セルジュは何のことかわからず、額に手を当てて思い出そうとする。すると、一つだけ思い当たる節があった。それはダドリックが存命中は東辺境伯に味方するが、居なくなったらその限りではないと言う話である。
「いやいやいや! この状況で裏切れるわけないでしょ!!」
今ここでセルジュが南側に与したら袋叩きに合うことは目に見えている。これは東側に組み入る一択だろう。そう考えていると不傾館の表が騒がしくなり始めた。誰か来たようだ。
「坊ちゃま。お客様です」
ドロテアがそう言って表にやって来た人物を中へと通した。その人物と言うのはモパッサその人であった。ジョルトほか二人は素早く席を立ってセルジュの後ろに起立する。
「軍議の最中だったかな? 失礼するぞ」
いつも通り鬱陶しそうな前髪の隙間からこちらに視線を送るモパッサ。セルジュはイヤなタイミングに来られたと考えていたが、それを表情に出さないよう努めた。
「先日の言伝は聞いたかね?」
「ええ。と言ってもたった今ですが」
そう言って暖かいお茶を一口。ドロテアがモパッサのために煎れたお茶を持ってくる。そしてそれを早々に一口。
「なんとも香ばしいお茶だな。風が冷たかったので暖かさが身に沁みる」
「お褒めに預かり光栄です」
モパッサが一息を吐いてから木のカップを机に置く。そして、本題を切り出してきた。
「それで、こちらに与してもらえると考えて良いのかな?」
「申し訳ありませんが、ダドリック殿がご存命の間は東辺境伯側に付く所存です」
「何を馬鹿な!? ダドリックは我々が討ち取ったぞ!!」
驚愕とも憤怒とも形容しがたいモパッサの声が室内に響き渡る。しかし、セルジュは臆することなく淡々と言葉を紡いでいった。
「ですが、東辺境伯側からは重傷を負っているという情報しか入っておりません。身罷られたという確証がございませんので」
ダドリックの死を公表したい南辺境伯側と公表したくない東辺境伯側。死んだという確たる証拠を提出するのは首でも持ってこない限り難しいだろう。
モパッサがうんうんと唸っていると、今度は別の一団がセルジュたちの元を訪れた。偶々、それを窓から覗いていたジョイは大きく声を上げる。
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