内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

狼心狗肺の報

７９. ピンチはチャンス

「たいちょー！ あれ！！」

兵士の一人が指差した方向に目を向けるダリルフェルド。そこには轟々と燃えるアルマナが目に映っていた。とは言え、ダリルフェルドの瞳に映っているアルマナはコメ粒ほどの大きさしかないが、立ち昇る煙が大火事を物語っていた。

「……予定変更だ。こっちに向かうぞ」

ダリルフェルドは独断で砦の建設位置を変更した。それはファート領の領都であるアルマナの北側五キロほどの地点であった。

「よーし！ 急いで設営するぞ！！」

これはかなりリスキーな設営だがダリルフェルドは大丈夫だと踏んでいた。と言うのもアルマナが燃えていると言うことはファート士爵側が劣勢であることを物語っているからだ。

それであれば限界まで近づいた場所に拠点を立ててしまうのが吉と言えよう。ダリルフェルドは鼻歌交じりに設営を開始しているが、兵士たちは気が気でならないだろう。

「ほらほら！ ビビってないでさっさと建てちゃうよー！」

ダナが尻込みしている兵たちに発破をかける。また、ダリルフェルドは兵士の中から一番若い兵を伝令としてセルジュの元に走らせた。もちろん、現場の臨機応変な判断によって砦の場所が変わったことを伝えるために。



セイファー歴　７５６年　１０月９日

セルジュの元に一人の伝令がやってきた。それはダリルフェルドからのものであった。

「あ、あの、隊長が、いやえっと、申し上げます！」
「うん、そんなに慌てなくて良いから落ち着いて」

セルジュはなんとか兵を宥めて用件を聞き出すことに成功した。しかし、それはセルジュの頭を悩ませる内容であった。

「なるほど。ってことはファート領はいよいよ持って危ない、と。うーん、リベルトにも伝えておいた方が良いかもなぁ」

セルジュは頭を抱えて悩む。取り敢えず、追加の人足を派遣しなければならないだろう。それからアルマナから流れ出る流民も確保しておきたいところだ。

セルジュが頭を悩ませているところに幸か不幸かもう一人の伝令が飛び込んできた。それはバルタザークが遣わせたヴェルグであった。

「おう！ セルジュ！！」

ヴェルグがこれまでの経緯をセルジュに話す。やはり情報は鮮度が命と口酸っぱく言ってきた甲斐があったというものだ。この情報をもとにセルジュは一つの判断を下した。

「よし！ ウェルグにえーと……」
「カイです」
「ヴェルグにカイ、二人でバルタザークのところに戻ってくれ。そしてウェルグはそこからリベルトのところに行ってアルマナが炎に包まれたことを伝えてくれ」
「わかった」
「カイはバルタザークたちをダリルフェルドの元へと案内してくれ。大人数で一気に強固な砦を建てるぞ！」
「「はい！」」

こうして二人は館を飛び出して再び走り出すことになった。セルジュはセルジュで追加の食糧と工具の手配に追われるのであった。