83 / 91
狼心狗肺の報
78. アルマナの炎
しおりを挟む「報告させていただきます。使用人に扮していたのはまだ14歳の少年でした。彼は平民で、妹と平民街で買い物をしている時に貴族の女性に声をかけかられ、事情はよく知らずにここへ来たそうです」
「その女性というのは?」
「名は名乗らなかったそうです。黒いマントを羽織り、フードも深く被っていたようで、顔も分からなかったと。彼の母親は病に倒れており、父親は地方貴族の屋敷で使用人として働き、治療費を稼いでいるそうです。事情を知った女性にある人物に飲み物を手渡すだけで、母親の治療費を全額負担するからと雇われたようでして」
おそらくメアリーかルーシーでしょうけど、確認する方法がなさそうね。
「メアリー様には、気分が悪そうな人は3階にある客室へ案内するようにと指示されただけのようです」
「それについてはメアリーも同じように証言しております。ただ、新しい使用人だと思ったという証言については疑念の余地がありますが」
3階までその少年にアルフレッド様を連れてきてもらい、ルーシーと変わって部屋まで連れてくる計画だったのかしら。
「手渡す相手がアルフレッド様だとはいつ指示があったのですか?」
「はい。どうやら自宅に手紙が届いたようで、そこには指示された飲み物を金髪金目の青年にリリーナからだと言って飲ませること。全て飲み切るのを見届けること。数分してその青年の気分が悪くなったら客室へ連れてくること。と記載されていたようです」
その他にも、公爵邸への行き方や着替えは着いてから手渡すこと、この手紙は読んだら焼き捨てるように、と書かれていたそうで。
「公爵邸内にはメイドが入れてくれたそうなのですが、初めて見た公爵家本邸に圧倒されメイドの容姿は覚えていないようです。また、飲ませる相手が殿下であるとは知らなかったようで、知った時は怯えていました」
その少年も何かおかしいと思ったけれど、治療費が必要だから指示通りに動いたみたい。
証拠が何も残っていないから誰も罪に問えないわね。薬草の入ったグラスにはどちらかの指紋が付いているでしょうけど、指紋を取る技術がないし、仮に取れたとしても照合できないし証拠物としてなりたたないのよね…。
私もルーシーから得た情報を共有しておきましょう。
「ホワイトさんですが、メアリーが王都で雇ったメイドとして邸内に入ったと思われます。彼女を同じ馬車に乗せるため、メアリーは私と共に乗るのを拒否したのでしょう。また、彼女が私のドレスを着ていた理由ですが、アルフレッド様が私と間違えるから、だそうです」
「なんだって?」
まぁ…驚くわよね。
「何も分かってないのね、とも言われました。もしかすると二人が協力関係だと思っているのはメアリーだけかもしれません」
「その可能性は高いと私も思います。メアリーはホワイト嬢がリリーナのドレスを着て会場内にいることには気付いていなかったようなので。彼女を公爵邸内に入れたのは脅されたからだと言っていましたが、恐らくその少年を入れるために連れてきたのでしょう」
お兄様も私と同じ考えのようね。やっぱりメアリーの計画を知った上でルーシーはメアリーを裏切るつもりでいるんだわ。それにしても、メアリーはルーシーを信用し過ぎじゃない?
「必ずまた仕掛けてくるだろうな」
早急に薬草の成分を調べ、分かり次第今後の動きを話し合おうと約束し、今日は解散となった。
*
*
「お兄様。メアリーは利用されていることに気付いていないようですが、教えてさしあげないのですか?」
「教えたらメアリーはホワイト嬢を切るだろうな。動きにくくなった彼女は必ず他に使える人間を見つけるだろう。でもそれはメアリーにも言える話だ。このまま二人で動いてもらった方が一番被害が少なく済む」
メアリーが心を入れ替えてくれるといいんだがと言ったお兄様は、どこか寂しそうな顔をしていた。正直私はどっちでもいいけれど、確かに家族を壊したいわけじゃないなと思いながら自室に戻り眠りについた。
------------------
※余談※
利用された少年の母親の治療費はレオニールが利息無しで貸し出し、少年の家族を公爵家の下級使用人として雇った。返済が終わるまで給料は減額支払いになるけど、公爵家の使用人宿舎に食事付きで部屋を与えられ、また家族みんなで住めるので、少年の家族はレオニールに大変感謝しているそう。
レオニールは、この件で恨まれ行動を起こされてから消すよりも、先回りして動いたほうが処理が楽だからそうしただけ。リリーナは兄だけは敵に回したくないと改めて思ったらしい。
「その女性というのは?」
「名は名乗らなかったそうです。黒いマントを羽織り、フードも深く被っていたようで、顔も分からなかったと。彼の母親は病に倒れており、父親は地方貴族の屋敷で使用人として働き、治療費を稼いでいるそうです。事情を知った女性にある人物に飲み物を手渡すだけで、母親の治療費を全額負担するからと雇われたようでして」
おそらくメアリーかルーシーでしょうけど、確認する方法がなさそうね。
「メアリー様には、気分が悪そうな人は3階にある客室へ案内するようにと指示されただけのようです」
「それについてはメアリーも同じように証言しております。ただ、新しい使用人だと思ったという証言については疑念の余地がありますが」
3階までその少年にアルフレッド様を連れてきてもらい、ルーシーと変わって部屋まで連れてくる計画だったのかしら。
「手渡す相手がアルフレッド様だとはいつ指示があったのですか?」
「はい。どうやら自宅に手紙が届いたようで、そこには指示された飲み物を金髪金目の青年にリリーナからだと言って飲ませること。全て飲み切るのを見届けること。数分してその青年の気分が悪くなったら客室へ連れてくること。と記載されていたようです」
その他にも、公爵邸への行き方や着替えは着いてから手渡すこと、この手紙は読んだら焼き捨てるように、と書かれていたそうで。
「公爵邸内にはメイドが入れてくれたそうなのですが、初めて見た公爵家本邸に圧倒されメイドの容姿は覚えていないようです。また、飲ませる相手が殿下であるとは知らなかったようで、知った時は怯えていました」
その少年も何かおかしいと思ったけれど、治療費が必要だから指示通りに動いたみたい。
証拠が何も残っていないから誰も罪に問えないわね。薬草の入ったグラスにはどちらかの指紋が付いているでしょうけど、指紋を取る技術がないし、仮に取れたとしても照合できないし証拠物としてなりたたないのよね…。
私もルーシーから得た情報を共有しておきましょう。
「ホワイトさんですが、メアリーが王都で雇ったメイドとして邸内に入ったと思われます。彼女を同じ馬車に乗せるため、メアリーは私と共に乗るのを拒否したのでしょう。また、彼女が私のドレスを着ていた理由ですが、アルフレッド様が私と間違えるから、だそうです」
「なんだって?」
まぁ…驚くわよね。
「何も分かってないのね、とも言われました。もしかすると二人が協力関係だと思っているのはメアリーだけかもしれません」
「その可能性は高いと私も思います。メアリーはホワイト嬢がリリーナのドレスを着て会場内にいることには気付いていなかったようなので。彼女を公爵邸内に入れたのは脅されたからだと言っていましたが、恐らくその少年を入れるために連れてきたのでしょう」
お兄様も私と同じ考えのようね。やっぱりメアリーの計画を知った上でルーシーはメアリーを裏切るつもりでいるんだわ。それにしても、メアリーはルーシーを信用し過ぎじゃない?
「必ずまた仕掛けてくるだろうな」
早急に薬草の成分を調べ、分かり次第今後の動きを話し合おうと約束し、今日は解散となった。
*
*
「お兄様。メアリーは利用されていることに気付いていないようですが、教えてさしあげないのですか?」
「教えたらメアリーはホワイト嬢を切るだろうな。動きにくくなった彼女は必ず他に使える人間を見つけるだろう。でもそれはメアリーにも言える話だ。このまま二人で動いてもらった方が一番被害が少なく済む」
メアリーが心を入れ替えてくれるといいんだがと言ったお兄様は、どこか寂しそうな顔をしていた。正直私はどっちでもいいけれど、確かに家族を壊したいわけじゃないなと思いながら自室に戻り眠りについた。
------------------
※余談※
利用された少年の母親の治療費はレオニールが利息無しで貸し出し、少年の家族を公爵家の下級使用人として雇った。返済が終わるまで給料は減額支払いになるけど、公爵家の使用人宿舎に食事付きで部屋を与えられ、また家族みんなで住めるので、少年の家族はレオニールに大変感謝しているそう。
レオニールは、この件で恨まれ行動を起こされてから消すよりも、先回りして動いたほうが処理が楽だからそうしただけ。リリーナは兄だけは敵に回したくないと改めて思ったらしい。
0
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
黒の創造召喚師
幾威空
ファンタジー
※2021/04/12 お気に入り登録数5,000を達成しました!ありがとうございます!
※2021/02/28 続編の連載を開始しました。
■あらすじ■
佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡してしまう。しかも、神様の「手違い」によって。
そんな継那は神様から転生の権利を得、地球とは異なる異世界で第二の人生を歩む。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる