内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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狼心狗肺の報

77. ラドリクの決断

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そのころ、リベルトたちはサーヤラ村へと急いでいた。想定通り、この村まで戦火が広がっているようであった。賊と思われる輩と村人たちが争っているのが見える。

「バルタザーク殿!」
「分かってるっ!!」

バルタザークたちは停止し、深呼吸を三回挟んでから隊列を組み直す。その間にリベルトたちは村の中へ入り込もうと試みる。

「オレたちはファート家の者だ。道を開けてくれ!」

厳密にはファート家を離れているのだが、それがサーヤラ村の者にまで伝わっているはずもない。また、リベルトの顔を知っている村民も中には居たため、あっさりと村の中に入ることが出来た。

「ラドリク! 居るか!?」
「おお! これは若様」

ラドリクの元へ駆け寄るリベルト。ラドリクの顔はやつれており、疲れが露わになっていた。

「色々と言いたいことはあるだろうが、今は目の前の賊を倒すことが先決だ。別動隊が横撃を仕掛けている。戦える人間はオレに付いてきてくれ」

リベルトは言いたいことを言ってゲティスを伴って渦中へと身を投じる。ラドリクも戦える兵を纏めてリベルトの後を追っていった。



「なんとかなったようだな」

リベルトがもの言わなくなった賊を見下しながら呟く。その後ろからラドリクが歩み寄って来ていた。

「ありがとうございます。若様」
「若様は止せ。もうオレはリベルト=ベルフだ」
「そうでしたな。では、リベルトさまは何故ここに?」

ラドリクがその質問を投げ掛けたとき、バルタザークの指示で全員がリベルトの後ろに並んだ。その数はゲティスたち含めておよそ二〇名。

「この村を奪いに来た。手荒なことはしなくない。今までと同じ統治も認める。だからオレたちの元に下ってくれないか」

リベルトは正直に思いを伝えた。というのも、この地を抑えることでリベルトたちの食糧問題は大きく変わってくる。ただ、ヤーサラ村がファート領の西側に位置しているため、リベルトが今拠点にしている砦から大きく距離が出てしまうことだけが難点であった。

「それは、御父上であるゲルブムさまを裏切って、リベルトさまに仕えよ、と?」
「そうだ。まぁ父上がご存命かどうか怪しいところではあるがな」

それを言うなり、ラドリクは口を慎んでしまった。どうやら熟考しているようだ。リベルトはその間に兵に休息を与えることにした。

「リベルトさま、もしゲルブムさまがお亡くなりになっていた場合にリベルトさまに下る、と言うのは如何でしょうか」

ラドリクとしてはこの案が通れば最上と言ったところだろう。何せゲルブムが亡くなった後にその息子に仕えることが出来るのだから。しかし、リベルトがこれを良しとはしなかった。

「ダメだ。それでは今回お前を助けた私は骨折り損ではないか。今すぐ、ここで選べ。私に忠誠を誓うか、私と戦うか」

これはラドリクにとって苦渋の決断である。しかし、生まれたときから見知っているリベルトを手にかける勇気をラドリクは持ち合わせていなかった。

「……わかりました。リベルトさまにお仕えしましょう」
「ありがとう、ラドリク。お前がその決断をしてくれてオレは本当に嬉しい! お前はオレの父親代わりだ。これからもオレを見守っていてくれ」
「はい、若様」

ラドリクはリベルトの元に下る決心をし、そして二人は互いの手を取り合った。

「バルタザーク殿は居るか?」
「なんだい?」
「うん、これから私はここを拠点に移す。だからあの砦も村も丸っとセルジュに譲ると伝えておいてくれ。これで貸し借りは無しだ、と」

バルタザークたちを借りた代わりに村と砦を渡すとリベルトは約束をした。とはいえ、リベルトの方が得たものは多いだろう。

「わかった。じゃあ、オレたちは戻るぞ」
「ああ、ありがとう」

リベルトはバルタザークに謝辞を述べると、東に住まう父の安否に思いを馳せるのであった。
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