内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

狼心狗肺の報

７５. 憎悪のキャスパー

「申し上げます！　賊が城下を荒らし回っております！　対処が追い付きません！」
「わかっておる！　住民の非難を最優先にせよ！　城の中には決して入れるでないぞ！」

ベルドレッド南辺境伯が救援を決定する一日前。ゲルブムは最前線に立って指揮を振るっていた。城壁の上からは城下町が一望できる。町のそこかしこから火の手が上がっていた。煤けて濁った煙が天へと伸びている。

流れ込んできた賊の数は二〇〇を越えていた。おそらく、誰かが裏で手引きしているのだろうとゲルブムにも理解できていた。

そこへ、急ぎの用とばかりに煤まみれになった兵が一名、ゲルブムの前へと駆け込んできた。

「申し上げます！　敵の首謀者はキャスパー殿です！」
「なんだと！？」

まさに寝耳に水とはこのことであった。その報を聞いてゲルブムの思考が停止する。しかし、そんな時間が許されるわけもなく次々と悪い知らせがゲルブムの元へと集まってきたのであった。

キャスパーは城下町を破壊しながらゲルブムの居るアルマナ城へと向かっていた。もう一隊を率いている外套の男は町の至る所から略奪を開始してる。

食糧、貴金属、布に皮など手当たり次第の略奪だ。もちろん、こちらも派手に町を破壊していた。キャスパーは憎悪の言葉をまき散らしながら全てが憎いと言ったように兵たちを斬り捨てて進む。

「オレからコンコール領を勝手に奪いやがって！　絶対に許さんぞ、ゲルブムゥゥッ！！」

キャスパーが早々に城門前までやってきてしまったので仕方なく門を閉じて籠城することを決断するゲルブム。こうしてキャスパー対ゲルブムの戦いの火ぶたが切って落とされたのであった。

◇　◇　◇

「ギース殿からの報告です。キャスパーとともに城下へと侵攻済みとのこと」

その報告を聞いて上機嫌となったミゲル伯爵その人は、細い目を更に細めて上機嫌に頷いた。計画が成功する確信が持てたミゲル伯爵は自身も救援目的で兵を率いるのであった。

用意周到に準備していた兵二〇〇と共にファート士爵領へと進軍するミゲル伯爵。部下の一人が伯爵に今後の予定を尋ねた。

「まずはファート領の南側を占領するぞ。村の名前はモルツ村であったな。どうせ領主のバーグは領都に籠りっきりよ。実効支配するぞ。ああ、誰か先行して賊に根回ししとけ。死にたくないならどけろ、とな」

そう言うなり、一人の兵が荷物少なく駆け出していった。こうして、ミゲル伯爵の野望が着々とファート領を侵していくのであった。