内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

inu

文字の大きさ
上 下
74 / 91
閑話

バルタとダリルの逃避行

しおりを挟む
「この辺りにも兵がウジャウジャいるな」

バルタザークがダリルフェルドと隠れている間にベルドレッド南辺境伯の軍が追撃のために北へ東へと進んできた。そのため、バルタザークの進む先には敵兵がごまんといる状況となっていた。

「こういう時は堂々と知らぬ顔をして通れば良いものさ」

ダリルフェルドは身なりを正して何事もなかったかのように道を北上していく。バルタザークも置いて行かれまいとその後を進む。

「待て! そこの怪しい二人組!!」

案の定、道行く兵士に呼び止められてしまった。平静を装って振り返る二人。そしてダリルフェルドが飄々とした返答を行った。

「何でしょう?」
「武装した男二人がここで何をしている!?」
「イヤな。仕官先を求めて旅をしているんだが、さっきから殺気立った兵士たちが東奔西走しているもんだから何かあったのかなって思ってよ」

二人は上から下までじろじろと見てくる兵士の視線に耐えながら笑顔で返答する。すると、兵士は「ちょっと待ってろ」と言ってどこかへ消えてしまった。

「この隙に逃げちまうか?」
「追われると面倒だ。大人しくしておこうぜ」

ダリルフェルドは大人しく待つことを選んだ。すると、先程の兵士が見目麗しい女性を連れてくるではないか。身体つきは決して太くは無いがしなやかな四肢であることが伺えるその女性は、長い髪を優雅に掻き上げながら二人を睨みつけた。

「おい。『戦乙女のソフィア』だ」

バルタザークが小声でダリルフェルドに伝える。この辺りでは名の知れた人物であった。バルドレッド南辺境伯配下の人物で柔よく剛を制すとは正にこのことと言わんばかりに大男を薙ぎ倒すと言われている女性であった。

「貴様らか。この辺りをうろついていたと言う不審者は」
「不審者? 何も怪しいところはありませなんだが?」

ダリルフェルドが惚ける。しかし、そんなものが通じるはずもなく近づいてきたソフィアに下から顔をまじまじと睨め付けられる結果に。これはこれでご褒美かもしれない。

「何処へ向かう気だ?」
「特に。強いて言うなら仕官させてくれるところだな」
「何処から来た者だ」
「元はレグニス公の騎士団に居た者だ。オレはダリルフェルドでコイツはイゴール。上がゴタゴタしていたんで抜けてきたんだ」

ソフィアはその発言を聞いた後に目を瞑って考えをまとめてから一人の兵士を呼び出すことにした。

「ボンを連れて来い。アイツはレグニス公の騎士団に居たはずだ」

その言葉にダリルフェルドの口角が上がる。ボンとは何度か酒を酌み交わした中であった。この場を乗り切ったことを確信していたダリルフェルドであったが、ボンの口からは無情にも正確な言葉・・・・・が飛び出してきたのであった。

「確かに、コイツはレグニス公のところに居たダリルフェルドに間違いありません。が、もう一人の方は知らぬ顔ですな」

ボンはダリルフェルドに忖度することなく、自身の名誉にかけて正しい答えを口にした。そのことでソフィアの目が厳しく光る。

「ちょ、お前!」
「なんだ? 自分は正しいことを口にしたまで。やましいことでもあるのか?」

返す言葉もなく黙り込んでしまうダリルフェルド。すると、丁度そこをモパッサの隊が北上するために横切ろうとしていた。

「ソフィア。なにを騒いでいる。さっさと追撃に移るぞ」

そう言うとモパッサはバルタザークとダリルフェルドの二人を一瞥すると、「そんな男たちなぞ捨て置け」と言い残して去って行ってしまった。

モパッサはバルタザークの正体に気が付いているだろう。そして、気が付いていたにもかかわらず、敢えて見逃したのだ。

そしてソフィアはモパッサの短い言葉から意を汲み取ることにした。そして汲み取った意は『そんな雑魚二人よりもスポジーニ東辺境伯の首を挙げよ』と言うことであると解釈した。

「……我々も北上してスポジーニの奴を追うぞ」
「「「はっ」」」

去り際にダリルフェルドの肩を叩いていくボン。「この野郎、覚えとけよ」とダリルフェルドは去り際に吐き捨ててやった。

台風一過と言ったところであろうか。周りには人っ子一人いなくなってしまった。

「……いくか」
「あ、ああ」

そうして歩みを進めようとしたところ、一人の兵士がこちらに向かって走ってくるのが見えた。反射的に剣の柄に手を掛ける二人。

しかし、その人物には敵意が無く、それを証明するかのように両手をあげながら近寄ってきた。

「ちょ、敵意はありません。モパッサさまより伝言を賜って来ただけです」

バルタザークがやって来た兵士にその続きを促すと兵士はゆっくりと伝言を伝え始めた。

「『これは貸しにしておく。後程、主から返してもらうぞ』と伝えておけとのことでした」

それだけを言い残して兵士は来た道を帰っていく。

「ま、仕方がないわな」

そう呟くとバルタザークはダリルフェルドを伴ってアシュティア領へと戻っていくのであった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...