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閑話
バルタとダリルの逃避行
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「この辺りにも兵がウジャウジャいるな」
バルタザークがダリルフェルドと隠れている間にベルドレッド南辺境伯の軍が追撃のために北へ東へと進んできた。そのため、バルタザークの進む先には敵兵がごまんといる状況となっていた。
「こういう時は堂々と知らぬ顔をして通れば良いものさ」
ダリルフェルドは身なりを正して何事もなかったかのように道を北上していく。バルタザークも置いて行かれまいとその後を進む。
「待て! そこの怪しい二人組!!」
案の定、道行く兵士に呼び止められてしまった。平静を装って振り返る二人。そしてダリルフェルドが飄々とした返答を行った。
「何でしょう?」
「武装した男二人がここで何をしている!?」
「イヤな。仕官先を求めて旅をしているんだが、さっきから殺気立った兵士たちが東奔西走しているもんだから何かあったのかなって思ってよ」
二人は上から下までじろじろと見てくる兵士の視線に耐えながら笑顔で返答する。すると、兵士は「ちょっと待ってろ」と言ってどこかへ消えてしまった。
「この隙に逃げちまうか?」
「追われると面倒だ。大人しくしておこうぜ」
ダリルフェルドは大人しく待つことを選んだ。すると、先程の兵士が見目麗しい女性を連れてくるではないか。身体つきは決して太くは無いがしなやかな四肢であることが伺えるその女性は、長い髪を優雅に掻き上げながら二人を睨みつけた。
「おい。『戦乙女のソフィア』だ」
バルタザークが小声でダリルフェルドに伝える。この辺りでは名の知れた人物であった。バルドレッド南辺境伯配下の人物で柔よく剛を制すとは正にこのことと言わんばかりに大男を薙ぎ倒すと言われている女性であった。
「貴様らか。この辺りをうろついていたと言う不審者は」
「不審者? 何も怪しいところはありませなんだが?」
ダリルフェルドが惚ける。しかし、そんなものが通じるはずもなく近づいてきたソフィアに下から顔をまじまじと睨め付けられる結果に。これはこれでご褒美かもしれない。
「何処へ向かう気だ?」
「特に。強いて言うなら仕官させてくれるところだな」
「何処から来た者だ」
「元はレグニス公の騎士団に居た者だ。オレはダリルフェルドでコイツはイゴール。上がゴタゴタしていたんで抜けてきたんだ」
ソフィアはその発言を聞いた後に目を瞑って考えをまとめてから一人の兵士を呼び出すことにした。
「ボンを連れて来い。アイツはレグニス公の騎士団に居たはずだ」
その言葉にダリルフェルドの口角が上がる。ボンとは何度か酒を酌み交わした中であった。この場を乗り切ったことを確信していたダリルフェルドであったが、ボンの口からは無情にも正確な言葉が飛び出してきたのであった。
「確かに、コイツはレグニス公のところに居たダリルフェルドに間違いありません。が、もう一人の方は知らぬ顔ですな」
ボンはダリルフェルドに忖度することなく、自身の名誉にかけて正しい答えを口にした。そのことでソフィアの目が厳しく光る。
「ちょ、お前!」
「なんだ? 自分は正しいことを口にしたまで。やましいことでもあるのか?」
返す言葉もなく黙り込んでしまうダリルフェルド。すると、丁度そこをモパッサの隊が北上するために横切ろうとしていた。
「ソフィア。なにを騒いでいる。さっさと追撃に移るぞ」
そう言うとモパッサはバルタザークとダリルフェルドの二人を一瞥すると、「そんな男たちなぞ捨て置け」と言い残して去って行ってしまった。
モパッサはバルタザークの正体に気が付いているだろう。そして、気が付いていたにもかかわらず、敢えて見逃したのだ。
そしてソフィアはモパッサの短い言葉から意を汲み取ることにした。そして汲み取った意は『そんな雑魚二人よりもスポジーニ東辺境伯の首を挙げよ』と言うことであると解釈した。
「……我々も北上してスポジーニの奴を追うぞ」
「「「はっ」」」
去り際にダリルフェルドの肩を叩いていくボン。「この野郎、覚えとけよ」とダリルフェルドは去り際に吐き捨ててやった。
台風一過と言ったところであろうか。周りには人っ子一人いなくなってしまった。
「……いくか」
「あ、ああ」
そうして歩みを進めようとしたところ、一人の兵士がこちらに向かって走ってくるのが見えた。反射的に剣の柄に手を掛ける二人。
しかし、その人物には敵意が無く、それを証明するかのように両手をあげながら近寄ってきた。
「ちょ、敵意はありません。モパッサさまより伝言を賜って来ただけです」
バルタザークがやって来た兵士にその続きを促すと兵士はゆっくりと伝言を伝え始めた。
「『これは貸しにしておく。後程、主から返してもらうぞ』と伝えておけとのことでした」
それだけを言い残して兵士は来た道を帰っていく。
「ま、仕方がないわな」
そう呟くとバルタザークはダリルフェルドを伴ってアシュティア領へと戻っていくのであった。
バルタザークがダリルフェルドと隠れている間にベルドレッド南辺境伯の軍が追撃のために北へ東へと進んできた。そのため、バルタザークの進む先には敵兵がごまんといる状況となっていた。
「こういう時は堂々と知らぬ顔をして通れば良いものさ」
ダリルフェルドは身なりを正して何事もなかったかのように道を北上していく。バルタザークも置いて行かれまいとその後を進む。
「待て! そこの怪しい二人組!!」
案の定、道行く兵士に呼び止められてしまった。平静を装って振り返る二人。そしてダリルフェルドが飄々とした返答を行った。
「何でしょう?」
「武装した男二人がここで何をしている!?」
「イヤな。仕官先を求めて旅をしているんだが、さっきから殺気立った兵士たちが東奔西走しているもんだから何かあったのかなって思ってよ」
二人は上から下までじろじろと見てくる兵士の視線に耐えながら笑顔で返答する。すると、兵士は「ちょっと待ってろ」と言ってどこかへ消えてしまった。
「この隙に逃げちまうか?」
「追われると面倒だ。大人しくしておこうぜ」
ダリルフェルドは大人しく待つことを選んだ。すると、先程の兵士が見目麗しい女性を連れてくるではないか。身体つきは決して太くは無いがしなやかな四肢であることが伺えるその女性は、長い髪を優雅に掻き上げながら二人を睨みつけた。
「おい。『戦乙女のソフィア』だ」
バルタザークが小声でダリルフェルドに伝える。この辺りでは名の知れた人物であった。バルドレッド南辺境伯配下の人物で柔よく剛を制すとは正にこのことと言わんばかりに大男を薙ぎ倒すと言われている女性であった。
「貴様らか。この辺りをうろついていたと言う不審者は」
「不審者? 何も怪しいところはありませなんだが?」
ダリルフェルドが惚ける。しかし、そんなものが通じるはずもなく近づいてきたソフィアに下から顔をまじまじと睨め付けられる結果に。これはこれでご褒美かもしれない。
「何処へ向かう気だ?」
「特に。強いて言うなら仕官させてくれるところだな」
「何処から来た者だ」
「元はレグニス公の騎士団に居た者だ。オレはダリルフェルドでコイツはイゴール。上がゴタゴタしていたんで抜けてきたんだ」
ソフィアはその発言を聞いた後に目を瞑って考えをまとめてから一人の兵士を呼び出すことにした。
「ボンを連れて来い。アイツはレグニス公の騎士団に居たはずだ」
その言葉にダリルフェルドの口角が上がる。ボンとは何度か酒を酌み交わした中であった。この場を乗り切ったことを確信していたダリルフェルドであったが、ボンの口からは無情にも正確な言葉が飛び出してきたのであった。
「確かに、コイツはレグニス公のところに居たダリルフェルドに間違いありません。が、もう一人の方は知らぬ顔ですな」
ボンはダリルフェルドに忖度することなく、自身の名誉にかけて正しい答えを口にした。そのことでソフィアの目が厳しく光る。
「ちょ、お前!」
「なんだ? 自分は正しいことを口にしたまで。やましいことでもあるのか?」
返す言葉もなく黙り込んでしまうダリルフェルド。すると、丁度そこをモパッサの隊が北上するために横切ろうとしていた。
「ソフィア。なにを騒いでいる。さっさと追撃に移るぞ」
そう言うとモパッサはバルタザークとダリルフェルドの二人を一瞥すると、「そんな男たちなぞ捨て置け」と言い残して去って行ってしまった。
モパッサはバルタザークの正体に気が付いているだろう。そして、気が付いていたにもかかわらず、敢えて見逃したのだ。
そしてソフィアはモパッサの短い言葉から意を汲み取ることにした。そして汲み取った意は『そんな雑魚二人よりもスポジーニ東辺境伯の首を挙げよ』と言うことであると解釈した。
「……我々も北上してスポジーニの奴を追うぞ」
「「「はっ」」」
去り際にダリルフェルドの肩を叩いていくボン。「この野郎、覚えとけよ」とダリルフェルドは去り際に吐き捨ててやった。
台風一過と言ったところであろうか。周りには人っ子一人いなくなってしまった。
「……いくか」
「あ、ああ」
そうして歩みを進めようとしたところ、一人の兵士がこちらに向かって走ってくるのが見えた。反射的に剣の柄に手を掛ける二人。
しかし、その人物には敵意が無く、それを証明するかのように両手をあげながら近寄ってきた。
「ちょ、敵意はありません。モパッサさまより伝言を賜って来ただけです」
バルタザークがやって来た兵士にその続きを促すと兵士はゆっくりと伝言を伝え始めた。
「『これは貸しにしておく。後程、主から返してもらうぞ』と伝えておけとのことでした」
それだけを言い残して兵士は来た道を帰っていく。
「ま、仕方がないわな」
そう呟くとバルタザークはダリルフェルドを伴ってアシュティア領へと戻っていくのであった。
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