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暖衣飽食の夢
70. 新たな仲間
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「それで、何があったの?」
ダンプリングとスピナチのヤグィルミルクスープを食べている最中にセルジュはバルタザークに問いかけた。食事の最中くらいゆっくりさせてあげたかったのだが、セルジュが急いてしまったのだ。この辺りはまだ幼い。
その問いの答えをバルタザークは器を置いてゆっくりと話し始めた。バルタザークに与えられた任務のこと。スポジーニ東辺境伯の動き。それからベルドレッド南辺境伯の策など全て。
バルタザークが全て話し終わるとセルジュはピタリと黙り込んでしまった。そして、自身の中で情報を整理してからバルタザークにこう問いかけた。
「これから、ボクたちはどうするべきかな?」
「まずは正確な情報を集めるべきだろう。誤った情報を元に行動すると身を滅ぼすぞ」
「うん、そうだね。ジョルト、悪いけど戦勝祝いを持ってモパッサ殿のところへ行ってくれるかい?」
セルジュは後ろに控えていたジョルトにそう述べた。戦勝祝いは貰った金貨二〇枚をそのまま渡せば良いだろう。そして、欲しい情報をまとめてジョルトに伝えた。
それと、もしかすると三バカも居るかもしれない。情報だけは探ってきて欲しいとジョルトにお願いした。救出は今は難しいだろう。そこは領主として非常な判断を下す場面だと考えていた。
「欲しいのはスポジーニ東辺境伯側の被害状況だ。もちろん卿の安否も含めて。それから敵意がないことも伝えてくれ。くれぐれも頼む」
「かしこまりました」
戦勝祝いを受け取るとジョルトはすぐに南へと旅立った。ジョルトは行動が早くて助かる。そして、それと同時にジョイをスポジーニ東辺境伯の元へと派遣した。
ジョイであればトルスと面識があるので面会にはこじつけるだろう。念のためにお見舞い金として金貨を一〇枚持たせることにする。
決して裕福な懐事情ではないが、ここで出し惜しみして被害を被るのは避けたい。必要経費として割り切ることにした。
「おそらく、このまま南辺境伯が北上するか和平交渉に移ると思う。問題は北上してきた場合だよね」
「そうだな。南さんの味方になるかどうかでアシュティア領の存続も決まってくるんじゃないか?」
セルジュの問いにバルタザークが首肯する。そこまで話してセルジュは客人のまえであることを思い出した。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」
「いえいえ、なかなか興味深いお話でした」
「そう言えば、お前さんはどこに向かっていたんだ?」
バルタザークがダリルフェルドに問いかける。やはり、目的地を変更させてしまった負い目を感じているのだろうか。
「いや、当ては無い旅でな。どこかで仕官出来ればと思っていたんだが」
「それであれば、ここなんかどうだ? 面倒な上官は居ないぞ? 快適さはオレが保証しよう」
ダリルフェルドは本来であればベルドレッド南辺境伯に仕官しようと考えていたのだが、確かに面倒な上官が居ないことは魅力的であった。
と言うのも、彼も前のレグニス公に仕えていた時分は外戚や内戚のゴタゴタに巻き込まれて大変な目に合っていた。
「そうだな……。じゃあ。一つだけ聞かせて欲しいことがある」
「なんでしょう?」
ダリルフェルドはこの質問の回答によって仕えるか仕えないかを決めようとしていた。その質問とはこれであった。
「お前は何を目指す」
この質問に対し、セルジュは間髪入れずに回答を叩きつける。これはセルジュの中に燻ぶっている火種である。
「この王国を再統一すること。そして、みんなを幸せにすることだよ」
その言葉を聞いて惚けてしまうダリルフェルド。どうやら想定外の言葉がセルジュの口から飛び出したようだ。
「なんだ。笑わないの? 自分でも大言壮語を吐いている自覚はあるんだけどね」
「あ、いや、なかなか興味深い答えだ。そういう大きな絵を描くヤツは嫌いじゃないぞ」
セルジュは所詮、騎士という準貴族の家格だ。貴族にすらなっていない男が王国を再統一して戦乱を無くすというのだから大言壮語も良いところだろう。
ダリルフェルドはセルジュの目をじっと見る。そこから、セルジュが本気でこの国を改革する気であると出会ったばかりのダリルフェルドも感じ取ることが出来た。
ダリルフェルドも平民の出だ。その現状はセルジュよりもよく理解していることは推して知るべしだろう。
「そうか、そうだな。……じゃあ、お願いしても良いのか?」
「もちろんだ。なぁ?」
バルタザークが強引に話を進める。セルジュは軍務の採用に関してはバルタザークに一任していたため、彼が納得しているのであれば問題はないと考えていた。
しかし、一つだけネックがある。それがお給金だ。
「こちらとしても有り難い話だけど、払える給金はないよ? 衣食住は保証できるけど」
「それでも構わん。ちょっとお前の描く未来を見てみたくなったんでな。それに、ここまで気に入ってもらえるのなら冥利に尽きるってもんだ」
こうしてセルジュはダリルフェルドをバルタザークと同等の待遇で家臣として迎え入れることになった。ダリルフェルドはセルジュの理念に共感したのだ。お金ではない。
そのため、兵を二隊に分けることにした。
バルタザークは今まで通りの十三名を率い、ダリルフェルドは新しく孤児として迎え入れた一〇名を率いることとなった。
「好きに鍛えてくれて構わない。死なせないように厳しく鍛えてくれ」
「承知」
こうして、アシュティア家には『バルタ隊』と『ダリル隊』の二つの部隊が存在することとなった。
ダンプリングとスピナチのヤグィルミルクスープを食べている最中にセルジュはバルタザークに問いかけた。食事の最中くらいゆっくりさせてあげたかったのだが、セルジュが急いてしまったのだ。この辺りはまだ幼い。
その問いの答えをバルタザークは器を置いてゆっくりと話し始めた。バルタザークに与えられた任務のこと。スポジーニ東辺境伯の動き。それからベルドレッド南辺境伯の策など全て。
バルタザークが全て話し終わるとセルジュはピタリと黙り込んでしまった。そして、自身の中で情報を整理してからバルタザークにこう問いかけた。
「これから、ボクたちはどうするべきかな?」
「まずは正確な情報を集めるべきだろう。誤った情報を元に行動すると身を滅ぼすぞ」
「うん、そうだね。ジョルト、悪いけど戦勝祝いを持ってモパッサ殿のところへ行ってくれるかい?」
セルジュは後ろに控えていたジョルトにそう述べた。戦勝祝いは貰った金貨二〇枚をそのまま渡せば良いだろう。そして、欲しい情報をまとめてジョルトに伝えた。
それと、もしかすると三バカも居るかもしれない。情報だけは探ってきて欲しいとジョルトにお願いした。救出は今は難しいだろう。そこは領主として非常な判断を下す場面だと考えていた。
「欲しいのはスポジーニ東辺境伯側の被害状況だ。もちろん卿の安否も含めて。それから敵意がないことも伝えてくれ。くれぐれも頼む」
「かしこまりました」
戦勝祝いを受け取るとジョルトはすぐに南へと旅立った。ジョルトは行動が早くて助かる。そして、それと同時にジョイをスポジーニ東辺境伯の元へと派遣した。
ジョイであればトルスと面識があるので面会にはこじつけるだろう。念のためにお見舞い金として金貨を一〇枚持たせることにする。
決して裕福な懐事情ではないが、ここで出し惜しみして被害を被るのは避けたい。必要経費として割り切ることにした。
「おそらく、このまま南辺境伯が北上するか和平交渉に移ると思う。問題は北上してきた場合だよね」
「そうだな。南さんの味方になるかどうかでアシュティア領の存続も決まってくるんじゃないか?」
セルジュの問いにバルタザークが首肯する。そこまで話してセルジュは客人のまえであることを思い出した。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」
「いえいえ、なかなか興味深いお話でした」
「そう言えば、お前さんはどこに向かっていたんだ?」
バルタザークがダリルフェルドに問いかける。やはり、目的地を変更させてしまった負い目を感じているのだろうか。
「いや、当ては無い旅でな。どこかで仕官出来ればと思っていたんだが」
「それであれば、ここなんかどうだ? 面倒な上官は居ないぞ? 快適さはオレが保証しよう」
ダリルフェルドは本来であればベルドレッド南辺境伯に仕官しようと考えていたのだが、確かに面倒な上官が居ないことは魅力的であった。
と言うのも、彼も前のレグニス公に仕えていた時分は外戚や内戚のゴタゴタに巻き込まれて大変な目に合っていた。
「そうだな……。じゃあ。一つだけ聞かせて欲しいことがある」
「なんでしょう?」
ダリルフェルドはこの質問の回答によって仕えるか仕えないかを決めようとしていた。その質問とはこれであった。
「お前は何を目指す」
この質問に対し、セルジュは間髪入れずに回答を叩きつける。これはセルジュの中に燻ぶっている火種である。
「この王国を再統一すること。そして、みんなを幸せにすることだよ」
その言葉を聞いて惚けてしまうダリルフェルド。どうやら想定外の言葉がセルジュの口から飛び出したようだ。
「なんだ。笑わないの? 自分でも大言壮語を吐いている自覚はあるんだけどね」
「あ、いや、なかなか興味深い答えだ。そういう大きな絵を描くヤツは嫌いじゃないぞ」
セルジュは所詮、騎士という準貴族の家格だ。貴族にすらなっていない男が王国を再統一して戦乱を無くすというのだから大言壮語も良いところだろう。
ダリルフェルドはセルジュの目をじっと見る。そこから、セルジュが本気でこの国を改革する気であると出会ったばかりのダリルフェルドも感じ取ることが出来た。
ダリルフェルドも平民の出だ。その現状はセルジュよりもよく理解していることは推して知るべしだろう。
「そうか、そうだな。……じゃあ、お願いしても良いのか?」
「もちろんだ。なぁ?」
バルタザークが強引に話を進める。セルジュは軍務の採用に関してはバルタザークに一任していたため、彼が納得しているのであれば問題はないと考えていた。
しかし、一つだけネックがある。それがお給金だ。
「こちらとしても有り難い話だけど、払える給金はないよ? 衣食住は保証できるけど」
「それでも構わん。ちょっとお前の描く未来を見てみたくなったんでな。それに、ここまで気に入ってもらえるのなら冥利に尽きるってもんだ」
こうしてセルジュはダリルフェルドをバルタザークと同等の待遇で家臣として迎え入れることになった。ダリルフェルドはセルジュの理念に共感したのだ。お金ではない。
そのため、兵を二隊に分けることにした。
バルタザークは今まで通りの十三名を率い、ダリルフェルドは新しく孤児として迎え入れた一〇名を率いることとなった。
「好きに鍛えてくれて構わない。死なせないように厳しく鍛えてくれ」
「承知」
こうして、アシュティア家には『バルタ隊』と『ダリル隊』の二つの部隊が存在することとなった。
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