内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

暖衣飽食の夢

６９. 待ちわびるセルジュ

セイファー歴　７５６年　１０月５日

セルジュは不傾館の上から今日も西側を見続けていた。そう、バルタザークの帰りを待っているのである。ここ数日、セルジュは時間が空いたら欠かさず西の方向を眺めていた。

「セルジュー。そんな心配しなくても隊長なら大丈夫だってー！」

下からヴェルグがそう叫んでいた。セルジュもバルタザークなら大丈夫だと思っている。いや、思っていたと言う方が正しいかもしてない。

セルジュは聞いてしまったのだ。行商人のビビダデが言うにはスポジーニ東辺境伯はドドスコ草原で大敗を喫したらしい。安否も不明だ、と。

諦めて執務室に戻り、仕事を再開しようとしたところでヴェルグとボルグがセルジュの元へ駆け寄って声を張り上げた。

「「隊長が帰ってきた！！」」

セルジュはその報告を聞くや否や、表に飛び出してヴェルグの指差す方向を凝視した。すると、確かにバルタザークともう一人がこちらに向かっているのが確認できた。

バルタザークの元へと走り出すヴェルグとボルグ。それを見ていたジョイと、勝手について行った罰当番をさせられていたジェイクも駆け出す。

「「「「たいちょー！！」」」」

男の子四人に押し倒されるバルタザーク。どうやら受け止める力は残っていなかったようだ。そんな四人をセルジュは嗜める。

「ほら、あんまりはしゃぐな。バルタザークは疲れているんだから館に連れて行って休ませろ」

そう言ってセルジュはバルタザークを館へと運ぶと、もう一人の男性に丁寧にお礼を述べて一礼する。

「わざわざバルタザークを連れていただきありがとうございます。私はこのアシュティア領の領主であるセルジュ＝コンコール＝アシュティアです」
「いえ、乗りかかった舟ですから。お気になさらず」

ダリルファルドは驚いた。まさかこんな少年に丁寧な挨拶をされるとは思いもよらなかったからだ。そのせいか、ダリルフェルドの口調までもおかしくなってしまった。

「まずは中でお休みください。暖かい食事もご用意します」
「忝い」

ダリルフェルドもお言葉に甘えて館の中で休ませてもらうこととなった。