内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記 ―家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇ―

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暖衣飽食の夢

68. 九死に一生

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「おいおい、こりゃマジかよ」

バルタザークは自身の目を疑った。目の前には血だまりが広がっている地獄絵図が広がっていたからである。バルタザークが通ろうとしている道は夕日に照らされ、尚一層真っ赤に染まっていた。

バルタザークはすぐに身を隠す。そして何が起きているのか理解できていなかった。その隠れたベルタザークの横を一組の兵士の集団が通りかかった。

その瞬間、どこからともなくベルドレッド南辺境伯の兵士たちが現れて一瞬のうちに血まみれの動かぬ人形へと姿を変えられてしまったのであった。

そして、バルタザークの目は捉えた。落ち武者狩りの首謀者を。落ち延びた兵士たちを襲っていた正体はレフェル率いる別動隊である。これを見越して先回りしていたというのだから優秀と言うほかないだろう。

連れている兵は正規兵が一〇〇に農民兵が一〇〇の合計二〇〇である。レフェルは先頭に立って指揮を振るっていた。

「どんどん殺すぞー。逃げ伸びてくる奴は全員敵だ。殺した敵の物は殺ったヤツの物だからなー」

無気力に恐ろしいことを述べるレフェル。その言葉で兵士たちは目をギラつかせながら落ち延びた兵士の喉元を一突きしていた。そして殺した敵兵の懐から血に濡れた食糧を見つけると小躍りしながら喜んで居る。

「こりゃ別の道を通るしかねぇな。ってかまず、この場から見逃してくれるかどうかって感じだが」

バルタザークはここに留まっていては見つかるのは時間の問題だと判断し、呼吸を整えてから逃げるために全力で走り出したのであった。

「いたぞ! 追えーっ!!」

案の定、見つかって追われるバルタザーク。追ってくるのは一〇人前後であった。バルタザークは走りながら考えた。止まって殺ってしまった方が早いのではないか、と。

しかし、一〇人を相手にするのは、いくらバルタザークと言えど無傷では済まないだろう。穏便に済ませることが出来るなら済ませたいところであった。

「こっちだ。兄さん」

その声に導かれるまま右へと曲がるバルタザーク。そして、森の中へと入り込むと声の主の後をついて走るのであった。

流石に森までは追ってこなかった。それもそのはず、一人を追うのにそこまでやっては効率が悪すぎるというもの。兵士たちはレフェルの元へと駆け足で戻っていった。

「ふぅ。助かったぜ」
「なに、困ったときはお互い様だ」

バルタザークはなぜ助けてくれたのかわからなかったが、この場はお礼を述べることにした。そして、ベルドレッド南辺境伯の軍に突き出されないことだけを祈っていた。

「オレの名はバルタザーク。この礼は必ずさせてもらう」
「オレはダリルフェルドだ。ダリルって呼んでくれ。知り合いに似ていたもんでな。つい手助けしてしまった」
「そうか、どこの誰だか知らんがソイツに感謝だな。それならオレもバルトって呼んでくれ」

ダリルフェルドはバルタザークにイゴールの面影を重ねていた。中身は似ても似つかないが、見た目と纏う雰囲気が似ていたのであった。

「それじゃあ遠慮なく。バルタはどこへ向かう予定なんだ?」
「東の方にあるアシュティア領だ。絶賛負け戦中だがな。どうだ? これも何かの縁だ。宛てがないなら一緒にアシュティア領まで行かないか?」

ダリルフェルドはベルドレッド南辺境伯の元へ仕官のために行く予定であった。それはベルドレッド南辺境伯が広く優秀な人材を求めていると噂されていたからであった。

ただ、ダリルフェルドはベルドレッド南辺境伯とはなんの約束もしていないため、少しアシュティア領に寄ってから南辺境伯の元へ行っても構わないだろうと考え始めていた。

「そうだな。乗りかかった船だ。お供してやるよ」

こうしてバルタザークはダリルフェルドを連れてアシュティア領を目指すのであった。
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