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暖衣飽食の夢
67. 激突の結果
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セイファー歴 756年 10月1日
バルタザークはアシュティア領に戻る前にダドリックのところへと足を向けた。現状を報告するためである。本音を言えば真っ直ぐにアシュティア領へと戻りたいところではあった。
しかし、拠点としていたドゴス男爵の居城は少数の守備兵を残し、もぬけの殻となっていた。バルタザークは進軍したのだろうと推測すると戦火に巻き込まれないように隠れながら南下を続けた。
そして、そこでバルタザークが見たものは、蜘蛛の子を散らすようにして逃げるスポジーニ東辺境伯の軍であった。
遡ること数時間前、夜明けとともに軍をすすめたのはスポジーニ東辺境伯であった。ドゴス男爵の館を後にしてベルドレッド南辺境伯が居るであろうティモテ子爵の居城を避けてベルドレッド南辺境伯の領地へと軍を進める。
攻城戦にもつれ込むと今の人数では攻略が出来ないため、ベルドレッド南辺境伯をおびき出すために兵を進めたのであった。
もちろん、ベルドレッド南辺境伯もスポジーニ東辺境伯の考えはわかっていたのだが、敢えて野戦を選択した。それは勝てる算段があったからである。
ティモテ領のドドスコ草原で退治する二つの陣営。このドドスコ草原は四〇センチ程の雑草が生い茂っている平原であった。スポジーニ東辺境伯がこのドドスコ草原に到着するとベルドレッド南辺境伯は既に着陣していた。
スポジーニ東辺境伯が一〇〇〇名に対し、ベルドレッド南辺境伯は八〇〇名となっていた。この時点で数の優位はスポジーニ東辺境伯へと移ることになったのである。
「みろ、ダドリック! あの馬鹿め。まんまと罠に嵌りおったわ」
高笑いをしているのは件のスポジーニ東辺境伯である。勝てると踏んだスポジーニ東辺境伯は全軍を鼓舞するために演説を行った。
「勇敢なる東辺境伯の強者どもよ。復讐の時は来た。我らが同胞のデレフ村を燃やした悪魔どもに正義の鉄槌を下すのだ! 全軍、突撃せよっ!」
戦場に凛とした声が響き渡る。それと同時に先鋒を務めていたドッダードルグが兵を率いて敵陣の中へと突っ込んでいった。
「申し上げます! スポジーニ東辺境伯の軍がこちらに突進して参ります!」
「是非もないな」
ベルドレッド南辺境伯は兵士の報告を冷静に聞きながら突進を受け止めるよう、指示を出した。ベルドレッド南辺境伯の第一陣はエイダム伯爵の軍である。
「おい、援軍はまだか。我々の陣が崩壊するぞ」
エイダム伯爵の軍はドッダードルグの突進を受け止めきれず、陣が大きく凹んだ形となってしまった。しかし、それはベルドレッド南辺境伯側の策略であったのだ。
唐突にラッパが辺り一面に響き渡った。すると西の茂みからナグィス率いる一〇〇の兵が、そして東の茂みから戦乙女と謳われているソフィア率いる二〇〇の兵が突如、起き上がって突撃を仕掛けてきたのである。
伏兵に対する対応が送れたスポジーニ東辺境伯の軍が瓦解するには然程の時間は掛からなかったという。策士策に溺れるとはまさにこのことであり、自身の策が見事にハマったと勘違いして決戦の場の調査を怠ったのが敗因と言えよう。
「よし、一気に畳み掛けろ」
ベルドレッド南辺境伯のその一声で兵士たちが伝令のために慌ただしく動き出す。こうしてベルドレッド南辺境伯の猛反撃が開始されたのであった。
結果、スポジーニ東辺境伯は四〇〇の兵を失い、対してベルドレッド南辺境伯は一〇〇の被害で済んだという。誰がどう見てもベルドレッド南辺境伯の勝利であった。
◇ ◇ ◇
「と言うことだ。もういいだろ! オレは行くぞ!!」
バルタザークは逃げている身なりの良い兵士の一人をとっ捕まえて状況を把握した。もはや既に完全なる負け戦である。
この戦でドッダードルグとダドリックが討ち死にしたとのこと。スポジーニ東辺境伯も安否が不明とだそうだ。ただし、真偽の程は定かではない。
「おう、行け行け」
バルタザークはその兵士を解放し、さらに雇っていた傭兵たちもこの場で解放することにした。あとは無事にアシュティア領まで辿りつくだけである。
「といっても、それが難しいんだがな」
追い打ちを仕掛けてくるベルドレッド南辺境伯の軍を振り切るため、バルタザークは常日頃から兵士たちに伝えていた逃げ足を披露することとなった。
バルタザークはアシュティア領に戻る前にダドリックのところへと足を向けた。現状を報告するためである。本音を言えば真っ直ぐにアシュティア領へと戻りたいところではあった。
しかし、拠点としていたドゴス男爵の居城は少数の守備兵を残し、もぬけの殻となっていた。バルタザークは進軍したのだろうと推測すると戦火に巻き込まれないように隠れながら南下を続けた。
そして、そこでバルタザークが見たものは、蜘蛛の子を散らすようにして逃げるスポジーニ東辺境伯の軍であった。
遡ること数時間前、夜明けとともに軍をすすめたのはスポジーニ東辺境伯であった。ドゴス男爵の館を後にしてベルドレッド南辺境伯が居るであろうティモテ子爵の居城を避けてベルドレッド南辺境伯の領地へと軍を進める。
攻城戦にもつれ込むと今の人数では攻略が出来ないため、ベルドレッド南辺境伯をおびき出すために兵を進めたのであった。
もちろん、ベルドレッド南辺境伯もスポジーニ東辺境伯の考えはわかっていたのだが、敢えて野戦を選択した。それは勝てる算段があったからである。
ティモテ領のドドスコ草原で退治する二つの陣営。このドドスコ草原は四〇センチ程の雑草が生い茂っている平原であった。スポジーニ東辺境伯がこのドドスコ草原に到着するとベルドレッド南辺境伯は既に着陣していた。
スポジーニ東辺境伯が一〇〇〇名に対し、ベルドレッド南辺境伯は八〇〇名となっていた。この時点で数の優位はスポジーニ東辺境伯へと移ることになったのである。
「みろ、ダドリック! あの馬鹿め。まんまと罠に嵌りおったわ」
高笑いをしているのは件のスポジーニ東辺境伯である。勝てると踏んだスポジーニ東辺境伯は全軍を鼓舞するために演説を行った。
「勇敢なる東辺境伯の強者どもよ。復讐の時は来た。我らが同胞のデレフ村を燃やした悪魔どもに正義の鉄槌を下すのだ! 全軍、突撃せよっ!」
戦場に凛とした声が響き渡る。それと同時に先鋒を務めていたドッダードルグが兵を率いて敵陣の中へと突っ込んでいった。
「申し上げます! スポジーニ東辺境伯の軍がこちらに突進して参ります!」
「是非もないな」
ベルドレッド南辺境伯は兵士の報告を冷静に聞きながら突進を受け止めるよう、指示を出した。ベルドレッド南辺境伯の第一陣はエイダム伯爵の軍である。
「おい、援軍はまだか。我々の陣が崩壊するぞ」
エイダム伯爵の軍はドッダードルグの突進を受け止めきれず、陣が大きく凹んだ形となってしまった。しかし、それはベルドレッド南辺境伯側の策略であったのだ。
唐突にラッパが辺り一面に響き渡った。すると西の茂みからナグィス率いる一〇〇の兵が、そして東の茂みから戦乙女と謳われているソフィア率いる二〇〇の兵が突如、起き上がって突撃を仕掛けてきたのである。
伏兵に対する対応が送れたスポジーニ東辺境伯の軍が瓦解するには然程の時間は掛からなかったという。策士策に溺れるとはまさにこのことであり、自身の策が見事にハマったと勘違いして決戦の場の調査を怠ったのが敗因と言えよう。
「よし、一気に畳み掛けろ」
ベルドレッド南辺境伯のその一声で兵士たちが伝令のために慌ただしく動き出す。こうしてベルドレッド南辺境伯の猛反撃が開始されたのであった。
結果、スポジーニ東辺境伯は四〇〇の兵を失い、対してベルドレッド南辺境伯は一〇〇の被害で済んだという。誰がどう見てもベルドレッド南辺境伯の勝利であった。
◇ ◇ ◇
「と言うことだ。もういいだろ! オレは行くぞ!!」
バルタザークは逃げている身なりの良い兵士の一人をとっ捕まえて状況を把握した。もはや既に完全なる負け戦である。
この戦でドッダードルグとダドリックが討ち死にしたとのこと。スポジーニ東辺境伯も安否が不明とだそうだ。ただし、真偽の程は定かではない。
「おう、行け行け」
バルタザークはその兵士を解放し、さらに雇っていた傭兵たちもこの場で解放することにした。あとは無事にアシュティア領まで辿りつくだけである。
「といっても、それが難しいんだがな」
追い打ちを仕掛けてくるベルドレッド南辺境伯の軍を振り切るため、バルタザークは常日頃から兵士たちに伝えていた逃げ足を披露することとなった。
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